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 すぐに汗と汚れを落としたかったが、宿のお風呂は混雑しているというので外に出ることにした。タウン着(屋号が入ったパステルピンクの浴衣、銀色の帯、レモンイエローの褞袍)に着替え、たぶんおろしたてと思われる新品の天目千両下駄を、二人で石畳にカラコロ響き合わせて湯屋に向かう。さすが山の上で空気が冷たい。見上げると星が刺すように真っ直ぐ輝いていた。あれは、ひしゃく星。そして猫目星。あそこは、はくちょう座にキツネ座、ねずみ座。牛使い座。……あぁ明日も、きっといいお天気になるだろう。

 チャコたちの宿は街道の東側あり、それで東側、東町の湯屋場に歩いた。そう距離もなく十分もしないうちに到着する。温泉の匂いと湯煙の中、立ち並ぶ中で一番格式の高そうな『白旗の湯』に入ることにした。

 熱いイオウ泉である。なにやってんだか、手でお互いの肩を湯に押し沈め、きゃあきゃあガマン比べした。

 ──

 かぽーん……。

 ──

 水滴ぽたり、ぽたり……。

 ぽたり……。

 ──

 へたってしまって微温湯(ぬるゆ)に移り、脚をマッサージしながらその湯船に浸かっていると、湯気の向こうから、一人の上品な初老の婦人が入って来た。気づいた地元民たちが顔をほころばさせて、「おばんだすゥ」、「おつかれさまだっしゃァ」、などと気安く声をかけている。いちいち返事をしながら婦人は寄ってきて――目が合ってすぐに、お互いに理解した。魔女、この町の回転予報官だ。

「あらまあ、おやまあ、こんな姿でなンですけれども、はンじめましてェ、お嬢さん方……」

 先輩から先に、微笑みとともに挨拶が飛んできた。慌てて頭を下げる。顔面で湯面を打つというネタをご披露。

「堅苦しいことはぬきにしましょ……」

「ありがとうございます。わたし、唐草チャコ。こちらシンディ・ブライアント」

 シンディが十年の知己にでも出会ったかのように花のような笑顔で会釈する。まったくそつがない。

「どちらも二級位です」

 正直に階級をあかすとまず一騒動おこる。だからチャコは“二級位”で押し通している。

「アグネス・ムラタです。去年、一級位を頂戴しました……」

「それはおめでとうございます!」

「では、お弟子さんをお取りになるんですかぁ?」

 シンディがおだてるようなことを言う。アグネスは素直に喜んだ。

「すでに六人(むったり)ほど育てておりますよ……」

 すかさずシンディ、

「それはざんねんだなあ!」

 一級魔女はころころと笑った。

「優秀な子供たちで……ふふッ……いずれわたくしの後釜を狙って、騒動を起こすのでしょうね、ホッホホホ……」

 そのあととりとめない世間話をし、旅の話をし、

「明日以降も安定した秋日和が続くでしょう……お二人の旅路がよきものでありますように……」

 上品な先輩は、そう言い残して先に上がっていったのだった。













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