122・おかわりもいいぞって話
「うめ、うめ」
パクパクとホットケーキをパクつく精霊王たちとリリシュとルキフ。
精霊王たちは甘い物が好みなのかよく食べていたが、リリシュとルキフの食べっぷりはなんか以外だった。
元魔王なのだから、贅沢の限りを尽くした食事とかよく食べてたと思うのだが、デイジー叔父さん特製のホットケーキを一心不乱に食べ続ける様は異様にすら映った。
「あー、魔族って魔力の供給さえあれば基本的に死ぬ事はないから、魔王国では食文化があまり育ってないんよ、リベルタ―って町以外は。魔力を多く含んだ物を経口摂取する事で魔力を補給する事もあるみたいだけど、味にはそこまでこだわってなかったらしいんよ。で、小生が二人に出会った時、魔力不足の腹ペコで倒れてたから、たまたま持ってたお饅頭をあげたら、リベルタ―って町で提供されてるスイーツよりも甘くて美味しいってドはまりしたんよね。それからは魔力補給関係なくスイーツ寄越せって言われてたんよねー」
パルカから魂を返してもらい、更に死なされていた首から下の体から死を奪われた事で、トシユキは普通に動けるようになっていた。
命を奪うのではなく死を与え、奪う、それがパルカの権能らしい。
死神ではなく死の神だから、と言う事なのだろうか。
それはそれとして、なるほど、リリシュとルキフは食べた事のない味に衝撃を受けて、スイーツ系の食べ物にのめり込んだのか。
どうりで、ホットケーキをむさぼり食っている訳だ。
というか、二人で先を争ってホットケーキを奪い合っている。
デイジー叔父さんが山の様にホットケーキを作っていたおかげでまだ当分は無くなる事はなさそうだが、威厳もクソもないなあの二人、主従関係にあるのかさえ疑わしくなる……。
「陛下ぁああああ!! もう沢山食べたでございましょう!? もうお控えになってはいかがですかなッ!! ムシャムシャッ!!」
「余を侮るなよルキフ!! この程度、腹四分目と言う所よ!! まだ余は止まらぬわッ!! モグモグモグ!!」
「あらあらぁん、沢山食べてくれて嬉しいわぁん。まだまだあるからねぇん、おかわりいっぱいしてちょうだいねぇん」
そう言いながらデイジー叔父さんは更にホットケーキを焼いている。
なんでもセルバトロンコの復興を手伝っている際にダメになった倉庫があって、貯蔵していた小麦粉っぽい物が破棄されそうになっていたので全て買い取っていたそうだ。
デイジー圧縮で空間ごと圧縮し、コンパクトにしてマジックバッグに入れていたとの事。
たまにパンがご飯で出ていたが、あれは買っていたものではなくて一から手作りしていたのか。
イーストとかそういうのはどうしていたのだろうか、という疑問が浮かんだが、そんな事よりも、デイジー叔父さんは何故いきなりホットケーキをみんなにごちそうし始めたのだろうか、という方が重要だろう。
『空気を変えたかったんじゃないかもん? 結構殺伐としてたもんし、そこに加えてエレメンタル・イーターの話もん。あんな混乱した場じゃ、もし何かが起きた時に対応が遅れる可能性もあったもん。あと、パルカのやつがどうにも嬉しすぎて軽く暴走してたもんし、これで少しは落ち着くはずもん』
「妙にテンションの乱高下凄いと言うか、はしゃいでた感じだったのはリリシュとルキフが生きてるって分かったからだったのか? 洞窟に入る前だと結構普通っぽかったのに」
『そこは神としての見栄ってやつもん、察するもんよ。まぁ、死んだと思ってた自分の庇護してた存在が元気だったっていうのは、平静を装ってたとは言え、やっぱり嬉しかったんだろうもん』
「そうか、やっぱりパルカは優しい神様なんだな、なんだか俺は嬉しいよ」
そう言いながら、んほぉおおと言いながら涎を口から垂らしているパルカの頭を撫でる。
さっきからパルカを抱っこしているが、ホットケーキを食べさせてあげてからこんな感じだ、ホットケーキが口に合わなかったのだろうか、ちょっと残念だ。
『神の威厳もクソもないもんね、こいつ……。ホットケーキ、うま』
パルカの神らしからぬ姿にマレッサは呆れつつ、ホットケーキを口に舌鼓を打っていた。
精霊王たちもうま、うまと言いつつホットケーキを食べており、いつの間にかナルカも一緒になって食べていた。
「ねーねー、精霊王って凄いのー? あちしって精霊に転生したばっかりだから、そこの所よく分かんないのよねー。王様ならやっぱりへへーって頭下げた方がいい? うま」
「そんな事ないのん、というか死の精霊は妙に人間臭いのん。うま」
「確かにもす。精霊らしからぬ、と言うかあまりに自我が強いもす。本来ならもっと自然に近く、自我も薄いはずもすが……。うま」
「内包する力の総量はわちらに匹敵、もしくは上うぉ。それに転生と言ったうぉ、特異な精霊というのは確かうぉね。うま」
「元は原初の呪いだからねーあちし。姉母様と人間さん、それにデイジーちゃんのおかげで精霊になれたんだよねー」
「ほう、死の神と人の子、それにあのデイジーちゃんのおかげのん? それに元が原初の呪いというのは驚きのん」
「原初の呪い、オリジナルカース、最初の人間の呪いもすな。神すら殺す呪い、それを死の神が手を貸す事で死の精霊に転生させたもすか、長く生きると珍しい事に行き当たるものもす」
「妙に人間味があるのも納得うぉ。大元が最初の人間の呪いなら、精霊でありながら人間臭さが残っているのもそれが理由うぉか。良き精霊の誕生に祝福を送るうぉ」
何を喋っているかはよく聞こえないが、なんだか仲良くおしゃべり出来ているようで安心した。
しばらくの間、ホットケーキを堪能して腹が膨れた頃にデイジー叔父さんがテーブルとティーセットを用意し始めた。
次は何をしようと言うのだろうか。
「さ、お腹が膨れたら、優雅にティータイムよぉん。ゆっくり、お話しましょ、ね?」
周りを見ると、みんなお腹が膨れたからなのか、少し落ち着いた雰囲気だ。
これなら、落ち着いて話が出来るだろう。
エレメンタル・イーターについての情報の齟齬も解消できるかもしれない。




