言いおったな貴様ぁ!
昼休みに書き溜めを作り、夜に校正して投稿。
このペースが馴染んできました。
今回もよろしくお願いします。
巨大な黒腕が唸る。
花吹雪が舞い、腕を絡め、光となっては消えていく。
またある場所では、積み重なった花弁の布団を叩きつけるような形になり、それ以上の侵攻を許さない。
編んだようになった蔦は、黒腕を押し返し、絡め取り、門に封をするように貼り付く。
「ぬぅ、何という…!」
魔法だからか、はたまたユーリカが見せてくれているからか、俺の目にはまるで、あの花畑は「一切の『攻撃』を禁じている」ように見える。
「これが、ユーリカの…すっげえ…」
花舞い、黒腕は踊るように門に戻って行き、
「とっておき!行くよ!
咲くは刃!貫くは心!」
ユーリカは更に詠唱を始める。
勝利を確信した表情で。
ユーリカの強さが良くわかった。アイツの凄さは転生したとしても、やっぱり変わらない。
きっと、マキナもドラグも、頼もしい魔王ユーリカの姿を見て誇らしく思っているんだろう。
今回の戦いは、ユーリカの勝利で終わると思っているだろう。
だから、俺が、駆け出した。
「『刮目せよ!』」
カミラの大盾に付いた目玉から、赤い光が放たれる。
「世界よ!その名を刻むが良い!正に今!此処が断頭台!」
それと同じくして、ユーリカの体から力が抜けていく。
ここまで温存していた盾の呪い。ゲーム風に言うならば、麻痺プラス魔力吸収ってところだろうか。
突然の事に、マキナどころかドラグまても目を見開いたままで、
「無策と思うなと言ったはずじゃ。『美しき紅い花』魔王ユーリカよ、今回は勝たせて貰おうかのう。」
誰も、カミラが振り上げた剣を、止めることが出来なかった。
「最後まで!」
そう、俺以外には!
「油断すんなっつっただろうがあ!」
カミラが驚いた顔をしてこちらを振り向く。
思考が止まったな?もらったぜ!
盾ごとカミラに抱きつくようにして押し倒す、上手いこと剣がスッポ抜けていき、俺とカミラは二、三回転して、何とか俺が上になる形で止まった。
「ユーリカ!今の内になんとかしろ!
ドラグ!ユーリカを頼む!
マキナ!何でも良いから作戦くれ!」
幼女を力一杯抱き締めた情けない俺の怒鳴り声、一番に反応したのはやはりドラグだった。
「ユーリカ様!」
ユーリカが麻痺ってんのは解るはず。そして、ユーリカとカミラの実力差は推して知るべし。
ならば、今。この時間。
俺がコイツをなんとかすれば、ユーリカの勝ちは揺るがない!
「お、おにょれ人間!離さぬか!おお乙女の柔肌に触れるとは無礼千万!そこに直れ!貴様をアンデッドにして教育し直してやるのじゃ!」
「誰かなるか!てか乙女ってんならもっと乳とケツに肉つけてから言え!」
「な、ななな!言いおったな貴様ぁ!」
くだらない言い争いをしながらも、地力の差からか徐々に拘束が緩み始める。
くそ!ロリに負けるとか情けねえぞ!
「マキナァッ!」
「歌です!バンシーは歌に感情を左右されやすい筈!何でも良いので歌ってください!」
「何でも良いっつったって!」
こんな状況で急に浮かぶ訳もなく、ふとユーリカに目を向ける。
少しグッタリしているが、手に力が戻ってきているようだ。
そこで、頭にメロディが浮かんだ。
「例え、生まれ変わっても―」
それは、友梨佳が死んでから販売された曲。
ある女性シンガーが、死んだ恋人を永遠に想う、死者へのラブソングを歌った。
この歌はその当時の俺の心境と驚くほどにマッチしていて、ずっとリピートでこればかり聴いていた事がある。
聴いてくれよ、友梨佳。俺はこんなにもお前に逢いたい。
お前を、今も愛してる。
そんな感じで気持ちが随分と籠もってしまったものだから、ワンコーラスのつもりがついついフルで歌ってしまった。
歌い終わり気が付くと、辺りはシンと静まり返っていた。
「あ。あー、ど、どうだ!?」
少し、いや、かなり恥ずかしくなり、すっかり抵抗しなくなったカミラに問いかける。
いやなんでカミラに聞いてんだよ。
「う、ううっ…なんと、なんと…」
幼女号泣である。
あまりの罪悪感に、手を緩めてしまったのがいけなかったのか、カミラが俺を跳ね除け、ユーリカの元へと駆け寄った。
しまった!やっちまった!
「ユーリカ!」
「ユーリカよ!あの男、何という素晴らしき唄を謳うのか!死者への愛、悲しみを乗り越える心!
ああ、生まれて初めて妾の乙女が疼いておる。
死人の王、バンシーの妾がじゃ!
あれ程の男じゃ、くれとは言わぬ。
じゃが、せめて妾に一時の夢を魅させてくれ、頼むのじゃ!」
「んー、うん。いいよ!」
「ユーリカ!?」
「よし来た!ヘブンズゲート!」
カミラが唱えると同時に、ガバッと開いた足元の闇の穴から何本もの腕が現れ、俺を闇に引き摺り込む。
「ちょ!待っ!ユーリカ!?ユーリカァ!!」
「案ずるなダーリン、妾とて作法程度は心得ておるのじゃ。
さあ、めくるめく夢の一時を過ごそうぞ!」
「テメェェェェェッ!後で覚えてろ!魔王ユーリカァァァァッ!!」
こうして俺は、バンシーの因子を手に入れたのだった。
用語などなど
○魔法…この世界、魔族には魔法体系と言う物が無く、それぞれの種族が大体オリジナルの魔法を使います。
呪文を考えんのが楽しいです。
○二つ名…名前の前に二重鍵で囲っているのが二つ名です。有名な魔族にはたまについてたりします。
これも考えんのが楽しいです。