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ばいおろじぃ的な村の奇譚  作者: ノラ博士
21/62

其ノ弐拾壱 巨木の家が建ち並ぶ村

 奇妙な村だった。


 オーストラリア連邦のグレートバリアリーフ北部に位置する、自然保護区として立ち入り制限されている小さな島。優雅に泳ぐアオウミガメの周りを色とりどりの魚たちが群泳し、カラフルで多様なサンゴに彩られた海底にオオシャコガイが鎮座する。

 白い砂浜の向こうには、この国の政府によるプロジェクトで熱帯雨林と化した陸地が広がっている。一見すると普通種ばかりだが、その中に隠された特別な木の見学が今回の目的である。


 私はボートを浅瀬に係留させて、押し寄せては引いていく波の心地良さを足に感じながら上陸した。波打ち際の少し先では、この保護区の責任者2人が暑苦しそうなスーツと革靴に身を包んだ姿で出迎えてくれている。


「ヨウコソ、オイデクダサイマシタ」

「お会いするのは、技術協力の申し出を頂いて以来でしょうか。さ、こちらへ」


 この島のプロジェクトにおける主任研究員である小柄な白人女性が、カタコトではあるが日本語であいさつをしてくれた。副主任であり研究者らしからぬ爽やかなマッチョの彼に教わったのだろうか。などと考えながら握手を交わして、密林の中央部に位置する村への案内をスタートしてもらう。とても小さい島なので、大して歩かずに着くはずだ。


「5家族、最大25名の枠に、世界中から200倍以上の居住希望者が殺到しました」

「ウレシイ、ヒメイデス」


「住人は原則ベジタリアンですが、華僑の1家族に関しては魚や貝などを捕獲して調理しているようです」

「チュウカリョウリ、ゼッピン…」


 案内がてらに開示してくれる情報は、どれもA級諜報員によって調べがついているものだった。生物学的な情報は私が目視で確認出来る範囲に限定するという誓約が順守されており、ちょっとした問いでも「禁則事項」で返されてしまう。アナライザーの持ち込みも許可されていないので、これは地力で頑張るしかない。

 あれはココヤシ、それはモンパノキ、この大木はベンガルボダイジュ。うん、樹皮でも葉っぱからでも見分けられるぞ。


「トウチャクシマシタ、コチラニナリマス」

「汗をおかきかと存じます。まずは、()()の露天風呂でゆっくりされては如何でしょう」


 私は、その提案に肯定の意思を示しながらも、目の前の幻想的な光景に心を奪われていた。


 ずんぐりとしたキノコの様なシルエットの巨木……その幹の太さは10メートル、周囲の長さは優に30メートルを超えているはずだ。木の上部から一斉に枝分かれした独特な樹形はベニイロリュウケツジュを彷彿とさせるが、樹冠の幅も全体の高さもその比ではなく、幹周りと同じくらいの規模である。そんな巨木が6本も立ち並んでいる場所なんて、世界中を探しても他には見付からないだろう。

 手前に生えている1本にととっと駆け寄り、樹皮を見て、触れる。ゴツゴツとした質感と掌打した際の感触から判断して、外側はコルクガシを参考にしているようだ。


「ちょうどこちらの木の3階が、ゲストハウスになります。屋上へは外階段から…ご案内致します」

「ワタクシハ、ユウハンノテハイヲ」


 緩く螺旋状に並んで生えた枝が階段であるらしく、副主任がエスコートしてくれた。枝の間隔は5センチメートル程度と密になっていて歩きやすい。それぞれの先端には細長くて平行な脈の葉が生い茂っているが、その内の幾つかにはモウセンゴケを思わせる突起と粘液が視認される。不快な吸血性の害虫などをトラップする機構なのだと予想する。


「足元には十分にお気を付け下さい」


 ひょいひょいと既に3分の1ほど進んできており、それなりの高さだなと感じられる。命綱も無いので落ちたら危なそうだ。

 ここまで上ってきて確信を持てたが、この螺旋状の構造はラセツチクに由来するものだな。主だった葉には、竹とリュウケツジュの両方の印象が感じられることからも、その可能性は高いものと思われる。何より、窓から見える()()の様子がその蓋然性を物語っているが、それは中に入ってから改めて観察することにしよう。


