第四記 西班牙軍人
連れていかれたのは葡萄牙の商船。
葡萄牙の商船に西班牙軍人?
とは思ったが、日向は気にしなかった。タラップを上がると丁重に通された。いかにも南蛮の商人たちだ。丘にも上がったことがない船員も居て、日本人を初めて目の前で見て、おーーっと声を上げていた。
「こちらへどうぞ」
西班牙の参謀らしきが船内に案内した。
武器らしきは積んでいない。大砲もない。まさに商船だ。武器は売り物だけらしい。船底にでもあるのだろう。
そう、ザビエルたちは自分達の船で大航海をしてきた。イエズス会の船である。布教である。始め西班牙から西に航路を取ったが、そこはイスラム教が大半を占めていたので諦めた。そして東に路を変え南米に赴いた。その後、南米から大西洋、希望岬を通ってインド、そして中国、東南アジアを経路して日本に来た。
葡萄牙船は鉄砲を日本に伝来した国だけあって商魂逞しい。
葡萄牙はどうなんだ?軍人はいないか?辺りを見回したが、いないようである。そりゃ、軍人など乗っていたら商売もやりづらいだろう。
なぜ?西班牙は大丈夫なのか?
「ここです」豪華な部屋が用意されていた。
「まあ、お座りください」
「私は西班牙海軍大将のティアゴと云います」
海軍大将?また随分と上級の階級ですね。
「いえ、今だけです。提督=海軍大将ですが、今回の命で一時的なものです。葡萄牙人に偉い人と思わせるためです」
私は須佐日向。医者です。率直に聞きます。なぜ?今、あなたがたは葡萄牙の商船に乗っている?
「ザビエルたちの警護のため。そりゃ見知らぬ国に来るんですから母国としてはね。まさか軍艦で来るわけにもいかない。ですが極秘です。彼の後にも多くの宣教師がやってきます。葡萄牙は同盟国なのでね。乗せてもらった」
••••••••。
「何か?須佐殿?」
あなたは嘘をついている。
「なぜ?そう思います?」
軍人の色ではない。
「何を云いますか?」
強いて云えば•••情報員。
提督の顔がハッとした。
「何を根拠に?」
図星では無いですか?だから極秘なんですな。侵略前の情報集めだ。
「馬鹿なことを!」
ヤジロウはどこまで訳して良いものか?震えた。
日向殿、言い過ぎです。心の中で思った。
ほう?ではこれは何かな?
棚のファイルを手に取った。「な、何を勝手に!極秘情報ですぞ!」
これは、あなた方の軍事作戦でしょう?ヤジロウさん、この地図を見なさい。薩摩、平戸などの軍艦配備、そして色々書いてありますね。ヤジロウさん、なんと書いてある?
ティアゴはなぜ?ピンポイントでこのファイルを取ったのかわからなかったし、まずい!とも思った。
ヤジロウは読み上げた。
「これは仮の侵略作戦だ!」
つまり、あなたは侵略前の情報集めで命令を受けてきたのですね。
これを義隆殿に見せよう、
「須佐殿、あんたは医者だと云ったが、私にはわかった。只者ではないと。血の匂いは拭いきれない」
そう云うと銃を出し、机の上で構えた。
側近たちも銃を構えた。
私を殺す気か?
「それを奪おうなど正気の沙汰ではない。あんたを殺すなど容易いものだ。あとは誤魔化すさ。いくらでも手はある」
そうやって葡萄牙船に大金を払って乗船したんだな。
「提督!須佐殿を怒らせてはいけない!」
「ヤジロウ!貴様もパライソ(天国)やらに行け!」
Mentiroso・・・。日向はそう云った。西班牙語で「嘘つき野郎」だ。
すると日向の目が真っ赤になった。
「うう!」提督は怯んだ。
ダン!
「うぎゃああああ」
日向が銃を持った提督の手に手裏剣を刺した。机と一緒に貫いた。
「あ!!」
側近たちが慌てて銃を向けた。
日向がさっと見回すと全員の銃が暴発した。
ぐわああん。
「うわあああ」「ぎゃああああ」全員血まみれでのたうち回った。
何があった?と船員たちが武器やらを持ってやってきた。
「ひ、日向殿。大勢来ます」
ヤジロウさん、出るぞ。
部屋の外に出ると数十人の船員が銃やら鎌やらを持って立っていた。
「ジャポネ!中で何をした?!」
中からうめき声が聞こえている。
ヤジロウさん、捕まれ!そう云うと船の外に飛翔した。
「あ!!!」
そして埠頭に着地した。
「あれは人間か?!」
須佐には火力は通用せんぞ!
日向は葡萄牙語でそう叫んだ。
「撃て!撃て!」
船から銃を撃ってきた。ヤジロウは傍の倉庫の影に隠れた。
日向は右人差し指を立て、左手て掴んだ。何やら唱え始めた。
何事かと他の葡萄牙船も近づいてきた。
ズシーーーーン。
日向が唱えると船底に穴が空いた。「大変だ!商品が海に落ちるぞ!」「ばか!その前に沈没するぞ」
緊急サイレンを鳴らした。
ぷああああーーーん。ぷああああーーーん。
村人たちが何が起きた?と集まってきた。ザビエルも居る。
他の葡萄牙船が救助に向かった。
「何事だ!」「あのジャポネが暴れたんだ」「船を降りて捕まえろ!」
日向はまた飛んだ。そして救助に来た船に乗った。
「な、なんだ?!」「こいつ、空を飛んだぞ!」
そして背から刀を出した。
「や、やる気か?!」
そして床に刀を刺した。するとメキメキと割れ始めた。
「や、やめろ!この船まで沈む」
では、手は出すな。救助はさせてやる。あとは大人しくしていろ。
「わ、わかった」
こいつは人間じゃない。葡萄牙人は皆、そう思った。
ザビエルは日向に手を合わせていた。村人も皆、そうした。
ヤジロウも出てきてそうした。
「あれが須佐一族の力••••••。しかも日向殿は武人ではないと云う。武人はどれほどの法力を持つんだろうか?どんなに火力を誇っても、多くの兵を揃えても須佐には敵わないだろう。それどころではない。国が全滅するかもしれない。戦国大名たちは須佐のことをどれほど知っているのか?少なくとも義隆様は知っているに違いない」