118・そして三人との邂逅って話
「ぎゃあああああああ!! パルカが余を死なせに来たぁアアアア!!」
「嫌じゃああああああ!! 爺はまだ死にとうございませぬーーッ!! 命ばかりは、命ばかりはお助けをーーッ!!」
『人聞きの悪い事言ってんじゃないわよッ!! 死なすわよアンタら!!』
「やっぱり死なせる気だぁああああああッ!!」
「嫌じゃ、嫌じゃ!! 死ぬのは嫌じゃあああああッ!!」
『あぁもう!! 確かにアンタが魔王時代の時に私様が怒ってアンタたちを死なせかけた事は何度かあったけど、本気で死なせた事はなかったでしょッ!! だから止まりなさい、でないと本気で死なすわよッッ!!』
パルカ、それじゃあ逆効果もいい所だと思うぞ。
三つ目を持つ烏の姿をしているパルカが洞窟内を逃げ回る銀髪の少女と紳士服を着た老人を怒鳴りながら追いかけ回している。
半狂乱になりながら逃げる二人は元魔王のリリシュとその執事長だったルキフという人物だ。
洞窟の入り口でデイジー叔父さんがデイジーアイで見た三人の内の二人。
もう一人の青年が何をしているのかと言えば。
「いやね、小生ってほら平和主義者な訳なんよ、ホントマジで、信じてほしいんよ!! いだだだだッ!! なにこれ、レベルもステータスもカンストしてるのになんでこんな痛いの!? がああああ、折れる折れる、腕が曲がっちゃいけない方向に曲がっちゃうぅううううッッ!!」
「デイジー叔父さん、それ以上いけない」
青年はデイジー叔父さんにアームロックをかけられて、余りの痛みに悶絶していた。
何故こんな事になったのか。
時は三十分程前に遡る。
俺たちは広間で小休憩をとった後、そのままエレメンタル・イーターを目指して進み、その途中で例の三人組が居る結界のある場所に辿り着いた。
元魔王は変だけど悪い子ではないとパルカの言う言葉を信じて、俺たちは一応挨拶をする事に。
この時の対応がちょっと悪かったかもしれないが、声をかけても結界から出てきてくれなかったし仕方がない。
結界から出てきてくれなかったので、こちらから中に入る事にしたデイジー叔父さんが結界をノックして木っ端微塵に破壊。
結界が壊れた事がトリガーとなって、結界を破壊した者への攻撃魔法が発動、四方八方から飛んで来た夥しい数の光の矢の中からデイジー叔父さんは一つの矢をピンと指で弾く。
すると、弾かれた光の矢が別の矢に当たり、当たった矢がまた別の矢に当たっていく。
数瞬後、俺たちに向かってきていた光の矢は全てあらぬ方向に飛んでいき、壁や地面に刺さり、消滅していった。
「手荒な歓迎ねぇん。ちゃんとノックしたのにぃん。あたくしが先頭に立つわぁん、みんなついてきてねぇん」
デイジー叔父さんは肩をすくめて、奥へと優雅に歩いていく。
俺とマレッサ、パルカ、ナルカは慣れたもの、特に気にせずデイジー叔父さんの後に続いたが、精霊王たちはかなり驚いていた。
「今のは絶位の光魔法だったのん。あんな防ぎ方って出来るもののん……?」
「もす、何が起きたか全然見えんかったもす」
「いや、何あの人間、こわ……うぉ」
ズンズンと突き進むデイジー叔父さん。
数歩進むごとに襲い来る凶悪な罠の数々。
並みの存在であれば即死しかねないそれらをデイジー叔父さんは叩きつけ、踏みつけ、噛み砕いて蹴散らしていく。
罠として放たれる魔法が洞窟を揺らし、時折パラパラと小石が天井から落ちてくる。
そう言えば、崩落事故も増えているんだったか。
大丈夫かな……。
そんな心配をしている間にドーム状に開けた場所に出た。
今までの道と違い、妙に明るい。
洞窟の天井を見ると、太陽の様に光る玉の様な物が浮いていた。
あれも魔法だろうか。
視線を前に戻すと三つの人影がある事に気付いた。