「ここから先の樹冠部が露天風呂になっています。枝の隙間からお進み下さい」


 観察と考察をしている間に、階段の終点にまで到達していた。20メートル強の高さからの景色を眺めて一息ついてから、ぐねぐねと入り組んで分岐した枝に手足をかけ、勢い付けて樹上へと飛び込んでいく。


 …そこはまた、世にもファンタジーな光景であった。幹の最上部、茂みの中に広がる半ドーム状の空間。その中心にある窪みには清らかな水がたっぷりと溜まり、幾重にも重なる枝々が成す籠目(かごめ)から光の束が降り注ぐ。深い森の奥まで足を踏み入れたかの様な鮮烈な空気で満ちあふれ、鳥たちが絶えず奏でさえずる音響に包まれていた。

 こんな露天風呂で入浴が出来るとは、今日は大変に贅沢な日だ。


「それではごゆっくりお楽しみ下さい」


 副主任はそう言うと、螺旋階段を下りていった。どこに用意してあったのか、バスタオルを枝の隙間にセットしてくれてある。それでは気兼ねなく、裸になって浸かるとしよう。

 シャツも下着もすぽんと脱いで、ちゃぷんと音を立てながら足先から入る。少し冷たいかとも思ったが、適度に暑い外気との兼ね合いでちょうどいいな。

 これは、雨水が溜まったものだろうか。ややヌメヌメした泉質なのは、樹木から分泌された成分自体の粘性もありそうだが、皮脂や角質を分解する作用にも起因すると思われる。


 ふー、それにしても気持ちいいな。今時期の夕方でこれなのだから、雨季の昼間ならもっと爽快な気分になれそうだ。二重の意味での森林浴というのがまた素晴らしいし、フィトンチッドな香りも小鳥の鳴き声も楽しめて最高だ。

 天然のミュージックを提供してくれている鳥たち…色々なインコやミツスイなどは、小さな赤い花とその実に釣られて、集まっているらしい……


 1時間が経過。


 あまりに極楽で、しばらく思考を停止してくつろいでいた。私にしては相当な長風呂をしたと言える。ざぶっと上がりバスタオルで水気を吸って、着替えを身に付けていく。

 お、手の届くところに鳥たちが食べていた赤い実がなっている。1つだけ食べてみよう。軽くジャンプして採ったそれを少し観察してから、口の中に放って噛み潰す。うん、甘い。ひたすらに甘い。見た目と中身はレッドカラントに似ているが、その酸味の全てが甘味に置き換えられたようなテイストになっている。


 さて、この木の外観をよく見つつ下まで戻るとするか。太めの枝に体重を預けながら足先で階段を探り、足場を確保してから外界へと出る。遠くの空を見やると、もう少しで水平線に触れそうなくらいに太陽が傾いていた。


 木肌を右手で撫でながら下りていく。それで気が付いたが、この木の表面はうっすらと樹脂で覆われているようだ。おそらく我々が技術提供した、防虫や、絞め殺し植物や寄生植物の発芽を抑える働きをするものだろう。   

 そうすると、窓に収まっているクリアな板もその樹脂を利用していそうである。あれは硬化するとガラス並みの透明度になるのも売りなのだ。近くにあった窓板を軽く叩いてみると覚えのある響き具合で、やはりその様に思われる。

 この窓の枠には、枝が落ちた痕が残っているな。形成メカニズムを想像するに、枝の根元に樹脂が溜まってプレート状に硬化した後、枝が脱落して露出したのだろう。反対側も見てみなくては。


「露天風呂は堪能されたようですね。お食事の用意もできていますよ」

「デキタテ、オスソワケ イタダキマシタ」


 階段を下りきったところで、2人が待ってくれていた。お待たせしましたと言葉を発し、(いざな)われるまま入口へと向かう。…その入口はドアも無く、巨木にぽっかりと空いた大穴であった。窓と同じく、枝が脱落して作られた構造のようだ。その裏側、木の内側から見ても同じ様な痕が確認されるので、こうした穴は内外の枝に挟まれた領域に形成されるものと理解された。


