103・歓送迎会が苦手な人もいるよねってお話
明日の朝、セルバブラッソを発つ事にしたので、セルバを始めとした今回関わった人たちにお礼とお別れの挨拶をして回る事にしたのだが、何故か宴会が始まっていた。
送別会だー、とセルバが鶴の一声で今回関わりがあった人たちを、以前プナナに教えてもらった料理屋、栗鼠の巣にみんな集めて、送別会を開いたのだ。
ちなみに全部セルバの奢りとの事。
今回関わりがあった人たちは、それぞれ復興の手伝いだったり怪我の治療だったりと、なかなか会って話をする機会が取れなかったので正直ありがたかった。
送別会が始まった途端にみんなこれでもかと言うほど飲み始めたので、挨拶はまぁしばらく楽しんでからでもいいかと思い、俺も食事を楽しんだ。
カネーガが送別会が始まってすぐに俺の所にやって来てくれた。
まだ仕事が残っているらしく、手短に挨拶だけをと言う事で簡単にだが、お礼と別れの挨拶をして、機会があればその時はよろしくと社交辞令的な言葉を言ってカネーガは去っていった。
こういう所は商人だからなのか、さっぱりとしているなと感じた。
一時間程経った頃、俺はやっぱり悪いからとセルバにお金を渡そうとしたら、あっさり断られてしまった。
『これはヒイロとデイジーちゃんの送別会ネ、送られる側がお金払っちゃあおかしいネ! 思い切り食べて飲んで騒いで楽しむネ!!』
「いや、あのくっつかないでください、色々当たってホント困るんで、マジ」
より人間に近い体になったセルバのボディアタックはただの高校生に過ぎない俺には危険すぎる。
色々デカイし柔らかいし、ホント、うん、やめてくれ。
なんかマレッサは冷たい目で見てるし、パルカに至っては既に俺を嘴で突いている。
セルバが仕方ないネーと言いながら、俺の側から離れてくれた、助かったけどちょっともったいなかったかもしれない。
『デレデレしてんじゃないわよ人間!! 私様だってほんとは凄いんだから!! そりゃあもうセルバも目じゃないくらい、色々でっかいんだから!!』
「えー、ホントに―?」
今まで二度ほどパルカの人間の姿を見たが、どちらかというと慎ましやかだった記憶がある。
次の瞬間、パルカの嘴が俺の眉間に突き立てられた。
『今、変な事考えたでしょ!! 不敬、エッチ、変態!!』
「ぎゃああああ!! 眉間から血がぁあああ!!」
『あぁもう、何やってるもんか、まったく』
呆れたとばかりにため息をつきながら、マレッサは俺の眉間に手を当て、ほのかな緑色の光を伴った癒しの魔法をかけてくれた。
痛みがみるみる引いていくのが分かった。
さすがマレッサだ、凄い。
「あぁ、ありがとうマレッサ。助かった」
『パルカはあんなだから、気を付けろと言ってもまぁ無駄もんね。諦めて受け入れるもん』
「もちろんだ、パルカがそういう神様ってのは分かってるよ」
『はぁあ、人間のくせに私様の全てを余すところなく完全に理解してるつもりとか傲慢もいい所よ!? もうちょっといっぱい話しないと相互理解とかできる訳ないでしょ!! もっと私様を理解して崇拝なさいよ、敬いなさいよ、もっとほれ、ほら、いい所千個くらい言いなさい、許すわよ!!』
あ、パルカ酔っぱらってるな。
パルカは凄く凄いよなーとか言って頭を撫でていると、とりあえず満足したのかフフンと言って俺の膝の上で眠ってしまった。
「姉母様は面倒な人ですね。人間さんももうちょっと、ハッキリ言わないとダメだよー。モグモグ。ゲップ、あ、あちしは色々食べてくるんでちょっとテーブルを梯子してくるねー」
マジックバッグから黒いスライム姿のナルカが手を伸ばし、色んな料理を堪能していた。
俺の前のテーブルの食事をあらかた食べ尽くすと、別のテーブルへと移動していった。
他の人に迷惑かけたりしないといいんだが。
セルバは俺の膝の上で眠るパルカを見て楽し気に笑っていた。
『キャハハハ、これが死の神の姿とはネ!! ずいぶんと可愛らしいネ!!』
ケラケラと笑うセルバは俺の頭を撫でて、他の人ともお話しを楽しんでと言ってプナナに抱き着きに行ってしまった。
セルバが去ったあと、俺の元にカマッセ・パピーの人たちがやってきた。
「やぁ、ヒイロ君。明日ここを発つんだってな。短い間だったが、貴重な体験をさせてもらったよ。君の旅の無事を、まぁデイジーちゃんがいるから問題はない気もするが、君の旅の無事を祈っているぞ」
「私たちはセルバブラッソに残って、もう少し復興の手伝いをするつもりだ。少しだが賃金も貰えるしね。今回の護衛任務の依頼料を貰うにしても、ここの冒険者ギルドがまだ上手く機能してないから、早く復興してもらわないと困るって所もあるのさ」
