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オーツを出発し、湖沿いに北上する。北端のヨゴーの村で一泊し、そして翌朝、二人はピュア湖にさよならを告げたのだ。
さらに、北へ――!
さわやかな風に波打つ草と、まばらに生える灌木の中を伸びる、踏み固められた赤土の幅広の道。ザパーン国最大の湖を大らかに見守るイヴキ山地の狭間、セキハラ峠を越える道だ。
セキハラ峠を越えてすこし行った所が、太古の時代の、ザパーン国における天下分け目の合戦地であった、という。今はその時代(?)の物品、いわゆる『太古からの掘り出し物』──今の人類にはまだ完全には再現できぬ失われた技術機械──の名産地になっていた。たとえばジャイロコンパスなど、世界に現存する数の6割がそこから発掘されたものだ。当然ながら付近一帯、国から重要地域の指定を受けている。
そのためなんだろう、交易の旅人たちが多く行き交っている。真っ黒に日に焼けた強力の一団。馬車の隊列。種々雑多な商品が、その背中や荷車に積まれ、運ばれていく。人々の腰や馬の首に吊された、今やアクセサリーに成り下がった感がある、カラフルな魔よけ、獣よけの金鈴が、カチャンカチャン、カランカランと楽しげな音を立てている。
お国柄を表す様々な服装――アイヌふうの衣装の北から峠を下りてきた人々と、声高に情報を交わすアラブふう衣装の南から来た男たち。わき目もふらず土埃をあげて突っ走る、キモノの裾を尻からげした山岳飛脚のチーム。そんな彼らに湯気を上げた饅頭やら冷えた飲み物やらを売りつけようと声を嗄らす茶店、屋台の賑やかな売り子たち。
そういった喧噪の峠道のふもと、チャコとシンディは、いよいよ山道に取りかかったのだった。