 いや、それにしても……見事なものである。あれだけの巨木の中が、とても広々とした空間になっている。壁こそ80センチメートルほどと分厚くはあるが、外から見える大半が居住スペースだったわけだ。

 床、そして天井を見ると、中央のスペースは概ね水平になっているものの、周縁部では螺旋状になっている。その位置関係は外階段と一致しているようだ。やはりこの木の家は、複数の節が繋がって螺旋状になるラセツチクがベースの1つになっていると考えられる。

 それによって、数階建ての床・天井とスロープが一体化したエレガントな構造を作れる上に、かなり中空なので生長スピードが高まるものと予想される。もう1つのベースであろうベニイロリュウケツジュは、同じ単子葉類であり相性の良さもあって選ばれたのだろう。


 竹がベースということは、この村に生えた6軒は全て地下茎で繋がっている可能性が高い。通常の竹であればその中は密に詰まっているはずだが、地下通路になるように改変していたりするのだろうか。いや、それだとプライバシーが、いや、しかし、


「ブシュシュゥ~」


 思考に(ふけ)っている横から聞こえてきたのは、副主任が天井の縁から伸びた細長いものを搾っている音だった。

 その表面は、非常にきめ細かいスポンジ状に見える。これは…吸水根だろうか? 本来は空気中の水分の吸収などに使われる器官であるが、どうやらスポンジ状の構造を凄まじく増殖させた上で、地下の根から吸い上げた水分を溜め込めるように調整してあるらしい。樹液を飲み水として利用する仕組みというわけだ。


「さあ、喉もお渇きかと存じます。こちらを飲みながらお食事と致しましょう」

「チュウカリョウリ、アツイウチガ ビミデス」


 うん、折角の食事である。観察は後回しにして、味わわせて頂くとしよう。この家で唯一の家具かも知れない丸テーブルを囲んでのディナーだ。

 メニューは1品だけだが、それだけで十分に満足出来そうな期待度を目と鼻が知覚している。エビとコウイカ、キノコの炒め物かな。用意されていたフォークを使って口に運ぶ。

 うん、美味い!! 絶妙な塩味と何らかの鳥の出汁が魚介の味を引き立てている。プリッとしたエビと、歯切れの良い弾力が感じられるコウイカ、そして新鮮で肉厚な貝の様な歯触りのキノコと、食感の違いも舌を飽きさせない。


 しかし、この料理の突出したところは、キノコの持つ圧倒的なうま味だな。干していないどころかミディアムくらいの火の通し方でこれとは…ああ、なるほど。これも我々が技術提供したものだ。


 ベニテングタケをベースにして、元のパートナーに関係なく特定の樹木と共生が出来るよう調整可能に改変したキノコ。この木の家は、その特殊な外根菌によって根を保護されて、また、水や無機養分の吸収能力を高めているものと思われる。

 そして、グルタミン酸の10倍のうま味をもたらすと言われる毒素のイボテン酸、その改良型のアミノ酸をこのキノコは多量に含んでいる。それはイボテン酸に匹敵するうま味を口内で発揮しつつも、非常に不安定なため胃液との反応でほぼ無毒化される。この成分に加えて生の状態でもグアニル酸が豊富であったりと、夢の様なうま味食材でもあるのだ。


 お裾分けにしては山盛りの料理を皆で平らげて、木のコップに搾られていた水を飲む。ほんのりとタンニンの風味が感じられ、例えるなら非常に薄い日本茶に近い味わいだろうか。樹液でこんなにサッパリしているのは初めて経験する。


「ワタクシハ、コウゾウブブンヲ セッケイシマシタ」

「私は主にギミック部分を担当しています。例えば…そうですね、もう直に作動するかと」


 会食で会話が弾んで口がすべったのか、技術内容に関係しないレヴェルとは言え、この木の家の設計についての話が聞けた。もう直に作動となると、この室内の明るさに関することだろうか。

 そう意識して過ごしていると、日が沈んで外が暗くなるのに呼応するように、家の内壁が床と天井も含めて光だしてきた。全方向においてルクスが徐々に増していき、やがて木の中の空間は淡い光で満たされるに至った。

