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102・仲のいい兄弟って話

セルバブラッソの復興を手伝い始めて、はや五日ほどがたった。

俺は建物の瓦礫の撤去や運ばれた物資の仕分け作業、復興作業に行く大人たちの代わりに子供の面倒を見たりと自分に出来る範囲で色々と手伝った。

復興の進行状況はデイジー叔父さんが手伝っている事もあって順調すぎるくらいに進んでおり、すでに主要道路以外の修復もほぼ完了し、他国から物資の受け入れが出来る程になっていた。

それにセルバの奇跡のおかげでセルバブラッソは以前と変わらぬ、いや更に茂った様な状態の上、セルバブラッソの国民全員にセルバの加護が分け与えられており、その危険度は以前と同程度でありパルカが言うには魔王国もセルバブラッソにはおいそれと手は出さないだろうとの事。

とは言え、こんな大変な事になったというのにセルバブラッソの人達は弱音を吐かずみんな明るく、元気で騒がしかった。

マレッサの言っていた通り、セルバに似てとても気持ちのいい人たちだ。

ただ、俺の事を裸のあんちゃんと呼ぶのだけは勘弁してほしかった。

好きであんな事をした訳じゃないが、子供たちにすら裸の人って言われたのは中々心を抉られる思いだった。

あと、この五日間、俺は誰からもセルバの文句を聞かなかった、まぁちょっと素っ裸で歩き回るのはやめてほしいとかは言われていたが。

セルバがいかにセルバブラッソの人たちから好かれていたかを改めて認識できた時間だった。

そして、五日目の夕方、俺が復興作業の手伝いから帰る途中とある人物に呼び止められた。


「よう、坊主。聞いたよ、そろそろセルバブラッソを発つんだってな」


「どうも、アウストゥリさん。はい、俺はたいして手伝えなかったけど、デイジー叔父さんが張り切ってたから、復興もだいぶ進んだってセルバ様に聞いたんです。もう少し、残りたい所だったんですけど、もう大丈夫だから、行くべき場所を目指しなさいって言われまして。一応、明日か明後日くらいには出発しようかと」


「そうか、まぁ、色々とあったがよ、坊主たちのおかげであんな事があったってのに、怪我人はまぁ、結構でたが、奇跡的に死者はゼロだ。感謝しかねぇ。ありがとうよ」


アウストゥリさんが俺に頭を下げた。

俺は大した事をしていない、頭を下げられても困るのだが……。

それに、感謝の言葉は復興の手伝いをしている中でたくさんの人にしてもらった、過分な程に。

だから、もう感謝してもらわなくてもいいと言ったのだが。


「わしがわしの言葉で感謝の言葉を伝えねぇと、わしの気が収まらねぇ。ついでだ、こいつも持ってけ」


アウストゥリさんがポンと俺に何かを投げてよこした。

慌てて投げられた物を受け取った。

改めて確認してみると、それは首飾りのようだった。

獣の牙に穴を空け、その穴に緑と黒の二色の糸で編まれた紐を通したもので、牙には何やら細かな文様が刻まれている。


「坊主が信仰してるマレッサ神とパルカ神を意識した色の糸と、セルバ様の守護精霊ハグワル様から坊主の為ならと言って提供してくれたハグワルの牙を使った守りのアミュレットだ。ちなみにプルケ様からも糸を提供してもらってるから、その紐の強化に使わせてもらってる。大事にしろよ」


「ありがとうございます、大事にします」


「ふん、まるで髭モグラが全てをあつらえたような物言いだな。我らエルフの秘術も刻んでいる事を伝えぬとは。まさか、失念していた訳でもあるまいな?」


アウストゥリさんの後方からレフレクシーボさんがこちらに歩いてきながら、そう言った。

アウストゥリさんは、あー長耳のへんてこな魔法も刻まれてたなー、すっかり忘れておったわーと白々しい事を言っていた。


「ヒイロ、君とその叔父デイジー、更にはマレッサ神とパルカ神、死の精霊、ついでに人間の冒険者たちの協力もありセルバブラッソは救われた。何より、我らが母セルバを救ってくれた事、心より礼を言う。業腹ではあるが、髭モグラと同じく我もまた己の言葉で礼を伝えたかった。じきにここを発つと聞いて、エルフとドワーフの技術とセルバ様の守護精霊様から頂いた素材を元に作り上げた守りのアミュレット、旅の中で必ずや貴殿を助けてくれるだろう。デイジーには先に釘を刺されていてな、自分に何かを送るつもりなら、その分ヒイロに渡す分に力を入れてほしい、それが何よりの贈り物だとな」


「そうだったんですね。本当にありがとうございます」


デイジー叔父さんらしい、自分よりも俺を優先させるなんて。

俺はアウストゥリとレフレクシーボに頭を下げて、一つのお願いをした。


「俺達がここを発った後、出来るだけプナナの事を気にかけてあげてください。口には出してませんけど、プナナは自分が作ったアクセサリーのせいで、セルバの大樹が大変な事になったと気に病んでます。結果としてはプナナのおかげでセルバ様を助ける事が出来たんです、だから、お願いします」


俺の懇願に二人は無言で俺の頭を軽く小突いた。


「馬鹿にするなよ、小僧。プナナはわしらの守るべき弟妹の一人。セルバ様の神和であろうとなかろうと、守るさ」


「そうだぞヒイロ。セルバの子の長兄として、弟妹たちを守るのは至極当然の事。これまでは髭モグラとのくだらぬ戦争に力を割いていたが、これよりはセルバブラッソの弟妹を守る為に力を振るうとエルフは決めたのだからな」


「おい、長耳、だれがセルバの子の長兄だって!? わしらドワーフこそがセルバの子の長兄、てめぇら長耳どもはわしら誇り高きドワーフに守られるべき弟分だろうが!!」


「はぁッ!? 耳の穴にも髭が詰まっているのかこの髭モグラが!! 我らエルフこそが貴様ら髭モグラを守る長兄にふさわしい存在である事は明白であろうが!!」


あぁ、これがパルカの言っていたどっちが兄貴分かって喧嘩か……。

わしらに守られろ、いいや我らの庇護下に入るべきだ、とかなんとも愉快な言い合いに俺はつい吹き出してしまった。


「あん? どうした坊主、いきなり笑いだして?」


「そうですよヒイロ、なにか面白い事でもありましたか?」


きょとんとした顔で俺を見る二人。

あぁ、なんだか本当の兄弟のようだと、俺は思った。


「いえ、とっても仲のいい兄弟だなって」


「「そんな事あるかッ!!」」


息のピッタリ合ったセリフに俺はこらえきれず大笑いしてしまったのだった。

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