愛しさの隣で
用も無いのに
電話をしているのは、
学生の頃みたい。
それは懐かしい。
夜中の公衆電話で、
話したこともあった。
それだって、
たぶん用は無かった。
何を話せばいいのか、
考えたりもした。
用はないのだから。
声を聞きたいだけで。
今にして思えば、
それは時のデザート。
そう思える後から、
今の暮らしを振り返る。
いつの間にか
秋の虫の音が聞こえて、
時折吹く風の物腰も、
柔らかくなっている。
今年も優しい季節。
平和な島国の中にいて、
純愛めいたことを
文字にできるとは。
そして、思うにつけ、
それどころではない
境涯を想像してみる。
事件の背景の悲惨さ。
親の因果が子に報いと
聞こえてくる。
人それぞれの運命、
乗り越える人はいるけれど。
あの子が狂っているから、
あの子一人が罪を背負う。
どうしようもないのか、
国が息の根を止めた。
戦争についても、
今では想像でしかない。
あの国に行ったとき、
小銃を突きつけられた。
多くの勘違いが
あるのか、ないのか。
人間同士で争う感じを、
悲しいかな、感じた。
感じてしまうのは、
自分にも戦争の種が
埋もれているってこと。
愛しさの根の隣でも。
考えても、想像しても、
事件も戦争も消せないぞ。
それでも消えた世界を
想像し続ける素人詩人。
してきた悪行の数々。
今更どうしようもなく、
今でも重ねてしまう日々。
いつかこの命の時も終わる。
今日も用も無いのに
電話をしながら、
晩ご飯を何にするのか
決めてもらった。
食べるデザートは
特に無くてもよくて、
無花果が熟せば、
それで充分だと思う。
つまりはぼんやりと、
安全に身を置きながら、
平和なこの島国で、
偏った雨を待っている。
ひと雨ごとに秋が
深まるのがいい。
用もないのだから、
いいに決まっているね。