104・おやすみって話
送別会は参加者のほぼ全員が酔い潰れ、酒樽を抱えて寝ているセルバを迎えに来た神官たちの後は任せてと言う言葉を受けて俺たちはプナナの家に戻る事にした。
セルバの大樹の宿屋は再建出来ているが、今は仮の病院として機能しており、怪我人や病人を優先しているので、俺たちはプナナの家の一室を借りている状態だった。
だが、それも明日までと思うと少し寂しい物がある。
「明日でお兄さんたちはセルバブラッソを出ていくんでしゅね。寂しくなるでしゅ」
「俺も寂しいよ。この数日は賑やかで楽しかったし。でも、帰りたい所があるんだ。プナナの事は忘れない、大切な友達だから」
「プナナも忘れないでしゅ。お兄さんやデイジーちゃん、マレッサ様にパルカ様、それにナルカちゃん、みんなプナナの恩人でお友達でしゅ」
ニコニコと笑いながらそう言ったプナナの頭を軽く撫でる。
『やっぱアンタって小さい子に興味が?』
「人間さんてやっぱロリコン?」
パルカにナルカが酷い事を言う。
なんでそうなるんだ。
プナナが素直でいい子だからつい頭を撫でただけじゃないか!!
俺が悪いのか!?
『ともあれ、世話になったもんプナナ。セルバの神和という立場でありながら、なにかと世話を焼いてくれた事、感謝してるもん』
「とんでもないでしゅよ。プナナがそうしたかったんでしゅ、セルバ様もプナナのしたいようにしていいって言ってくれたでしゅ。だから、少しでも恩返ししようとしただけでしゅ」
「あらぁん、プナナちゃんは偉いわねぇん、きっと将来素敵な大人になれるわぁん。あたくしが保障しちゃう!!」
「えへへ、プナナは大人になったら、もっとセルバ様の為に頑張るんでしゅ。よくわかんないでしゅけど、セルバ様がつがいになって毎日頑張ろうって言ってくれたでしゅから、プナナはセルバ様の為に頑張るんでしゅ」
『……あとでちょっとセルバに話付けておくもん。せめて大人になるまで我慢しろって』
『そうしておきなさい、神の理から外れたセルバだもの、まさにケダモノの如くよ、きっと』
マレッサとパルカが何かコソコソと話している。
セルバについての事らしいが、よく聞き取れななかった。
「もう荷造り自体は終わってるから、明日朝ごはん食べたら出発かなぁ」
「乗合馬車も今は止まってるし、歩きで行く事になるわねぇん。あたくしたちの馬はあの混乱の中で行方知れずだし、仕方ないわねぇん」
「そう言えば、どこに行くんでしゅか? 聞いてなかったでしゅ」
『エスピリトゥ大洞窟もん。そこを通って平野の国ジャヌーラカベッサに行くもんよ』
『精霊たちの縄張りだけど、今の時期ならおとなしいでしょ、たぶん。アイツら、好き嫌いが激しすぎるから、ちょっとでも嫌われると完全に敵対関係になるから、出来れば関わりたくないのよねぇ』
「ジャヌーラカベッサ、平野の神ジャヌーラ様の守護する国でしゅね。牧畜がさかんな国で小さな村が季節ごとに移動してる事でも有名でしゅ。首都であるジャヌーラトーロはさすがに移動しないみたいでしゅけど、歴代の王様がドラゴンライダーだった事もあって、ドラゴン便っていう便利な交通手段があるそうでしゅ」
「そうなのか、よく知ってるなプナナは偉いぞ」
「えへへ、セルバ様の神官見習いとして他の国の事はちゃんと勉強してるんでしゅよ」
誇らしげなプナナの頭を優しく撫でた。
マレッサとパルカが冷ややかな視線を俺に送っているが無視する。
「でも、それなら馬とか調達しなくていいんでしゅか? セルバトロンコからエスピリトゥ大洞窟までかなりあるでしゅけど」
「大丈夫よぉんプナナちゃん。ちゃんとあてはあるのよぉん」
あて、とデイジー叔父さんは言うが、詳しい事は聞いていない。
いつの間に移動手段を確保したのだろう、さすがデイジー叔父さんだ。
エスピリトゥ大洞窟までの道路は完全には修復出来ていないが、途中までは舗装された道路になっているらしい。
途中から荒れた道を歩く事になるのかと、少し不安ではあったが安心した。
「そうなんでしゅね、明日の朝ごはんはプナナ頑張って作るでしゅから、楽しみにしててほしいでしゅ」
「あらぁん、嬉しいわぁん。プナナちゃんの料理は心がポカポカする素敵な料理だもの、楽しみにしてるわねぇん」
「はいでしゅ、腕によりをかけるでしゅよ」
そんな話をしていたらプナナの家に到着した。
家の中に入り、借りている部屋に移動する。
今日が最後と言う事もあって、プナナも一緒に寝る事にした。
「それじゃ、おやすみなさいでしゅ」
「あぁ、おやすみプナナ」
「グッナァアアアイ!! 良い夢を、プナナちゃん」
「プナナちゃんおやすみー、朝ごはん期待してますからねー」
『あー飲み過ぎたもんねぇ、早く寝るもん。また明日もん』
『おやすみセルバの神和、ちゃんと暖かくして寝なさいよ』
俺たちはそれぞれの寝床に潜り込み、明日に備える事にした。
プナナがみんなが布団に入ったのを確認してからランプの火を消すと、部屋は真っ暗になり、窓の外から虫の声が静かに響くのみだ。
とうとう明日でセルバブラッソを後にするのだと思うと、なんだか複雑な気持ちだ。
色々とあったが、離れるとなるとやはり思う所がある。
沢山の人に助けられた、もっとお礼が出来たらよかったのだが、仕方がない。
護衛の依頼料の半分はカネーガに渡して復興に役立ててもらう事にしたし、復興の手伝いも微力ながらやった、それで良しとしよう。
食料も買ったし、新しい衣類とか道具類も仕入れた。
馬は残念ながら今回のごたごたの間にどこかに行ってしまった、どこかで元気にしていてくれたらいいのだが。
しばらくすると、スースーとマレッサやパルカ、ナルカにプナナの寝息が聞こえ始めた。
デイジー叔父さんももう寝てしまっただろうか。
だんだんと意識が遠くなっていくのを感じる。
薄れていく意識の中で、取り留めのない事を思う。
次の国もいい所だといいな、面倒事に巻き込まれないといいな、そんな他愛のない事を思いながら、俺の眠りにつくのだった。