 やや青っぽさを感じる白い光。おそらく、多種の発光バクテリアなどから発光に関わる遺伝子を参考にし、それらを同時に働かせて各色をミックスすることで、三原色の重なる光を実現しているのだろう。


 その後はしばらくの間、この島の自然についての話で盛り上がっていた。高い倍率を勝ち抜いてきた村人たちだけでなく、普段はこのゲストハウスで暮らしているという2人も、サンゴ礁に囲まれたこの土地が大変に気に入っているようだ。

 そして、日本語が堪能な副主任に目が行きがちだが、この主任もかなり優秀だな。短期間でここまで日本語を習得したのにも驚きだが、この木の家の構造部分を設計したというのが凄い。特に、2種類の単子葉類を母体として、その外側に双子葉類のコルク層を組み合わせたであろう手法は称賛に値する。その高い知性は、科学を話題にした会話をすると余すことなく伝わってきた。


「残念ですが、そろそろ光が弱まってしまいます。3階にベッドをご用意していますので、ご就寝の準備をして頂ければと存じます」

「タノシイジカンヲ スゴセマシタ、オヤスミナサイマセ」


 いつの間にか、もう深夜と言える時間帯になっていた。発光がこのタイミングで弱まるのは、エネルギーの節約というよりは就寝環境を整えるためだろう。それであれば寝るとしよう。

 窓枠に枝が落ちた痕があることを確認しながら、緩やかに傾いたスロープを壁沿いに上っていく。夜か。あの主任であればCAM植物を参考にして、室内の二酸化炭素を吸収しての換気システムくらいは設けているのだろうな。


 3階が最上階だったらしく、螺旋状の床が平たくなって終了していた。このフロアの天井は独立した構造、つまり通常の竹の節と同じようになっている。これもラセツチクと同じ性質である。

 さて、ベッドとはこの白いふわふわのことを指すようだ。タンポポの綿毛…いや、この国で有名なアカハダノキの花だろうか。大柄な男性でもすっぽり包み込めるくらいの大きさであることを除けば、よく似ている。

 私は、壁から直に咲いているその花に体を沈ませて、ふちゃふちゃとしながら寝る体勢に入った。しなやかな質感の雄しべに埋もれると、こんなに気持ち良いんだな。フローラルな香りも安眠を誘う……


 翌朝、とてもリラックスしてぐっすりと眠れての起床を迎えた。こんなに質の高い睡眠は久しぶりである。分厚いコルク層の壁が断熱性能に優れていて、室温も快適に保たれるのだろう。最も気温が高くなる時期であっても、樹冠を覆う緑によって暑さが緩和されるはずであるし、この木の家は年中快適なのではないだろうか。

 さて、2人はもう目を覚まして朝食の準備でも行っていそうだ。私も身支度をして1階に行くとしよう。


「オハヨウゴザイマス」

「おはようございます。それでは、朝食を採りに参りましょう」


 副主任がそう言って地下へと向かっていったので、私もスロープを下りていく。間もなく床が平たくなってきて螺旋状ではなくなった。ふむ、半地下といったところだな。

 そして、その部屋の壁には大量のフルーツが実っていた。その多くは小さめだが、20個ほどはドリアンくらいの大きさである。


「大きなものを1個お採り下さい。赤いものほど熟れていて甘く、緑のものほど若くて酸味が強くなっています」


 私は適度に熟れていそうな実を選び、それを両手でつかんで()ぎにかかる。しっかりと固定されていたが、引っ張る力を加え続けているとポコンと採れた。サッカーボール大な球状の部分と、それに被さっている部分の2パーツから成る構成は珍しいが、カシューアップルに似た感じだとは言えそうか。

 副主任の方を見ると、両手に1個ずつ抱えている。どうやら1人で1個を食べるということらしい。


「さあ、それでは戻って朝食を始めましょう」


 私は、壁に見付けた黄色い小さな花を見ながら1階へと戻っていった。この木の家では、それぞれの用途に特化した異なる花々が咲くようである。

 おそらく、外部にゲノム情報が漏れることを防ぐため、花粉は作られず、受粉を介さないで結実するように調整されているだろう。また、種子についても発芽する能力は消失させてあるはずだ。


