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 帰り道で寄り道した。屋台がずらっと並ぶ東町観光通りを歩いてみることにしたのだ。

 色とりどりの提灯や裸電球が、張り巡らされたワイヤーにゆらりゆらり揺れている。行き交う人々をさまざまに照らし、通り道は光と闇色の空気がまだらに入り混じっていた。

 体は芯から火照っていて気分がいい。だから、ソフトコーンによそったオレンジ風味の氷菓子を買った。シャリシャリ食べながら歩く。たちまちおでこが痛くなって二人そろって顔をしかめた。なんだかおかしくて笑い声をたてた。童女らがキャッキャと騒ぎながらやる金魚すくいを眺めた。バンブーチェアに馬乗りになって、ビール片手に将棋を指しているステテコのおじさんたちがいた。堅菓子の型抜きに挑んでいる少年たち。調理中のヤキソバを食い入るように見つめる子供たち。寝ている赤子を背負い、すずろに歩いている夫婦づれ。孫に手を引っ張られている笑顔の老人。そして掘り出し物がないか古物品を漁っている目つきの鋭い男たち――

 自分らもなんかやりたくなって、ふと目についた射的に挑戦した。コルク玉の空気鉄砲で、棚に並べられたキャラメルなどの的を狙うゲームだが、二人とも全弾外した。外すのも無理ない。鉄砲をいくら正確にかまえても、コルク玉、まっすぐ飛ばず、でたらめにカーブしちゃうからだ。もちろん、クレームつけたりなんかそんなヤボはしない。ただひたすら楽しかった。

 次は輪投げをして、今度はシンディが、メッキ仕上げの鈎付き握り鉄棒(禿頭の親父さんが言うには、『十手』という代物なのらしい)をゲットした。シンディ、朱房の握りを右手に持って、棒先で左の手のひらを叩いたり、肩を叩いたり。急に偉ぶってニヒルな流し目をくれたりした。ふざけたふうを見せて誤魔化しているが、コイツかなり喜んでいる。彼女には、ただの鉄の棒で嬉しがる、意外に安っぽい一面がある。

「知らないのねエ……これ、時代劇ではそうとう有名な小道具なのよ」

「はいはい、物知らずでして」

「……それだけ?」

 ちょっとシャクにさわるが、あいにくと今、私はとても気分がいい。シンディを喜ばせてやることにする。

「……どう使うのですか、それ?」

「うぷぷっ! 教えてほしい? ねえ、知りたい? 知りたい?」

「あーあ……」

 両肩をすくめて自分もプッと吹き出した。

 この夢幻の道行き……ずっとずっと続けばいいな。シンディと二人して、心豊かに、ゆうたりと……。

「……平和ね」

 と穏やかにシンディ。おんなじ気持ちだったのかも。

「そういや、今のところ、トラブルがないわね」

「物足りない?」

「すこーーーし。うふふ!」

 二人して微笑をかわす。

 本当に、このまま平穏な道がずっと続いてくれたら……。

 と思ったとたん、と言うか、とうとう、あるいは唐突に――観光通りの端に到着してしまったのだった。

 このタイミングの良さには苦笑するしかない。道のその先は、しんと暗く寝静まった一般住宅地だ。旅人にとっては、夜間は、まあ遠慮すべきエリアだろう。引き返さないといけない。

 そろそろ現実に戻ろう。チャコ、今までの感傷を振り払おうと、力強く。

「旅館に帰りましょ。おなか空いたわ」

「うん……チャコ?」

「はい?」

 シンディ、愛らしくも、美しい表情。そして──

 唐突に。

 この、平和な、夢幻の道行きのはてに──

 唐突に。

「チャコ……とっても、だいじな話があるんだけど……聞いてくれるかな?」

 唐突に、そんなことを口にしたのだった。












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