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105・朝、目覚めたらって話

チュンチュン。

雀の鳴き声と太陽の眩しさで目を覚ます。

グッと腕を伸ばしながら、あくびをする。


「ふぁ~、よく寝た。雀はどこの世界でも早起き……」


そこまで口に出してから、この音は雀の鳴き声などではなく、チュンチュン虫という若干グロテスクな見た目をした蜘蛛に似た虫の出す音だと思い出した。

そして、このチュンチュン虫の鳴き声がすると言う事は近くに巨大な蚊に似た虫であるドブカスブンブンがいると言う事だ。

また、ドブカスブンブンの死体にチュンチュン虫が群がっているのかと、少し嫌な気分になった。

視界の端に違和感を感じ、顔をそちらに向ける。


「ブンブン」


「……」


「ブンブ~ン」


「……え?」


なんかいた。

すっごいでかい蚊がブンブンと俺に囁いている。

低音のウィスパーボイスでどこか心地よい声だ。

って、いや待て、と言うかでか、こわっ!?


「せぇいッ!!」


「ブゥンッ!?」


訳も分からず俺はドブカスブンブンに正拳突きを叩き込む。

掛け声も上ずって変な声が出てしまった。

低音のいい声で悲鳴をあげながらドブカスブンブンは窓の外に飛んで逃げていった。

そう言えば、虫除けを付けるのを忘れていたっけ。

あんな間近でドブカスブンブンを見たのはさすがに初めてだったので、びっくりし過ぎて、心臓がすごいドキドキしている。


『うるさいもんねぇ、どうしたもんヒイロ? おねしょでもしたもんか?』


「してない!! あと、おはよう!! ドブカスブンブンが部屋の中にいたんだよ!! ブンブン言ってた、低音のウィスパーボイスでなんか渋い声だった!!」


『おはよう、落ち着くもんヒイロ。ドブカスブンブンが? 珍しいもんね、アイツら夜中に這い寄ってくる害虫もんのに。あぁ、そうもんか、セルバが疑神になった影響が出始めたって事もんね。セルバの大樹は本来、害虫ドブカスブンブンは寄ってこないもん。ドブカスブンブンの嫌う匂いを出してるもんからね。セルバの疑神化の影響で、セルバの大樹の性質が変化してるんだと思うもん。被害が出る前にセルバに一応しらせておくもん』


『うるさいわねぇ、おちおち寝てられないじゃない』


「あぁ、起こしてごめん、パルカ。おはよう」


『これから気を付けなさいよ人間、私様の眠りは何よりも尊い物なんだから。……おはよう』


俺が騒いだせいで、マレッサやパルカに続いてナルカも起きたが、二度寝に突入してしまった。

プナナとデイジー叔父さんの姿が既にない事に気付いたのだが、廊下からドタバタと誰かが走ってくる音が響いてきた。


「だ、大丈夫でしゅか!? 外にいっぱいブンブンが転がっててチュンチュン虫やプルケ様がポリポリ食べてたでしゅけど、うちの中にまではいってないでしゅか!?」


「おはよう、プナナ。一匹入って来てたけど、窓から外に飛んで行ったよ」


「あ、おはようでしゅ、お兄さん。いや、あの大丈夫だったでしゅか!? 耳から頭の中チュルチュルされてないでしゅか!?」


「大丈夫だよプナナ。チュルチュルはされてないから」


俺が無事である事が分かり、心底ホっとした様子のプナナ。

朝ごはんを作っている途中だったのだろう、エプロン姿だった。

とても可愛い。

いかん、何故かパルカが怪訝な目で俺を見ている。

何も口にしていないと言うのに……。


「デイジーちゃんは朝のランニングに出かけてるでしゅ。その時はまだ、ブンブンは飛んでなかったんでしゅけど、お日様が昇ってからいっぱい出てきたらしいでしゅ。プルケ様やその眷属のチュンチュン虫が頑張ってブンブンを退治してるみたいでしゅ。あ、もう少しで朝ごはん出来るでしゅから、顔を洗ってくるといいでしゅよ」


「わかった、ありがとうプナナ」


俺はとりあえず、移動して顔を洗う事にした。

トイレ横に洗面台と水瓶があるのだが、生活排水はセルバの大樹の枝が吸収して栄養にしてしまうようだ。

トイレに関しては最初は抵抗があったが、もう諦めた。

顔を洗って台所へ。

テーブルの上には目玉焼きや肉……のように見える料理や汁物、サラダなど色んな料理が並んでいた。

いつもよりちょっと豪華だ。

何故かセルバが居て、もう朝ごはんを食べていた。


『おはようネ、ヒイロ。マレッサとパルカもネ』


「お、おはようございますセルバ様」


『おはようもん、セルバ。ちょうどよかったもん、ドブカスブンブンの件を伝えようと思ってたもん』


『おはようセルバ、朝から神和の所に来るなんてよっぽど暇神なのね』


テーブルを囲んでみんなで朝ごはんを食べていると、デイジー叔父さんが帰ってきた。

デイジー叔父さんはセルバの大樹周辺に大量に発生していたドブカスブンブンを肉体言語で説得していたそうで、ほとんどのドブカスブンブンは散り散りになってどこかへ飛んで行ったそうだ。

朝ごはんに遅れた事を謝罪してから、デイジー叔父さんは濡らしたタオルで汗を拭きとり、食卓に座った。


「あらぁん、今日もとっても素敵な食卓だわぁん!! うんうん、とってもデリシャスよぉん!! 凄く美味しいわぁん、ありがとうねぇんプナナちゃん!!」


「えへへ、美味しく食べてくれて嬉しいでしゅ」


『どう、マレッサ、パルカ!! ワタシの神和って最高に最高よネ!! カワイイ食べたい、色んな意味で!!』


『ちょっと落ち着くもん。いやホントに』


『あー、お汁が身に染みるわね。野菜の漬物も悪くないわ』


「姉母様って、見た目の割に野菜とか好きだよねー。マレッサちゃんは草の神のくせに肉好きだし。変なのー」


「ナルカ、人それぞれ好みがあるんだから、変だとか言っちゃあだめだぞ」


「はぁーい」


賑やかな朝食が終わり、借りていた部屋の掃除を済ませてから、俺たちは荷物を持って家の外に出た。


「セルバブラッソに居たのは一週間もないけれど、色々あったなぁ」


「そうねぇん。ちょっと大変だったわぁん、名残は尽きないけれど、出会いあれば別れはあるものよぉん」


「プナナはお兄さんたちがセルバの大樹から出るまで、お見送りするでしゅよ」


「あぁ、ありがとうプナナ。プナナには世話になりっぱなしだな」


「そんな事ないでしゅよ、たくさん助けてもらったのはプナナでしゅから。あんまりお返しも出来てないし、心苦しいでしゅ」


ホントにプナナはいい子だな。

うん、頭を撫でてあげたくなる。

撫でようとしたら、セルバがプナナをグッと抱き寄せて、隠すように胸の間に挟みこんだ。


「い、いきなりどうしたでしゅか、セルバ様!?」


『なんでもないネ、プナナ。プナナはワタシの大事で大切な神和ネ。誰にも渡さないネ』


「おのれ、神様の癖に、いや神様だからか、独占欲がハンパないぞ、このやろう」


プナナをこれ見よがしに撫でまわすセルバを見て、俺はグヌヌと唸るしかなかった。


『どうしようマレッサ、一旦突っついた方がいいかしら』


『そうもんね、一刺しやっとくもん』


後頭部を嘴で刺された俺の叫び声が朝のセルバブラッソに響き渡った。

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