「チョウショク、イタダキマショウ」

「丸い塊の中心部にはナッツが入っています。ナッツはローストする必要がありますが、その他は全てそのまま食べられます」


 それでは実食である。まずは丸い部分にガブリと噛み付く。おお、これは。ふむ、ふむ。なるほど、これは美味しいし面白い。


 果実というものは、生殖器である花の一部が肥大化したものだと言えるが、どの部位がそうなるかは様々である。例えば、種子を覆っている外種皮が可食部になるザクロ、その外側の仮種皮を食べるマンゴスチン、その外側の内果皮なら柑橘類、中果皮だとモモ、そして最も外側の外果皮は単なる皮、といった具合である。

 しかし、この奇妙なフルーツは、それらの果実がそれぞれの部位で作られるという、1個の実がフルーツの盛り合わせを層状に成す仕様らしい。丸い部分に被さっていた方については、カシューアップルの味がする。つまり、この部分は花托(かたく)が肥大化しているものと思われる。


 …2人が驚いた顔をしてこちらを見ていた。そうか、確かに朝から食べ尽くす量ではなさそうだし、おそらく1日かけて1個を食べるものなのだろう。


「この実は完全栄養食でして…1日…」

「キンソクジコウデス!!」


 動揺した副主任が、目視だけでは分からない情報を教えてくれた。主任の鋭い目付きからは、私が去った後の厳しいお叱りが予想される。

 そして、完全栄養食なのか。果肉には炭水化物やミネラル、水溶性ビタミンやカロテノイドなどが含まれていて、ナッツの方に必須アミノ酸や必須脂肪酸、それと脂溶性ビタミンが豊富に含まれているのだろう。


「ナ、ナッツをロースト致しますね」


 慌てている彼に、果肉を食べ尽くして露わになったテニスボール大のナッツを手渡した。ローストにはそこそこ時間を要するはずなので、その間にトイレにでも行っておくとする。


「トイレハ、ソトニナリマス。コノカベノ、ウラテニゴサイマス」


 外にトイレか。ウツボカズラでも壁から生えているのだと予想しておこう。あれは葉が変形したものだから調整しやすいだろうし、ツパイやコウモリが排泄物を投入するケースもあるので違和感が無い。肥料になって有効活用されると考えれば一石二鳥だ。

 この予想は見事に当たっており、木の家の裏手には小便器ほどの大きさのウツボカズラが生えていた。どうやら一石三鳥を狙っていたらしく、木を食害するシロアリを(おび)き寄せて始末する仕組みも付加されているようだった。

 私はそこへ手短に用を足しながら、短い毛がびっしりと生えた葉がウツボカズラに付随していることに気が付いた。触れると質感は柔らかく、それがトイレットペーパー代わりであることは容易に想像がつく。


 家の中に戻ったところ、ローストにはまだ時間がかかるとのことで、先にこの村を出る準備をすることになった。まずは、主任に手渡されたヌクレアーゼの錠剤を飲む。フルーツやナッツの消化物から、遺伝子の断片すらも検出が出来なくするためだろう。あとは衣類などに付着した植物片を取り除かれたりしていた。


「ロースト、オソイデスネ。チョット、ミテマイリマス」


 そう言って外に出ていく彼女の後を追う。村の外れにある焚き火ゾーンに向かっているようだ。そして、そこには副主任と、180センチメートルほどの身長の彼と同じくらいの高さとなっている、凄まじい太さのタケノコが並んでいた。


 生長スピードが凄まじいから、夜が開けたら()()()()()()()、なんてことも起こるのだろう。2人とも、見られてはいけないものを見られたという顔になっている。気の毒ではあるが、じっくりと目視させてもらうとしよう。

 ローストしたばかりのナッツを彼から手渡してもらい、それをカリカリと食べながら、タケノコがもう3メートルほど高くなるのを見届けた。そうして十分に観察を出来たことに満足しながら、私は次の村へと歩みを進めた。

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