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*1* ネットの海のアンモナイト。

またもや思い付きの産物。

全6話と短いので生暖かい目で見てね(*´ω`*)


 俺は承認をするのが好きだ。


 ただ別に怪しい書類や明らかに釣りなサイトに、何の考えもなくサインや個人情報を入れるのが好きという訳じゃない。


 何かを誰に褒められる訳でもなく、延々と創造し続けられる人間を承認するのが好きだった。昔ならともかく現代のネット社会ともなれば、ほぼ無尽蔵にそういった物作りや創作系のサイトがある。


 そういった中から好みというか、フォントや画像が見やすいサイトに登録してそこに溢れる作品情報の端にあるハートや、親指を立てているボタンを押すのが一日の仕事を終え、缶ビールとコンビニ弁当をつつく俺の日課だ。


 メッセージや投げ銭といったものは一切しない。ただ単にそれを作っている年齢も、性別も、本名も分からない無数の人達に、何も生み出せない俺が「おお……すげぇな」という、これまた何の捻りもない感想を抱いた瞬間に押す。


 一部のサイトではハンドルネームがオジサンなこともあり、青い鳥で〝承認返し期待オジ〟や〝ボットオジ〟だったり、他にも〝相互待ちオジ〟や〝出逢い待ちオジ〟などと呼ばれて人気を博している。


 世間一般では三十三歳の俺はこどおじと呼ばれる部類らしいので、そう呼ばれるのも仕方がないと思っていた。それ自体は特に気にしてはいないものの、不快だからそう呟くのだろうし、そういった呟きをしていた相手のところには次からいかないように気を使った。


 良いものを見せてくれた相手に気持ち悪がられるのはこっちも本意じゃない。不愉快な感情で創作意欲が鈍ったら誰かの損失になる。


 親と不仲で高卒で家を飛び出して、ブラック企業で使い潰されて身体を壊してから、頼れる相手もいないという理由だけで働く毎日に、そういった世界は眩しい。

 

 幸いにも今は派遣会社の求人で引き当てた道路工事現場の交通整理をやっているが、現場で一番若い俺を回りのベテランは可愛がってくれるし、俺も割と社交的なおかげで居心地は良い。ただ工事が減る時期になったらまた新しく派遣先を変えてもらわないとならない。


 今時珍しい白熱灯の下で開いた中古のノートパソコンが不穏な唸りをあげている。そろそろ寿命かもしれないと思いつつ、次のサイトの名前を打ち込んで検索をかけた。カリカリと音を立てて読み込み、すぐにフリーズする様が自分に重なって多少愛着を感じる。


 今の生活は味気ないが、特別こだわりも夢も欲求もないので苦ではなかった。強いていうなら新しいノートパソコンは欲しいが、俺が頑張らなくとも世界は回るし、地球上の日本という小さな島国だけでもこれだけ多くの人間が創作をして、世の中の誰かの心に彩りを添えている。


 ネットサーフィンを始めて三時間。登録しているサイトは巡回したし、目ぼしい作品にはボタンを押した。趣味に付き合わせているノートパソコンも音と熱がヤバくなってきたので、今夜はこの辺にしておこう。そう思った矢先だった。

 

「ん……何だこれ。やけに酷い出来だな。子供の作品か?」


 酒に弱い訳じゃないが、思わず疲れて酔いが回りやすくなっていたのかと訝かしんで目を擦った――……が。画面に映し出される作者のアイコンはどう見てもウ○コだった。しかしハンドルネームはアンモナイト。だとしたらアイコンのこれもウ○コではなくアンモナイトだろう。


「と、尖ってるな……かなり褒めるのが難しいぞ、これ」


 流石の俺もボタンを押すのを躊躇う。食事が終わった後だったから良いものの、カレー弁当とかを食べていたらブラウザバック案件だ。案の定、作者の作品一覧には誰も押した形跡のない作品群が並んでいる。プロフィール欄には【物を作るのが好き】【学生】とだけ記載があった。


 でも本当に何かを作り出すのが好きなのだろう。商品欄のところには随分前衛的なマスキングテープやアクリルキーホルダーが並んでいるし、作品を作る期間に隙間がほとんどない。


「作品は意味が分からんけどまぁ……応援はしたくなる熱量だよな」


 誰へ何の言い訳なのかついそう独り言を呟いて、不細工なウサギなのか、サルなのか、クマにも見えるような――要するに判別がつかないものの、こういったサイトで初めてアクリルキーホルダーを一個ポチってしまった。


 金額は千六百円。高額なのは作っているロット数がたぶん少ないのだろう。学生とあるのだから最悪製作費用の回収くらいはといった値の付け方だ。決して気に入った訳でもない色と形のキーホルダーに払うには高すぎる金額だと分かっている。


 分かっているけれど、何となく。

 何となくポチったついでにアンモナイト氏にスタンプも一個つけた。

 使うことなんてないだろうと思っていた、宇宙猫のスタンプを。

 

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