架空遺言⑥
親愛なる先生
突然の手紙に驚いておられるかもしれません。この手紙を読んでおられる時には私はおそらくこの世にはいないのでしょう。
先生もご存知の通り、我が陸軍内部では派閥争いが続いております。そしてデルメン派のギール上級大将が元帥に昇進し参謀本部総長についたことにより、我が聖歌隊は権力闘争に事実上敗北しました。先日、デルメンの将校たちがやってきて、私に軍法会議への出廷を要請する旨の紙を突きつけてきました。皇帝陛下の暗殺を企てたことによる国家反逆罪だとの事です。加速主義者共がその計画をつくり、我が聖歌隊の一部がそれに加担していたのは事実です。しかし、私は帝国士官学校を出ており、陛下の慈愛があってこそ今日の私が存在していると考えており、陛下に対する反逆の意思は微塵もありません。ですが、彼らははこれを拒むと家族もろとも射殺すると言ってきました。このことに家族を巻き込むわけにはいきません。よって私は軍法会議に出廷します。出廷すれば極刑は必至でありますが、愛する妻と3人の子どもたちのために高潔な帝国軍人として行くのです。私が消えればデルメン派の暴走に歯止めがかからなくなり、帝国は絶滅戦争に向けて突っ走るでしょう。先生、愛する私の家族、そして帝国を頼みます。
サヴァルタ帝国陸軍 大佐 ドュルーヴォ・ヨーデン
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