「ずいぶんと手荒い歓迎ねぇん。別に取って食いはしないわよぉん? 平和的な挨拶をしに来ただけなのよぉん」
デイジー叔父さんの声かけに対し、相手はデイジー叔父さんを値踏みするような視線で返した。
「ふむ、位相をずらした異界化結界の中を事もなげに覗き見た上に干渉し容易く破壊するとは、トシユキもしや手を抜いていたのではあるまいな?」
「冗談ですよ、外の影響を完全に遮断しかつ、並大抵の奴じゃ見る事も触れる事も出来ない結界ですよ? 念には念を入れて、結界を壊せる様なヤツでも仕留められる罠もわんさか仕掛けてた訳ですけど、まーさか全部突破してくるとは、予想外ってやつですよ、ホント」
「トシユキ殿の結界と罠を掻い潜ってくるとは、驚愕に値しますな。えぇ、だからと言って恐れる訳ではございませんが、ね」
三人とも、何とも言えない圧を感じる。
肌を刺すような威圧感、死の視線は感じないが、俺ですらあの三人はとてつもなく強いと分かるほどだった。
「ともあれ、貴様らは余の客であろう。少々込み入った事情ゆえ戸締りを厳重にしていたのだ、理解せよ。では、自己紹介から始めようか、こやつは余の腹心にして余の執事を務めているルキフ・グスだ」
銀髪の少女の声に応えるかのように、脇に控えていた執事服の老人が一歩前に出て、丁寧なお辞儀をしてくれた。
「紹介にお預かりいたしました、陛下の執事たちの長を務めておりますルキフ・グスと申します。どうかお見知りおきを」
「もう一人は余の恩人であり、余の友でもある異界の者、ヒロアキ・トシユキだ」
「え、これ小生も自己紹介する流れ? まぁ、いいけど。ども、トシユキなんよ」
ジーパンにTシャツのラフな格好の青年は軽い感じで手をひらひらとさせた。
そして、オオトリだ、と言わんばかりの勢いと邪悪な笑顔で銀髪の少女は腰の両手を当ててない胸を張って声をあげた。
「この両名を従える余こそが、魔王国サタナスコルの支配者であり頂点、魔王リリシュ・バアルゼブルであるぞ!! 控えるがよい下民共よ!!」
仰け反りながら、そう叫ぶリリシュ。
特に気にしないデイジー叔父さんはペコリと頭を下げた。
「あらぁん、自己紹介ありがとう、助かるわぁん。あたくしはビューリホートゥインクルダイナミックエンジェル、デイジーちゃんよぉん、気軽にデイジーちゃんて呼んでねぇん」
「あ、俺はデイジー叔父さんの甥の緋色です、どうも」
「死の精霊のナルカだよー」
「地の精霊王グノーモスのん」
「火の精霊王サラマンデルもす」
「水の精霊王オンディーヌうぉ」
「え、これわっちも言う流れもん? えっと草の神マレッサ、の分神体もん」
特に気圧される訳でもなく普通に自己紹介を返されたリリシュたちは若干困惑しているようだった。
リリシュとルキフが精霊王が何で? え、神の分神体も? と小声で言っているのが聞こえた。
トシユキがメンバーヤバくない? と言っている声も。
「いや、アンタ元魔王でしょリリシュ。ボコボコにされて自慢の大角をへし折られて負けたじゃない。あの時、生死不明だったから生きてて嬉しいけど、魔王を詐称するのはさすがに許せないわよ? あぁ、言わなくても私様が誰かくらい分かるわよね、リリシュ、ルキフ」
パルカの言葉にリリシュとルキフが震えあがり、叫び声を上げてその場から逃げ出した瞬間に、トシユキと名乗った青年が俺に襲いかかってきた。
人質にでもしようと思ったのだろうか、思惑は分からないが、とにかく俺に近づいて魔力の籠った手を伸ばしていたのは事実だ。
次の瞬間、トシユキの腕をデイジー叔父さんが握っていた。
そして冒頭に戻る。
「ぎゃああああああ、もう死にたくないーーー!!」
「まだじゃーーまだ生きていたいんじゃーー!!」
「いだっだだ、折れ、折れるぅううう」
さて、どうしたものか、と俺は大きなため息をついた。




