101・デイジー叔父さんの朝帰りって話
デイジー叔父さんの姿が見えないと思っていたら、どうやら寝ずにセルバブラッソの復興の手伝いをしていたらしい。
今のセルバブラッソはセルバの奇跡によって植物が異常に繁茂しており、木々は更に成長、森の密度は一段階上がっている状態で、舗装されていた道路は見る影もなく緑に覆われていたようだ。
デイジー叔父さんは大通りとして使われていた道路に新たに生えた大きな木々の伐採と運び出し、木材として使えるように加工、更に運搬、と言った事をしていたようだ。
交通網を整え、寸断している各種族との連絡を再開し、連携して復興に当たれるよう尽力しているとマレッサから教えてもらった。
流石、デイジー叔父さんだ。
俺が寝ている間に、え? 俺が寝てるほんの数時間の間に主要道路の復興終わらせた?
……さ、さすがデイジー叔父さんだ。
『デイジーもんからね。そのくらいはもう驚きもしないもん』
『そうよね、デイジーちゃんだものね』
「お前らはデイジー叔父さんを何だと思ってるんだ……。まぁ、デイジー叔父さんだから、まぁいいけど」
プナナの家で朝ごはんをごちそうになり、俺も復興の手伝いをする事にした。
セルバブラッソがこんな状況なのに、すぐに出ていくと言うのはあり得ない。
ただ、ずっといる訳にもいかないが、出来る限りの事はしていきたい。
デイジー叔父さんの協力で主要道路の復興が終わってるらしいので、物流はすぐに、とまではいかないがじきに復旧するはずだ。
壊れた建物の撤去と新たな施設の建設、物資の補給、怪我人などの治療、炊き出しなんかもやってるらしい。
俺が出来そうなのはなんだろうか。
「プナナはこれからどうするんだ?」
「プナナはセルバ様の神官見習いとして働く事になったでしゅ。森の神様ではなくなってもセルバ様はみんなのお母さんでしゅから、巫女様たちと神官様たちはセルバ様のお世話を今まで通りするそうでしゅ」
「そっか。好かれてるんだなセルバ様は」
『自慢の我が子たちですからネ、みんなとーってもいい子ネ。……ただ、受け入れるのに抵抗がある子がいるのも事実ネ。それは仕方ない事だけれど、とっても寂しいネ』
そう言って少し、うつむくセルバ。
それはどうしようもない事なのだろう、神でなくなったセルバ、しかもその最愛の子はプナナだったってのが分かって、心の整理が出来なくて、どうしようもなくなっているのだと思う。
『前の木の体の方が凄い色気があった派と人の体と木の体が半々くらいだった時は正直興奮した派が現れて、今のセルバ様も素敵です派と合わせて、三すくみ状態となっているネ。複雑な気分ネ』
「そこかよ!! そこなのかよ!!」
ついついツッコミを入れてしまった。
心配して損した気分だ。
『まぁ、セルバは数千年以上、セルバブラッソを支えてきた神もんからね、やらかしてきた逸話には事かかないもん。今回の事もそんな逸話の一つになるだけもん。セルバの子はセルバに似て、みんな強かで騒がしい奴らもんよ』
「そういうもんなのか……。そう言えば、なんだが、セルバはどうなるんだ、これから? 神様、ではなくなったんだろ? 守護神とかはこのままやっていけるのか?」
『神の力を持った神ではない者、って言うのが今のワタシの状態ネ。守護神という枠からはもう外れてるネ。だから、セルバブラッソはワタシの守護領域じゃないって事ネ。新しく守護神が来たら、セルバブラッソの名前も変わる事になるネ、まぁそれは仕方ない事ネ』
セルバは笑顔でそう言ったが、どこか寂し気でもあった。
しかし、その言葉をプナナが否定した。
「セルバ様はセルバ様でしゅ。守護神でも、神様じゃなくっても、セルバ様はセルバ様なんでしゅ。きっと、みんなおんなじ気持ちでしゅ。新しい守護神様が来ても、みんなきっとセルバ様と一緒にいたいと思うでしゅよ」
『そうもんねぇ、守護神になっても信仰が得られないんじゃ、ここを守護するのは難しいはずもん。信仰を得る事で神は神力を満たすもんからね。だから、神じゃなくても守ればいいもん。守りたいモノをセルバの守りたいように』
『国名くらいいいじゃない別に。私様の所なんて私様の名前を何代か前の魔王が外しやがったのよ。私様まだ守護神してるのによ。ちょっと腹が立って神罰を食らわしてやった程度で許したわよ』
プナナたちの言葉を聞いて、セルバは少し目元をぬぐって嬉しそうに頷いた。
そこへ、デイジー叔父さんが帰ってきた、テンション高めで。
「たっだいまぁあああん!! デイジーちゃんのご帰宅よぉん!! グッモォオオオニィイイイン!! 徹夜明けでナチュラルハァイってやつよぉん!!」
唐突に窓からにゅるりと入り込んできたデイジー叔父さんに驚きつつ、俺はデイジー叔父さんが持っている小袋に目が行った。
「おはよう、デイジー叔父さん。復興作業の手伝いしてるって聞いたから、俺も何か手伝いに行こうと思ってたんだ。で、その袋は?」
「あぁん、これ? 護衛任務のお ち ん ぎ ん、よぉん!!」
『……なんで、変に区切って言ったもん?』
「あぁそっか、カネーガの護衛任務のお金、まだもらってなかったっけ」
セルバトロンコに到着してから、色々あり過ぎてすっかり忘れていた。
確か、金貨百枚だっけ。
「はい、これが緋色ちゃんの分よぉん」
「ありがとうデイジー叔父さん。あとでカネーガにも挨拶しないと」
俺は受け取った袋の中身を確認し、マジックバッグにしまおうとして、動きを止めた。
そして、中身の半分である金貨五十枚をセルバに手渡した。
「色々助けてもらったし、復興には色々お金かかるだろうから、少ないけど役立ててほしいから」
『気にしなくていいネ、むしろ助けてもらったのはこっち。ヒイロやデイジーちゃんにお礼を渡す側ネ。まぁ、今はちょっとごたごたしてて、一、二か月待ってもらえればそれなりのお礼を渡せるんだけど……』
そう言って、セルバはお金を受け取ってくれなかった。
仕方ない、あとでカネーガに言って復興にあててもらう事にしよう。
「ごめんなさいねぇん、セルバちゃん。そこまではさすがに滞在できないわぁん。あたくしたちの目的は元の世界に帰る事よぉん。寄り道し過ぎたら、マレッサピエーと魔王国の戦争いかんでは帰還どころの話じゃなくなる事になるかもしれないわぁん。出来ればそれは避けたいのよねぇん。あたくしがどちらかに加担すれば、戦争はそれなり早く終わるかもしれないけれどぉん、ただ人を殺す為に力を振るうなんて、美しくない事はしたくないのよねぇん」
『それは残念ネ、でも何か困った事があったら、上のマレッサちゃんやパルカちゃんを通じて知らせてくれたら、どこであろうと駆けつけるネ。ヒイロもデイジーちゃんもセルバブラッソの恩人だからネ』
セルバは眩しい笑顔でそう言った。




