表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

古代遺跡調査報告書

作者: sordmany

【本を探して】

 タランティーノは案に困っていた。ドリーム社の企画案の発表日が迫っているのだった。彼は宣託市立図書館に来た。はじめ『思想』の分野の本を手当たり次第に読み漁った。しかし、内容の難しさと興味の引かなさで、彼の集中力は途切れた。気づけば彼の好きな『歴史』の分野にいた。棚に並ぶ沢山の本の中に、彼の目を引く本があった。彼はその本を手に取った。

「『古代遺跡調査報告書 著者・ボルサリーノ・ボランティーノ』!?家の先祖か!」

彼の驚いた声が図書館に響き渡った。彼は身を縮めながら貸し出しの受付へ移動した。彼は仕事場に戻った。借りてきた四、五冊の本を机に並べ、腕組みをした。

「まずは、これから読もう」

彼は、先祖の著書を手に取り、席について読み始めた。


【はじめに】

 まず、私がどのように探検家を志すようになったかについて書き始めようと思う。私は元々ピッツァ職人だった。私の地元の名物であるピッツァを仕事にしようと思い、町でそこそこ名の知れた店に面接を受けた。勿論合格し、それから私は腕をめきめき上達させていった。その内、オーナーを任されるようになった頃の事だ。毎日賑わう店の中に、遠い町から来る客がいた。その客は珍しいモノ好きで、新しい話を仕入れては他の客に話していた。その客が、帰り際に私に話をしてきた。

「君、知っているかい?その顔じゃ知らないだろうね。なんでも、つい1カ月ほど前の話だが、ある探検家が古代遺跡を発掘したらしい。そこまではよかったんだが、なんでも、その探検家はその遺跡に入ったっきり、帰って来ないそうだよ。怖い話だろう?君も気をつけたまえよ」

私はこの話を聞いたとき、はじめは本当か疑わしく思っていた。但し、日を重ねるにつれて、その探検家の話が興味深くなっていった。そして、ある日、決心した。私もこの目で確かめるため、探検家になること。それから私は優秀な弟子に店を任せ、古代遺跡へと足を運んだのだった。


【調査報告1~巨大な爪痕~】

 古代遺跡の場所を特定するのは簡単だった。あの客が何故帰って来ない探検家の話を話せたのか。それは、その探検家に同行した人物がいて、その人物は無事に帰ってきているということだ。それは客がでたらめな話をしていなければ確実な事である。幸いな事に、同行したという人物はすぐに見つかった。その人物に聞き、古代遺跡の場所とそこで起こった出来事が判明した。私が古代遺跡に向かうと言うと、その人物は恐怖による戦慄で満ちた顔になった。それを見て、私は古代遺跡への興味が強くなった。私は万全の準備を施した。探検に欠かせない道具類は勿論、2週間程度を生き延びる食糧を詰め込んだ鞄を背負い、私は出発した。地図を見ながら、目印を付けた地点に進む。森の茂った木々をかき分けたり、川の石を飛び越えたり、険しい道のりだった。何時間も歩いてきた森の奥深くに古代遺跡はあった。私は一つ深呼吸をした後、古代遺跡へと足を踏み入れた。遺跡の入り口にある梯子を下り終えると、子供がやっと通れる大きさの穴があった。私は屈んで、その穴の中を進んだ。しばらく狭い道が続き、私の足が限界に達し始めた頃、急に視界が開けた。突如現れたその空間は、大人でも立つことの出来る広さがあった。今通って来た穴から見て左側に抉られたような大きな穴が開いていた。今通って来た穴から見て右側、つまり大きな穴の反対側に何かで引っ掻いたような三本の跡があった。抉られた穴と引っ掻いた跡、この二つから考えられるのは、巨人が何かと戦う最中に、出来た空間なのではないかと私は推測する。しかし、私は今までで巨人と遭遇したことがないため、これは単なる推測に過ぎない。それでも、私はこの推測に根拠のない自信があるため、この空間を“巨人の爪痕”と名付ける。私は独りでに楽しくなった。さらに、遺跡の奥地へと進むため、大きな穴へ入った。


【調査報告12~焦げたダイヤモンド~】

 私はしばしの休息を終え、遺跡探検を再開した。この辺りは天井に穴が開いているのか、時折、日差しが差していた。遺跡の中は冷えるため、日光の自然な暖かさを感じて嬉しかった。その日光が成長させたのか多少の雑草も生えていた。こんな遺跡の中で生えるとは、自然の力は偉大だ。そう言っているうちに、またしても大人が立つことの出来る広さがある空間が現れた。探検開始してすぐに発見した“巨人の爪痕”と同様のものがここでも見受けられた。ここではその反対側が塞がれていたが、よく調べてみると、一度開いた穴が落盤により埋まったような跡があった。やはり、巨人が開けた穴なのか。それにしても、巨人は何と戦っていたのだろうか。こんな森の奥深くに人間がいたとは考えにくい。そうなると、食料となる動物を狩ろうとしていたのかもしれない。そう考えていたとき、私は壁に焦げたような跡を発見した。私はその焦げた部分を崩さないように壁を削り取る作業を開始した。焦げた部分を持ち帰り、分析するためである。私は慎重かつ大胆に壁を削り取っていった。そして、削り始めて1時間程で、焦げた部分を壁から取ることができた。後に、これを持ち帰って分析した結果、焦げた部分はダイヤモンドであることが分かった。私はこれを“焦げたダイヤモンド”と名付け、大切に保管することにした。調べたところ、ダイヤモンドは燃えやすい性質があるという。600℃で黒くなり、800℃で燃え始める。ということは、それだけの熱が遺跡の中で放出されたことになる。ますます謎が深まっていくこの遺跡の奥へと進む私の足は止まることはなかった。


