えんぴつは六角形がいい
えんぴつは、六角が気に入っている。
四角だと転がりにくいし、丸だと止まらない。
コロコロコロコロ ピタッ
「1か。」
数字の他にも『ABCEFD』『いろはにほへ』など、数種類のえんぴつを気分によって使い分けている。
えんぴつの後ろを少し平らに削って文字を書いている。俺のお手製だ。
えんぴつを転がして俺の未来を決めている。
小さな未来を。
「1か。じゃあ今日は図書館で勉強だな。」
勉強道具をカバンに詰めて家をでた。
1、3、5がでたら、図書館で、
2、4、6がでたら、家で、
勉強するって決めてえんぴつを転がしたのだった。
テストの時は苦労する。
えんぴつを転がしたくても、音が鳴って注意される。
音が鳴らないように十分に配慮しても、見つかって怒られた。
まあ、音はなくとも、テスト中に何度も机の上をころころ、えんぴつが転がっていれば、先生じゃなくたって気がつくだろう、
それでも、どうしてもえんぴつを転がしたくて、
1、両手の平で回したいえんぴつを挟む。目をつぶって手のひらを擦るように手に挟んだえんぴつを転がす。
2、えんぴつを見ずに机にさりげなく2、3回転がるように置いて、さりげなく回しながら持ち上げ、一番上の面の数字を書く
などなど、いろいろな方法を編み出してきた。
そして、えんぴつを回す時はいつも心の中で当たれーといいながら、神に祈る。
そんなことに頭を使ってバリエーションを増やしていたら、えんぴつに文字がかいてあるもの自体、テスト中使用禁止になってっしまった。
なんてことだ!
しかし、そんなことではめげる俺ではない。
次に考えたのが、六面のうち一面の行にだけメーカー名などが刻まれたえんぴつを使うこと。
それなら、元々の印字だし、文字がかいてあるに該当しない。
字が刻まれた面がでた回答は合ってる、出なかったら違う答えにするという具合に。
俺は、えんぴつ占いは俺の人生を左右する素晴らしい占いなのだと、心底思っている。
ある日とうとう担任に呼び出された。
「他のことにその情熱は傾けられないのか?」
「…」
だんまりでやり過ごそうとした。けれど、
この情熱を他に傾ける?冗談じゃない!?
えんぴつは素晴らしい。
木の質感、フォルム、重さ、削る時の感触と匂い。
メーカーによってちがう、芯の硬さ、色、描き心地。
シャープペンシルなる文明が文具界に現れても、今なおその姿を変えることなく、文具界に降臨し続けている。
素晴らしい!
削りたい分だけ軸からでている糸を引くと、まるでりんごの皮むきのように繋がって芯の周りの木がむけていき、芯があらわれるという、鉛筆削りがなくても書き続けられるものや、紙だけではなくガラスにかけるえんぴつなども開発され売られている。
素晴らしい!
美術のデッサン下絵など、書道の硬筆、芸術の分野でも大活躍だ!
素晴らしい!!
濃さといえば、10B鉛筆があることも知った。
薄い方も2Hまでしっていたが、それよりも硬い鉛筆もあった。
そういえば、設計図ようの鉛筆もある。
職人が、芸術家が鉛筆を使っているのだ。
筆記具がこんなに発展してきているのに。
そして、俺にとってえんぴつは、少し先の小さな未来を決めてくれる大切な相棒だ。
ずっと悩んで悩んで決められなかったあの日、えんぴつを転がした。
ずっと悩んで悩んで決められなくて、立ち止まっていたあの日。
えんぴつに背中を押してもらって動くことができたんだ。
それからずっと、悩んで立ち止まりそうになると、えんぴつを転がしてきた。
なにがいけない?
何がいけないんだ?
先生に問う。
「えんぴつ占いの何がいけないのでしょうか。」
「ん?」
「えんぴつ占いに救われてきたんです。何がいけないのですか?」
「ん?TPOを弁えろ。テスト中にやるな。他でやれ。」
「学生にはテストが1番運命を左右する一大事。その時使わなくていつ使うんですか?」
「ん?いつも使ってるだろう?テストは占いではなく、実力を試す場だ!」
…あれ?納得。確かにそうだ。
「先生分かりました。」
「え?分かったのか?」
「はい。先生は、えんぴつ占い自体を否定していると勘違いして意固地になってました。申し訳ありません。おっしゃる通りです。」
「そ、そうか。」
急に納得した俺を見て、先生は困惑気味だ。
俺は、先生に決意表明をした。
「家の勉強の山掛けに使い、当日は封印します!今まで申し訳ありませんでした!」
「山掛けを堂々と宣言されても困るが、テスト中は実力勝負してくれるというのはよかった。頑張るんだぞ。」
「はい。失礼します。」
質問してよかった。えんぴつ占いが悪いと言われていたわけではなかった。えんぴつ占いを持ち込んではいけない聖域もあるということだったのだ!
えんぴつ占いのおかげで、先生と打ち解けることができた。そしてまた、えんぴつ占いのことが一つ分かって嬉しい。
ありがとう。えんぴつ。
これからも転がすからな!
よろしく!