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 シンディは元気だ! 

 地を這う灌木のほか樹木などなんにもない、岩と土のつづら折りの峠の坂道。その曲がり角に来るたびに土手に上がり、なにに影響されたのか思い入れたっぷりに両腕を空に広げ、風を受ける。ときどき奇声を発する。

「空を飛んでるみたい!」

 歌も歌う。

「くまさんに出会った!」

 ――

 道行く旅人たちがクスクス、あるいはおおっぴらに笑い、口笛を吹きウィンクし、煽り立て、拍手をしてどんどん追い越していく。行程のはかが行かないし、だいいち恥ずかしいったらありゃしない!

 チャコ、顔を赤らめて毎度毎度、相棒を引きずり下ろすのだった。


 視界を遮る何者もない山道。背後の眼下に徐々に広がる、蒼穹よりも真っ青なピュア湖の眺め。最初のうちはいちいち歓声をあげていたシンディも――ついでに自分も――やがて、口数が少なくなっていった。

 北北西から北回りで空を転がっていた太陽も東に傾きはじめ――

 いっそう涼しげな空気になり――

 あわやビバークか! ……というところで二人は、なんとか日暮れ前に峠の宿場街に到達できたのだった。

 セキハラ宿(しゅく)

 宿数四十八を数える、古くから栄える温泉宿場だ。ピュア湖はとうに背後の山陰に消え去り、その峠の上から行く手を見渡すと、山の狭間、宿場街は街道を中央に挟み、左右に広がっている。あちこちに湯煙が立ち上っていた。立ち並ぶ瓦葺きの旅館や、さび付いたトタン屋根の湯屋。食い物屋、雑貨屋、小間物屋などの店舗。それに倍する民家。それらの窓から漏れる生活の灯の黄色い透明な光線が、いまや藍色の空気を染め照らし、逢魔が時のまさにこのひととき、二人して思わず息をのんでしまったほど、美しかった。

 街に入った。

 街道には、各宿の客引きのタスキがけのお女中たちが総出で繰り出し、けたたましく旅人の腕を引っ張り合っている。二人も遠慮なしに捕まってしまった。

「二等!? 雑魚寝? 辛いようッ!」

「一等部屋におしッ! そうおしッ!」

「今ならまだ空いてるよッ!」

「はやく決めないと、どこもふさがっちゃうようーーーッ!」

「さあさあさあさあ――!」

 さすが見る目はある。こっちのフトコロ具合を正確に見抜き、相応にふっかけてくる。もっともシンディを見たら――何より好きなへらず口の叩き合いもできないほど疲れ切った、高価な服装のお嬢様――スティタスもろバレなんだけど。そんなんで交渉にもならず(白状すると脚が音を上げていた)、一軒の旗亭(きてい)に引っ張り込まれたのだった。ともかく、宿が決まるとほっとする、のはなんでだろう……?

 お女中から引き継ぎ、玄関で二人を迎え受けたのは宿の男衆だ。

「へいお二人様、いらっしゃいやしッ! お疲れさまでござんしたッ!」

「いらっしゃいッ!」

「いらっしゃいッ!」

「いらっしゃーーいッ!」

「へいこちらッ! お部屋ご案内、ずずいとお運びくだされましッ!」

 おおう、承知いたしたっ! 案内(あない)せい! ……でもなんだかさらに疲れが増したような気がするぞ!












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