100・奇跡の後って話
結論から言って、セルバブラッソはこの日、守護神を失う事になった。
神であるセルバはこの日に死んだと言ってもいいだろう。
セルバが疑似神核を取り込んでから、プナナが頑張って信仰をセルバに捧げていたのだが、その数十分にも及ぶ信仰は神セルバを救えなかった。
疑似神核は完全にセルバに適合していた訳じゃなかったのだ。
だから、新たに生まれ変わった彼女はこう名乗りを上げた。
『キャハ!! ワタシこそ、神如き者にして神ならざる者、称して偽神セルバ!! ここに新生したネ!!』
神でなくなったセルバは高らかにそう宣言したらしい。
森の神であったセルバの神核は全て消え失せた、だが疑似神核を取り込んだ事でセルバ自身は生き残る事が出来た。
だが、弊害はもちろんあった。
森の神としての権能は無くなっており、もうセルバブラッソの国土全体を我が物として感知する事などは出来なくなったそうだ。
とは言え、そんな事を気にするセルバブラッソの民はいないだろう。
セルバが生きてさえいれば、それで満足なはずだから。
まぁ、何もかも今まで通り、とはいかない部分もある。
セルバの奇跡によって、セルバブラッソの国土はほぼ元に戻っていたのだが、建物や道路みたいな人の手が加わっていた物は壊れたまま植物に埋もれていた。
森を住処にしていた獣や虫、色んな種族は自分たちの領域を失っており、その境も今は曖昧だ。
下手をしたら、喧嘩をしだす事もあるかもしれない。
エルフとドワーフが協力して、仲裁役をやってくれるらしいが、まだまだ、混乱は続きそうだ。
俺はセルバに信仰を捧げるプナナにほぼ裸の様な状態で抱き着いていたのだが、セルバの奇跡が成し遂げられたと同時に気を失ったそうだ。
恐らく、羞恥心に耐えられなくなったのだろう。
『パルカがやった勇者特権の改造の影響かもしれないもん。セルバの奇跡が終わるまでは機能するように、条件付けでもしてたんじゃないもんか?』
『私様、そんな面倒な事してないわよ? 適当にやったら、なんか出来たんだもの』
寝起きの俺に説明してくれたマレッサの言葉を否定するパルカ、あまりに恐ろしい事を言うので、眠気なんて吹き飛んでしまった。
そうして俺はマレッサとパルカに俺が気絶している間の事を聞き、神としてのセルバの死と新たな存在としてのセルバの誕生を聞かされたのだ。
なにはともあれ、セルバが死なずに済んでよかった、と言う事でいいだろう。
マレッサは複雑そうな感じではあったが。
起きた俺は窓の外を見て、まだ日も昇りきっていない事に気付いた。
セルバブラッソの首都であるセルバトロンコについてから、色んな事が立て続けに起こった事を思い出しながら、あれが僅か一日にも満たない出来事だった事を思い、苦笑いしてしまった。
「セルバの奇跡が終わったのは夕方から夜にかけてだったから、結構長い時間寝てたんだな。俺」
『そうもんね、ぐっすりだったもん。そのまま気絶したもんから、仕方なくそのまま寝かせてたもん。プナナも相当疲れてたもんし』
ん? そのまま?
「クゥン……もう朝でしゅか? ふわぁ……」
俺が寝かされていたベッドから、もぞもぞとプナナが顔を出して、伸びをしていた。
プナナは何故か裸だった。
「……おはようプナナ」
「あ、ヒイロお兄ちゃん、おはようでしゅ。昨日はセルバ様の事でお世話になったでしゅ、改めてお礼を言わせてほしいでしゅ。本当にありがとうでしゅ」
プナナは裸のまま、ベッドに座り直して俺に深々を土下座の様な形で頭を下げた。
「いや、俺は大した事はしてないから、お礼とかはいいよプナナ。というより、なんで裸なんだ??」
「プナナは寝る時は裸派でしゅ。木の精霊……セルバ様が昔からその方が肌の感覚が鋭敏になって、物作りに役立つって」
セルバ、あんたの仕業か。
『そう、ワタシの仕業ネ』
セルバの声がどこからかしたと思ったら、なんとプナナの隣から姿を現した。
しかもプナナと同じく裸で。
「やめてくれ、マレッサ、パルカ!! 俺はちゃんと目をつぶっている!! 目つぶしはやめてくれ!! そしてセルバ様、服を着てくれ!! 今は人間と同じような姿なんだから!! あとナチュラルに人の心を読むな!!」
目つぶしの体勢に対っていたマレッサとパルカはチッと舌打ちをした。
目つぶしが目的になってないか、おい。
『セルバ、ベッドに潜り込んでたのは分かってたけど、なんでデイジーちゃんに貰った服を脱いでるのよ。今のアンタは見た目は人間と同じなんだから、少しは恥じらいを持ちなさいよ』
『しかもかなりのボンッ、キュッ、ボンッって体つきもんから、ヒイロの目には毒もん、早くその凶器じみた乳とかしまうもん。あと、プナナ、お前も着替えてくるもん』
マレッサとパルカに言われ、プナナはわかったでしゅと良い返事をして部屋の奥へ着替えに行き、セルバはしぶしぶと言った様子で服を着た。
胸元だけ隠しているチューブトップのインナーにホットパンツというセルバの服装は、なんというか逆に際どさが増しているような気がする。
露出度的には裸よりはマシかなと言った程度である。
『まぁ、二人が言うなら仕方ないネ。まぁ、色々と神の権能は消えてるし、弱々しい体にはなったけれど、この体の方がプナナをより感じられていいネ』
「わっぷ!? 急に抱き着かれてるとビックリするでしゅ、セルバ様」
昨日と同じような恰好のプナナにいきなり抱き着き頬ずりするセルバ。
プナナは突然の事に驚きつつも、拒絶せず受け入れている。
その光景を見て、俺は自然と笑みがこぼれた。
何もしていなかったら、この光景は見る事は出来なかったのだと思うと、行動を起こしたデイジー叔父さんには頭が下がる思いだ。
特に何も出来なかった俺だが、あんな恰好になって頑張った甲斐があったという物だ。
『人間、アンタなんか卑猥な顔つきになってるわね。つつくわよ』
『変態もん』
何故、俺がこんな事を言われなければならないのか。
ただ、露出度の高いセルバとプナナが抱き着き合ってる姿を微笑ましく思って見てただけなのに、ちくしょう。