「ぬわー、早く借金を返さないと利息が心配なハーゲンは復興にも全力だー!! こう見えて炊き出しとかでは人気なんだ、料理が得意だからなハーゲンは」
「いやーん、本格的に小料理屋でも出そうかな、とか考えてるハーゲンさんってば商売舐めすぎィ!! 色々資格とかいるんだから、すぐにはお店とか出せないわよ。まぁ、ハーゲンさんならいつかお店持てるかもしれないわねー」
そんな事を言いながら、元気でとカマッセ・パピーの人たちは離れていった。
入れ替わるように今度はチューニーのリーダーモッブスがやってきた。
「やぁ、色々と世話になったね。今回は君たちの助力が無ければ、危なかった。素直に感謝しよう。ありがとう」
モッブスが俺に頭を下げる。
「いや、俺もあの時は守ってもらってましたし、お互い様って事で」
「そう言ってもらえると助かる。少し自信を失っていた所でね。あの姿になっても敵を殲滅できなかったのは色々と思う所があるんだ。あぁ、カマッセ・パピーの人たちなんかにはもう言ったんだが、一応君にも言っておこう。私たちのあの姿についての詮索と口外は出来ればしないでほしい。恩人と敵対はしたくないからな」
「人の嫌がる事をわざわざしませんよ。安心してください」
「ありがとう、助かるよ。他の者たちも連れてきたかったんだが、反動が酷くてね。まだ、しばらくはまともに動けない状態だ。来れなくて残念がっていたよ」
「料理とかお持ち帰りできる物は持って帰ってあげてください。セルバ様もそれくらいで文句は言わないでしょうし」
「そうさせてもらうよ。じゃあ、達者で」
モッブスは軽く俺の肩をポンと叩いて、別の席に移動していった。
軽く店の中を見回すと、セルバの守護精霊の二人の姿も見えた。
レフレクシーボやアウストゥリは大層酔っているようで、肩を組んで酒を陽気に歌いながら飲んでいる。
原初の呪い箱から呪いが溢れた時はどうなる事かと思ったが、なんとかなって本当に良かった。
少し、場の空気に酔ったので、外の空気を吸いに行く事にした。
膝の上で寝ていたパルカをマレッサに託して俺は店の外に出た。
雲一つない空に満月が浮かんでいる。
若干色味や模様が違って見えた、こっちの世界でも月に何か動物が住んでいるなんて話があるのだろうか。
そんな事を考えていると、ある人物を見つけた。
「中で飲まないんですか? ユリウスさん」
「あぁ、ヒイロ君か。ちょっと賑やかな場は得意じゃなくてね、ここで星を見ていたんです」
「そうだったんですね。あぁそうだ、ユリウスさんにも今回の事で色々助けてもらってありがとうございました」
俺が頭を下げるとユリウスは困ったような顔をしていた。
何か変な事を言ったか俺?
「助けてもらったのはこちらの方ですよヒイロ君。今回はボクのやらかしの方が大きい、森の神……今は疑神セルバと名乗っているんでしたね。疑神セルバはボクを責めはしなかったが、事の起こりはボクです。償いのつもりで星装具を使ってまで戦いに参戦しましたが、結果はあのざまです。星罰隊として情けない限り。更に強くならねばと反省していた所です」
「十分強かったと思いますけどね。カマッセ・パピーやチューニーの人たちが苦戦したあの侍にも一人で戦えてたし、今俺がここにいるのは紛れもなくユリウスさんのおかげだし、命の恩人ってヤツですよ」
「命の、恩人ですか。異端殺しのボクが、ね。フフ、本当に君は不思議な人だ。今回の件ほど人の命を助けたと実感できたのは初めてでしたよ。良いものですね、人助けというのも。なんというか心が満たされる思いでした。ヒイロ君以外からも感謝を伝えられました、なんともくすぐったい、それでいて不快ではない。まぁ、星の神ステルラの祝福には遠く及びませんが、とても心地よい物でした。えぇえぇ、これもまた星の神ステルラのお導き!! ボクはこの経験を胸に更なる高みへと、星の神ステルラのおわす星の頂きへと近づく事が出来た事でしょう!! あぁ、素晴らしきかな星の神ステルラの御威光は今もこの大地に星の瞬きと共に降り注いでおられる!! 星よ、星よ、星よ、新たなる高みへと歩み出したボクに祝福を!!」
相変わらず早口で喋る人だな。
まぁ、この人らしくていっか。
今、ここにいる人の内、誰かが欠けていたらセルバブラッソがどうなっていたか分からない。
あぁ、まるで奇跡みたいな出会いだったのだと、柄にもなく俺はそんな事を思ったのだった。