【調査報告46~異様な空気~】

 ついに、長きにわたったこの調査報告もこれで最後となる。私はこの遺跡の魅力に憑りつかれていた。どんなに狭くとも、私は踏ん張って耐え、どんなに暗くとも、私は諦めることなく遺跡を探検した。その度にこの遺跡は私を驚かせてくれるのである。そして、最後に私は最大級の驚きを体験することになるのだった。狭い道を抜け、とびきり広い空間が私の前に現れた。その広さは、大人が立つことの出来るどころの話ではなく、ピラミッドでさえ納まりそうな程だった。これは決して大袈裟な表現ではなく、確かにそれぐらいの広さがあった。そこで、私は思わず尻餅をついてしまった。決して疲れたからでも、躓いたわけでもなかった。そこに立つ巨人の石像に驚いたからだった。それも一体ではなく、三体もの石像が横に並んでいた。この石像群が今まで見た“巨人の爪痕”や“焦げたダイヤモンド”などの跡をつけた主なのだろうか。見れば見るほどいるはずがないと思いが溢れてくる石像群の前で、私は一夜を過ごした。夢よりも不思議な石像群の事を考え、朝を迎えた。その時、朝の陽ざしで空気の異様な色の淀みを見た。私は確かめるため、起き上がりその空気の方に近づいた。その時、人が奥の穴に入るのが見えた。もしかして行方不明の探検家かもしれない。私は急いで後を追った。その穴の中は階段になっていた。私は階段を駆け上がった。私の足音の他に階段を駆け上がる音が響いていた。間違いなく誰かがいる。私は最上階に着いた。そこにいた人が巨人像に飛び移った。咄嗟に私は手を伸ばした。すると、私は足を踏み外し、転落してしまった。その時起きたことが最大級の体験であるのだが、私が転落し、死を覚悟したとき、巨人の石像が光り輝き、私に手を差し伸べたように見えた。確証がないため現実か夢かはっきりしないが、私ともう一人の男は無事だった。この時、異様な空気は収まっていた。因みに、この男は私の予想通り行方不明の探検家だった。彼は、この遺跡に来たとき、そこら中にあるダイヤモンドを独り占めにするため、同行する探検家を驚かして追い返した。但し、彼は怪我を負い、帰れなくなって怪我が治るまで休んでいた。その時、私が来たことに気づいた彼は慌てて逃げたのだった。逃げてまた怪我を負えば元も子もないと思うのだが。彼は帰った後、命拾いした事に感謝し、私と同行した探検家に均等にダイヤモンドを分けてくれたのだった。


【おわりに】

探検を終えて、何とも探求心を惹きつけてやまない遺跡だと思った。これだけ謎に満ちた遺跡は他にないのではないだろうか。一つ気になるのは、私たちが遺跡から出てきたとき、私が数えていたよりも三日程多く経っていたことである。転落したときに三日間眠っていたのかもしれない。それとも、巨人が私たちの時間を止め、異様な空気の根源と戦っていたのかもしれない。最後まで謎に満ちた調査報告となったが、私はここで体験した事を元に独自の宗教を布教する活動を始める。因みに、信仰する神の名は休息と言う意味の“ノア”と名付けることにする。神ノアは救った者に永遠の休息を与えるのである。私は神の存在を遺跡での体験で確信したように、皆さまにも神の存在を確信してもらえるよう努力していきたいと思っている。最後に、ここまで読んでくれた読者の方に感謝を申し上げるとともにノアへの感謝も捧げて終わりとする。


【本を読んで】

 タランティーノは本を閉じた。しばらく考え事をする時に飲むコーヒーを沸かし始めた。彼はコーヒーをカップに注ぎ、席についた。コーヒーを一口飲み、ため息をついた。

「御先祖様も光の巨人を見たんだ。でも、それは人に信じてもらえない話だから、宗教の布教というやり方で信じてもらおうとしたんだ。きっとそうだ」

その時、彼の娘ユメがやって来た。

「あれ?帰って来るのは明日じゃなかったか?」

「違うよ。彼の予定が早く済んだから一日早く帰るって電話で言ったじゃない」

「そうだったか。ははは。まあ、コーヒーでも飲んでいったらどうだ?」

「ここに長くいると吐き気がしちゃうからいい」

「ああ、そうか。悪い思い出があるから仕方ない」

「これを持ってきた。お母さんが渡すようにって」

「これは!私の好きなピッツァじゃないか!これで良い案が思い浮かぶかもしれない!ありがとう」

「うん。じゃあ、後でね」

タランティーノはピザを頬張りながら、コーヒーを飲んだ。

「待てよ。人に信じてもらえない話を自分だけの宗教として広めるアプリを作るのはどうだろう」

その後、タランティーノの企画案が選出され、ドリーム社の目玉アプリとして世間に広まるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