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3/15

 チャコは相も変わらず魔女の略装――黒いノースリーブワンピに膝上までの黒のロングソックス。ただ今回、足元だけはきっちりと固めていて、赤皮の軽登山靴に、足首に砂利よけの白色のショートスパッツを巻いている。背中にはいつもの帆布製のリュックだが、背負子を一枚はさんでいて、汗による湿気の対策にしてる。首には洒落っ気を出した赤いバンダナ。長い黒髪は、汗で見苦しくならないよう後ろで黒紐で束ねている。ウエストに革ベルトを、さりげなく無造作に巻き付け、その腰部(ランバー)に水筒を装着してみている。どうだろう? つまり全身、これ見ようによっては精悍な女戦士にも見え――このたびの山のいでたち、実はチャコ、密かに大いに気に入っていたりする。

 ジョブチェンジしようかしら、などとおどけたことを考えながら振り返った。

 そこに、周囲から完全に浮き上がっているお方がいた。

 シンディ――ロングの金髪なびかせて、愛くるしいフェイス、瑠璃色のつぶらな瞳……。

 チャイナふう立ち襟つきのミャンマースタイルの上衣・シルクのエンジーに、裾に銀糸で流紋を描いたホワイトキュロット。茶皮のベルトの左腰には、象嵌細工の鞘に収められた幅広、短身の半月刀。その柄頭には冗談のつもりか、小さな“魔よけ”の鈴――もちろん金ピカ――が、可愛くぶら下がっている。両手は白豹のハーフグローブ。足拵えは、3代目タイプのエレガントなルーズソックスに、タウンユースフルなマロンのトレッキングシューズ。そうした服装の上に、金糸の幅広鈎十字文様が刺繍された白色の房付きラージケープを纏っていた。背中の四次元トランクはケープの下で、つまりケープは、身体の保護ではなくて、風に格好よくはためかすためにあるようだ。

 もちろん山岳民族を気取っているのだろう。本物が彼女を見てどう思うか知らないが、本人ははしゃいでいて、とてもご満悦のごようすだ。まさに無敵状態。毎度のことながら、じつに楽しい子だとつくづく思う。

「ジャーン!」

「ナニがジャーンだぁ!」

「ジャーン!」

「押すかー?」

「ねえねえピュア湖には、幻の生物が生息してたのよ!」

「またいきなりワケわかんないことを――」

「ドラゴン! それはピュア湖に住まう、神秘の大怪獣!」

 災いをなす者、ドラゴン、で勘が働いた。『黒バス事件』のことか? でも、たかがお魚をドラゴンとは、ちょっと過大評価のしすぎじゃないだろうか?

太古の世界(・・・・・)から、えんえんと語り継がれる湖伝説だわ」

 なんか違うようだ。

「おお! これぞロマンティック!」

「そのドラゴン、正体はなんなのよ?」

「かつて、太古の時代──」

「今度は引っ張る!」

「欧州は大英帝国、ハイランド地方に存在したという聖なる湖、その名もネス湖には、幻のドラゴンが生息していて──」

「はいはい……」

「それは生息地から名づけられ、『ネッシー』と呼ばれていたという」

「……もしかして、あなたのドラゴンの名前って?」

 シンディ、祈るようにうっとりと両手を組んだ。

「ピュッシー<ハート>」

 一気に脱力する。膝がカクカクカク……。ああ、ぴゅっしー……ピュア湖のぴゅっしー……。もうどうでもいいけれど、ものすごく可哀想な、ドラゴンだ。












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