11・ワンマンな上司だと部下はつらいよねって話
バルディーニの引き連れていた部下の内、デイジー叔父さんに地面に植えられなかった数人がデコピンで吹っ飛ばされたバルディーニの元に駆け寄る。
「バルディーニ様ッ!! ご無事で――うわ」
助け起こしたバルディーニの顔を見た部下がガチ目にドン引きしていた。
すぐさま懐からビンの様な物を何本も取り出して、その中身の真っ青な液体をバルディーニの顔にどんどんかけていく。
「予備のエリクサーをすべてこっちに回せ!! 埋められてる者たちは見込み無しなら処分を」
「ハッ!!」
バルディーニに青の液体をかけ続けている部下とは別の部下が距離を取って、デイジー叔父さんを警戒している。
ふと気付くと、デイジー叔父さんに植えられていたバルディーニの部下が全員消えていた。
「全員生存、回収完了しました」
「無力化されていただけ、か。絶対的強者の気まぐれで生かされたと思うしかあるまい」
植えられていた二十人近い部下たち全員を一人が俵の様に抱えて空中を飛んでいるのが見えた。
魔法か何かだろうか、今更ながらに異世界に来ているのだなと実感する。
恐らく何かをしてくる事はないだろうが、気は抜けない。
俺が警戒した所で何が出来る訳ではないのだが。
そんな俺の様子に気づいたのか、デイジー叔父さんが俺の側まで歩いてきた。
「あたくしが絶対に手出しさせないから、そっちのオークカイザーちゃんの手当てに集中なさいな」
「うん、ありがとうデイジー叔父さん」
バルディーニ達の事はデイジー叔父さんに任せ、俺はさらにマレッサを褒め称えていく。
ちょっと褒め過ぎたせいか、眩しすぎて目がチカチカする。
オンオフとか出来ないものだろうかと思いつつもマレッサを褒めちぎっているとオークカイザーさんがうっすらと目を開けた。
「ぬぅ……、眩しいな。まさか冥域がかように眩しいとは……」
「オークカイザーさん!! よかった、意識が戻った!!」
意識はまだハッキリとしていないが、顔色はだいぶん良くなっている。
もう危険な状態は回避できたと思ってもいいんじゃないだろうか。
『多少魂が冥域に引っ張られてたもん。パルカの影響もあったもんけど、まぁなんとかなったもん。しばらく養生してれば戻ってきた魂が体に定着するもん、無理するなっていっとくもん』
マレッサの言葉を聞いて、俺は心底ホッとした。
血を提供してくれたオークたちにオークカイザーさんの命の危機が去った事、無理せず養生していれば問題なく回復する事を伝えると、血をガッツリ抜いたせいでげっそりとしていたオークたちは喜んで俺に頭を下げた。
「俺は何もしてないよ、第一、俺がここに飛んできてしまったせいでこうなってしまったんだし、恨まれる事はあっても。お礼を言われるような事はないよ。どうしてもって言うならマレッサとデイジー叔父さんに礼を言ってくれ」
「それでも、貴方がいなければボリバルブディ様は生きてはいなかった。感謝する人間」
土下座しかねない勢いのオークたちをなんとかなだめ、オークカイザーさんを安静にできる場所へ連れて行く事にした。
マレッサはなにか魔法を使おうとしていたが、オークカイザーさんを治療する為にかなり無茶な事を言ったのは自分だ。
これ以上無理はさせられない。
「マレッサ、もういいよ。無茶を言って本当にすまなかった。あとは何とかするから、無理はしないでくれ」
『もん? あぁ、気にするなもん、今はヒイロの信仰でキャパオーバーの神力が溢れ出てるもん。このまま空気中に魔力として放出させてパルカの領域にばらまくくらいなら、パルカの守護する国の民に使った方が嫌がらせになってちょうどいいもん。耳元ででっかい声で喚かれた腹いせもん』
俺のおかげ、なのかはよくわからないが、マレッサは今かなり力が溢れているらしい。
ただ、分神体の一つである毛玉姿のマレッサでは神力とやらの許容量があまり大きくなく、それをオーバーした分は毛玉から溢れ出て自然に還っていくのだそうだ。
それがパルカ、魔王国の守護神の領域の物になるのが癪だから、という理由でオークカイザーさんの治療の他にも魔法を色々使っていたのだという。
神様にも色々あるんだなぁと思った。
マレッサの魔法で少し宙に浮いたオークカイザーさんを、これまたマレッサの魔法で回復、強化されたオークたちが大きな木の板、オークカイザーさんがテーブルとイスを作る際に切断していた板材の一つに乗せ、担ぎあげる。
オークの森はオークたちにとって神聖な場所らしい、なので俺は無理についていく事はせずに見送る事にした。
「命の恩人に対しての非礼申し訳ない。古よりの習わし故、ご容赦を」
「あぁ、わかったよ。それに俺じゃあ、力仕事を手伝えそうにないから。俺が言うのもなんだけど、オークカイザーさんを頼むよ」
「無論だ」
そう言ってオークたちは森の奥へと姿を消した。
俺はしばらく森の方を見ていたが、後方が何か騒がしい事に気づき、振り返ると部下の肩を借りてフラフラと立ち上がるバルディーニの姿が目に入った。
「有り得ん、有り得ん、我輩の冥獄炎が、魔王様にお褒めいただいた我輩の魔法が、なぜ、なぜ、なぜぇえええええええ!!」
「バルディーニ様、お気を確かに!!」
「おい、眠り薬を。錯乱しておられる」
部下の一人がバルディーニの口元に布を当て、別の部下が更に腹パンした上で首筋に手刀を叩きこんだ。
ガクリと意識を失うバルディーニを部下が雑に肩に担いだ。
いや、上司じゃないのかその人?
「手早くお気を静めてもらう為の確実な方法だ。決して騒がれて獄炎を巻き散らかされたら困るとか、面倒とかそうゆうのじゃないから、いきなりオークカイザーの始末に向かうとか何言ってんだよこの元帥様、とか思ってないからホント」
どうやら顔に出ていたらしい。
部下の一人が俺に向かって言い訳がましくそう言い放った。
たぶん私怨も混ざっている気がした。