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106・さらばセルバの大樹って話

「それじゃ、みんな準備はもういいかしらぁん?」


「うん、食料の買い忘れとかもないから大丈夫だよデイジー叔父さん」


『はぁ……、結局肉はしばらくお預けもんか……悲しいもん』


『セルバブラッソには元々肉食の文化があまりないんだから仕方ないでしょ。ホントに食い意地張ってるわね、アンタは。虫肉食ってなさいよ、栄養満点なのよ』


「虫肉と一緒にマジックバッグに入るのは、あちし凄くいやー。たまに動くしアレ、超キモい」


水と食料のチェックはもう済んでいる。

セルバの大樹の根本に降りて、エスピリトゥ山脈の方角の道路へと向かう。

道路はほぼ元に戻っている、というか今のセルバの大樹は元の場所から移動させたままの状態なので、新しく道路を敷設していた。

元の場所には今のセルバではもう戻せない、訳でもないらしい。

力任せに持ち上げて動かす事は出来ると言っていたのだが、根を張り直すのは無理だから、しないのだそうだ。

セルバの大樹の周りでは新たな城壁を建設しており、朝から賑やかだった。

先日まで色々と復興作業の手伝いをしていた事を思い出す。


「これで、もうセルバトロンコともお別れか」


不意に零れた言葉にセルバが笑顔で俺の頭を撫でた。


『セルバトロンコ以外にもセルバブラッソにはいい所がたくさんあるネ。もし、今度ここに来る機会があったら、じっくり見て回るといいネ。人生、寄り道したってバチは当たらないからネ』


「セルバ様……」


俺の目的は元の世界に帰る事だ。

このままマレッサピエーまで行きつけば、恐らくここに来る事はもうないだろう。

セルバはその事を知っているはずだ、俺は何と返していいのか分からずにいた。


『まぁ、百年先か二百年先、ヒイロが死んだ後、魂がこっちにやってくる可能性もあるもんからね。のんびり人生楽しんで、大往生した後にでもこっちに生まれたら世界を巡ってもいいじゃないかもん? 一度切りの人生、って人間は言うもんけど、輪廻は巡るものもん。死と生は繰り返すもんからね、いつかまた会えるってものもん』


「マレッサ……、そうだな。セルバ、ありがとう。いつか必ずまたやってくるよ、その時はその時の俺によろしくな」


『キャハ、お任せネ』


嬉しそうに笑ったセルバは乱暴に俺の頭を撫でまわした。

ちょっと痛かったが、我慢した。

そして、建設途中の城門に辿りついた。


「うぅ、寂しくなるでしゅ……お兄さん、デイジーちゃん、マレッサ様、パルカ様、ナルカちゃん、バイバイでしゅ、ケガとか病気には気を付けてでしゅ……ヒック」


『はいはい、泣かないネ、プナナ。会うは別れの始まりネ、出会いは偶然でも別れは必定ってやつネ。どうせなら笑って見送るネ。プナナは笑顔の方が可愛いから、ネ?』


セルバに言われ、プナナは涙をぬぐってから笑顔を俺たちに見せてくれた、鼻水がちょっと出ていたが。

俺はプナナの鼻をハンカチで拭きとり、何故かハンカチはセルバに没収された、プナナの目線に合わせてしゃがんで頭を優しく撫でた。


「笑顔で見送ってくれてありがとうプナナ。いつかまた会えたら、その時はまた料理をごちそうしてほしいな。プナナの料理は心が温かくなるから。じゃあ、いってきます」


そう言って俺は立ち上がり、プナナとセルバの方を見ながら、歩き出した。


「はいでしゅ、もっとお料理上手になってごちそうするでしゅよ!! みんな、いってらっしゃいでしゅ!!」


泣き笑いをしながら、プナナは力強く手を振ってくれた。

セルバはプナナの頭を撫でながら、俺たちに手を振った。


『ヒイロ、デイジーちゃん、マレッサ、パルカ、ナルカちゃん、元気でネ。じゃ、いってらっしゃいネ』


俺たちもセルバとプナナに手を振り返した。


「そう言えば、デイジー叔父さん、馬の代わりのあてってどうなってるの?」


「あぁん、大丈夫よぉん。さっきテレパシーを送ったから、もう来るはずよぉん。ほら、噂をすればなんとやらってやつねぇん」


デイジー叔父さんが空を指さしたので、その先に目をやると、なんか羽の生えた人が四人程飛んできているのが見えた。

いや、あれマレッサたちが応援として呼んでいた神兵なのでは?

