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大地が、揺れた――!
硬い岩が、地面が、無理やり捻られ、奇怪な大音響とともに割れ、あちこちからガス、高熱水蒸気が吹き上がり――!
いままで警戒しながら見守っていた人々が悲鳴をあげて逃げ出し、将棋倒しになり――
屋台、店舗がそのカラフルな商品を盛大にまき散らしながらひっくり返され、破壊され──
秀磨と二人の間の地面が大きく口を開き、距離が開き、その下から――
何かが、ゆっくりと、上昇してくる!
太古の、その乾いた土の匂いとともに──
――
――
――白い、丸太ん棒?
――
――骨?
――骨が? 骨? 骨、骨、骨?
──
――石化された?!
──
――一抱えはある太い、気を失いかねないほど長い骨が!
──
――次から次へと
──
――骨格が?
――
──形成されていき
──
――動物の?
――巨大な!
――
――
二人は天を見上げる!! 圧倒するかのごとくそびえ立つ、超巨大生物骨格――
「──ドラゴン!」
――ああそれは!
――まぎれもなく、どう見ても、ドラゴンの骨格で!!
――
骨のドラゴンが、鋭い牙が並んだ、ばかでかい、顎を、ぐわっ、と開いた。
おおお──!
二人は確かに聞いたのだ! その失われた太古の時代の生物の、その猛々しくも誇り高い堂々とした咆吼を!
「あのお爺ちゃん、とんでもないものの眠りを覚ましてしまった!」
シンディが叫ぶ。
「――これ、なに? 生き物なの? 本物なの?」
チャコ、頭の中がくらくら──
「本物だよ! かつて、この地球に生息していた大型ハ虫類――と、本に書いてあった!」
「いつ? さっきの“ヘーアン時代”にいたの?」
「――」
シンディ、絶句――
秀磨が気が触れたように笑い転げた――!
「“時”だと? “代”だと? ゲハハハハハハ……!!!」
水干姿の老人が、白髪を振り乱し、涙をこぼしながら、腹を押さえながら、今だ揺れ続ける地面に笑い転げ回った。それは異様な光景だった。
こちらに向き、
「一が十、集まったら十と呼ぶ。十が十集まれば百と呼び、百が百で万と呼ぶ。万が万では一億じゃ――っ」
苦しそうに、そして得意そうに、言葉を吐き出す。
「こいつの時代を表現したくば、“時”でなく“代”でなく――“季”でなく“周”でなく、“世”でもない。“広”でも不足、“天”でも及ばず――“紀”、という単位を使わねばならぬ! 儂の言うことがわかるまい? おのれらが五百万回ほど輪廻転生を繰り返し、その人生をすべて継ぎ足し、その間やむことなしに考え抜かば、あるいはその輪郭なりとも想像できるやも知れぬ。それほど“超絶太古の時代”よ。愚かなり小娘、せめてこの“ドラゴン”の名を教えて進ぜよう──
ティラノザウルス・レックス!
“紀”ですら一瞬のこの地球“史”の流れの中で、それながら史上最大最強の称号を勝ち取った天真爛漫児、聖なる暴君、奇跡の生物、それが紛れもないこのドラゴン――“地球王”よッ!」
シンディ、とうとうぶち切れた。
「セキハラのファンタスティック、“セッシー<ハート>”で十分よ!」
チャコもまた、本来の実力行使に打って出たのだった。
四天鬼──! 頼みの四人! わが従者たちよ!
「今こそ出でよッ!」
――が、なにも起こらない。
チャコの、守護武者が現れない!
もしや裏切られた? よりによって、こんな場面で裏切られた? 血が一瞬で凍る思いがし──
「無駄じゃ! あの四人は、ちょいと封印させてもらった」
裏切られたのではない! 秀麿の言葉に一瞬心を安らがせたものの、つまり事態は予断を許さぬままで──
「出でよ――!」
シンディが叫んだ!
「ほほう? レディ、おのれが呼び出すか? だがそれはこの宇宙の――」
相手にせずシンディは続けた――
「――兵どもが夢の跡!!」
違った。呼び出したモノは。シンディが──
注:作中の『時の単位』は、作者の創作です。