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「……」

 静寂が世界を支配し――やがて。

 シンディが、ゆっくりと虚空から顔を戻した。そして、こちらに歩み寄り、

「……大丈夫?」

 かがんで、手を差しのばす――?


 なんで?

 なんで手を差しのばす? なぜ(・・)かがむ(・・・)


「――!」

 今気づいた――!

 チャコは――

 ――倒れていた!?

 地面に(・・・)大の字になって(・・・・・・・)仰向けに倒れていた(・・・・・・・・・)のだった。


 首を回す――

 骨の化け物に倒された、屋台、家屋、湯屋、食い物屋などの建物。

 そして逃げ遅れた人々。

 ――

 みんな――売り子も客も、男も女も、子供も大人も、みんな――シンディ以外みんな――


 ――みんな、地面に倒れていたのだった――!


 チャコはそのまま天を見る。

 冷気が体を走った。

 星座の位置が、微妙にずれていた。

 これで、納得する。仮定に、理屈が通り、確信となった。


 地球が、急激に、一瞬だけ、動いたのだ……。


「──」


 星が輝いている。そこは神々の世界。われ関知せず、というその刺すような森閑としたまたたきに、チャコの目に、涙が、にじみはじめた。

「さっきの話の続きをしようっ」

 叫んでいたのだった。

「あなたとわたしは、右回り、左回り──対等な──それで地球の未来に関わる、だいじなお話、だったよねっ」

 シンディは穏やかに、しかし遠くから、答えを差し出してきた。

「貴女はすてきなひとよ。ずっと一緒に旅してきて、私は貴女に魅了された。この人になら、すべてお話できる。そう確信できた。だから、今日、今夜、告白しようとした。でも……」

 そしてはっきり言った。

「……できなくなっちゃった」

 あっけらかんとした、それでいてがんとした意志のある声音だった。

「なんで!」

「今の出来事のおかげよ。理論上、存在するはずがない、第三の“極”が現れた。あの者の正体を明らかにする方がさき……」

「正体なら、さっき彼自身が自慢げに明かしたじゃない!」

「チャコ、アレは、“形代”だった。つまり、術者の正体は依然不明なままだわ。アレを操った人間の年齢も、そして性別も、さらにはどこでいつ生まれたのかも、まったく確かめられていない。チャコ、“彼”の戯れ言を、真に受けてはいけないんだよ」

 チャコ、もはや泣いていたのだった。

「そんなのくそくらえ! あんなのが、わたしたちのことよりも、だいじだと言うの?」

「そんなこと言ってない。でも、ごめんなさい。謝るわ──

 チャコ、これだけは今言える。あなたとわたしは、右回り、左回り。だけど、そのおかげで地球は、大過なく一つの方向に回転できているのよ。このことだけは──」

「そんなのクソったれだ!」

「──」

「シンディ!? わたしとあなたはなに? なんなの?」

「シンディとチャコは、友達同士だよ」

 ぶんぶんと首をふったのだ。それは欲する言葉ではなかった。

「いいえチャコ、言い直すわ……。“わたしとあなた”は、友達同士だよ」

「──」


 嗚咽がもれた──


 信じるよ、と思った。命をかけて、信じるよ、と思った。


 涙は、熱いものへと変わり──

 ずっと差し出されっぱなしのシンディの右手。

 その手を握り、チャコは、ついに立ち上がったのだった。


         ※


 セキハラ宿。

 宿数四十八を数える、古くから栄える温泉宿場だ。

 その峠の上から行く手を見渡すと、山の狭間、宿場街は街道を中央に挟み、左右に広がっている。立ち並ぶ瓦葺きの旅館や、さび付いたトタン屋根の湯屋。食い物屋、雑貨屋、小間物屋などの店舗。それに倍する民家──

 あちこちに、湯煙が立ち上っていた。それと──


 小規模の火事──小火(ぼや)が認められる。


 あちこちに破壊された建物が見え、赤い火に照らされた黒い煙が立ち上り、平和な宿場が、突如として戦禍に巻き込まれたというべきようすを呈していた。


 峠の上に立つ、一人の男。


 長い黒髪、黒目、黒い衣装。裾がボロボロの黒マント。黒のグローブに黒ブーツ。

 左腰の革ベルトに、黒柄、長い黒鞘の、ザパーン国・太古刀――

 背が高く、二十代前半の、まだ若々しく、それでいて、思慮深げな顔かたち。


 黒男――


 黒男、チッと一つ舌打つと、つぶやきをもらしたのだった。

「いいかげん目を覚ませ。この、たわけものめが……」












読んでくれてありがとうございました。

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