なんでここにって、もしかして、あの人たちが馬代わりのあて?


「いや、それはちょっとデイジー叔父さん失礼なんじゃ」


「大丈夫よぉん。ちょっと、エスピリトゥ大洞窟付近まで送ってくれたら、高密度の魔力を渡すって約束したのよねぇん。色々と物入りなんですって、あの子たち、なんでかしらねぇん?」


『あぁ、顕現し続けるにしても神力は必要もんからねぇ。デイジーごと原初の呪いに対処しようと、断罪のスフィアを使ったのが原因で簡易神核の神力を使い果たしたもんかね。まぁ、無駄だったみたいもんけど。それで神力使い果たして、節約モードに移行してたもんか。魔力は神力の代わりになんて普通ならないけど、デイジーの魔力なら大丈夫そうもんね』


『今回の件はもう本体が報告済みだし、アイツらの迎えもじきにくるでしょ。一応、神域神使隊の中でも精鋭だもの。でも、下手したら消滅の可能性もあるし、変なプライド捨ててデイジーちゃんのお願いを聞き入れて神力代わりの魔力を手に入れようとする所は悪くないわね』


バサバサと羽音をたてながら、四人の神兵が俺たちの前に降り立った。

一人は俺が掘り起こした中性的な顔立ちの人だった。

俺に気付いたその人はペコリと小さく頭を下げてくれた。


「あたくしのお願いを聞いてくれてありがとねぇん。と~っても助かるわぁん。じゃ、お願いしてもいいかしらぁん」


「了解いたしました、マム!! 任務、エスピリトゥ大洞窟前までの移動および護衛任務と承っております!!」


えぇ、何このノリ。

デイジー叔父さんに埋められただけじゃあこうはならないと思うんだが……。


「デイジー叔父さん、この人たちに何したの?」


「いやぁん、ちょっと移動を手伝ってって言いに行ったら、急に怒りだした子がいたんだけどぉん、肌と肌とのぶつかり合いで情熱的な話し合いをしたら、泣きながら手伝いますって言ってくれたのよぉん、何故かその時から他の子たちはあたくしをマムって呼ぶのよねぇん、なんでかしらぁん?」


怒りだした人ってたぶん、隊長の人だろうなぁ。

マジザコとかなんか言ってたっけ名前、うろ覚えだけど確かそんな名前だった気がする。

ともあれ、この四人の神兵の人たちが俺たちをエスピリトゥ大洞窟まで連れて行ってくれるようだ。

とりあえず挨拶だ、挨拶は実際大事だからな。


「デイジー叔父さんが無理を言ってすみません。俺は緋色っていいます。道中よろしくお願いします」


「はい、お任せです!! ヒイロさんですね!! 不肖このリディエルがお運びさせていただくです!!」


俺が掘り起こした人の名前はリディエルというらしい。

そして、リディエルは俺をお姫様抱っこした。

どうしよう、凄く恥ずかしい。

デイジー叔父さんを運ぶ為に残る三人がデイジー叔父さんを掴もうとしたが、デイジー叔父さんは何故かそれを断った。


「あたくしは自分で飛んでいくから大丈夫よぉん、その分ヒイロちゃんを守ってあげてほしいわぁん」


そう言うとデイジー叔父さんはふわりと宙に浮かんだ。

何でもできるなデイジー叔父さん。


「で、ではいきますです!!」


急に浮いたデイジー叔父さんに呆気に取られていたリディエルはハッと我に返り、羽を羽ばたかせ、一気に空へと舞い上がった。

抱っこされた状態で下を見ると、セルバの大樹がどんどんと小さくなっていくのが見えた。

離れていく俺たちにプナナとセルバはまだ手を振ってくれていた。

俺はちょっとだけ身を乗り出して、プナナとセルバに向かって、大きく手を振った。


「ありがとうプナナ!! ありがとうセルバ!! みんな、ホントにありがとう!!」


聞こえたかどうか、届いたかどうかは分からないが、俺はそう叫んだ。

ぐんぐん速度を上げて、俺たちは進む。

ほんの数分でプナナとセルバの姿は見えなくなり、セルバの大樹も小さく見える。

俺は改めて、次に向かう場所であるエスピリトゥ大洞窟の方向を向いた。

新たな出会いがあるならば、良い出会いでありますように。

新たな面倒事があるならば、出来るだけ関り合いにはならないように。

そんな事を願いながら、俺は空を飛んでいくのだった。

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