これまでの人生
街を歩けば10人に10人が振り返り、
誰もが言葉を失う。
綺麗なもので全身を着飾れば、男女問わず誰もかしこが褒めたたえる。
笑顔を向ければその場で涙を流す者、気を失う者、石の様に固まる者が続出する。
街で芸能界、モデルにスカウトされた回数も数知れぬ。
そう、彼女、春野うららは誰からも好かれる。
そう、誰からも。
ーーー私以外の人からならね。
春野うららと私は、まぁ、一応、周りからしてみたら親友同士。
家も近所でいわゆる幼馴染みという仲である。親同士が親友で私たちが生まれる前から家同士での付き合いも長い。
保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校、そして大学までも。
同じクラスで同じ選択教科、同じ学科に専攻、同じ所属クラブに部活動に委員会に係活動。
登下校は勿論一緒。席替えがあればいつも席は隣。お昼のお弁当のおかずも全くの同じ。お手洗いに私が席を立つと決まって付いてくる始末。
中学2年の時、一人で休日に出掛けようとした事があった。うららは補習で学校に登校していたのだ。
チャンスだった。一人で見たい映画や服があったから。
しかし補習中にうららは教室を抜け出し、なぜか私の場所を特定して目の前に現れた。
なんで。
なんで。
楽しみにしていた私の時間は、一瞬の瞬きと共に消え、去っていった。
その後教室を抜け出したうららの代わりに怒られたのは何故か私。
うららが抜け出したのは、お前が一緒にいてやらなかった責任だ。親友なら言われなくともどうするべきか分かるだろう?
お前の責任だ。
お前のせいだ。
お前がしっかりしなさい。
親 友 だ ろ ?
私の味方はいない。
親でさえ、うららの方につく。
皆、平等だと言っていたクラスの担任ですらーーー
一切お咎め無しで涼しい顔をしているうららを見て、私の中の黒い何かが闇を増したように感じた。
私に笑顔を向けないでくれ。
私のそばに寄って来ないでくれ。
私の周りの人を奪わないでくれーーー
私にだって親から貰った大切な名前がある。
しかしいつからだろう。私の名前を、誰も、呼んでくれなくなったのは。
私は私であって、お前という名前ではないーーー
私 は 、 私の 名前 は 、ーーー
誰からも名前を呼ばれずに、何年も生きてきました。
生きてきました。
必死に生きてきました。
そして私は、私自身の名前を忘れてしまいました。
私は今、大学3年生です。
そしてその隣には当たり前の様に、うららがいます。
私は彼女にちっとも笑顔を見せないのに、彼女は私の事が大好きみたいで、いつもそばに来ます。
離してくれません。
依存というのでしょうか。彼女はどうしても私がいないと駄目みたいなのです。
晴れた日のとある朝、うららにしては珍しく私よりも先に大学に向かったみたい。
今日は一人になれました。
一人でいられるたった少しの時間が、私の救いであり唯一の幸せです。
今日はたったそれだけの事で、久し振りに笑えました。
いつもより足取りが軽く、機嫌がとても良い。
いつもより笑えていたからでしょうか?
小道を歩いているとたくさんの子猫達が寄ってきました。
とても癒される。
目がクリクリしていてとても可愛い。
そっと抱き上げるともふもふしていて気持ちいい。
何分かそうして子猫と戯れていると、真っ白い1匹の子猫が道路に飛び出そうとしてーーー
子猫を助けようとして私は.........
「......んっ。ここは......」
気がつくと私は辺り一面の花に囲まれていた。




