一人言・ねえ、聞いて、もう一度
オリ君にもう一度会うために、この不思議な世界で生きることを決めたあの日。
それからは激動の日々だった。
知識が欲しかったから、一番長く生きている魔王さんに会いに行った。
力が制御したかったから、最強の種族って言われてるドラゴニュートに会いに行った。
魔法の計算が莫大だったから、エレジィっていう機械の種族を探して旅した。
条件を揃えるために、大きなお城を作ることにした。
そうして気がついたら、私は魔王と呼ばれるようになっていた。
けど、魔王になったからって、あの世界へと、あの人へと届く力はまだまだ足りなかった。
不安になったんだ。
私がやろうとしていることは、所詮は夢物語なんじゃないかって。そんなこと、できる訳がないんじゃないかって。
だから、没頭した。
仲間を集めて、力を高めて、人との生活の中で閃きを求めて。
いつしか最強の魔王になっていた。
いつしか笑顔の仮面が上手くなっていた。
いつしか諦めという言葉が浮かび始めた。
「ユーリカ様…、一度は誰かと交わらなければ、貴女の寿命が…」
「いや、絶対に嫌だよ、マキナ。私にはオリ君しか居ないんだ、今までだって、これからだって。」
マキナの事、いっぱい困らせてたね。ごめんね、マキナ。
そんなやり取りは、一度や二度じゃ無かった。
私はいつ来るか分からない死に怯えながら、それでも逃げるように、ゲートの作成を続けていた。
そうして三百年、ここでしかあり得ないと言う程、最高のタイミングがやってきた。
興奮した、歓喜した、そして、怖くなった。
もしここで、このタイミングで、あの世界へと繋がるゲートが開けなかったら。
もし、あちらの世界でも、三百年経ってしまっていたら。
だから、この結果は分かっていたことなのかもしれない。
「どうして!計算は合ってるのに!魔力だって足りてる筈なのに!」
私は注ぎ続ける、器を満たすための魔力を。
周囲が止めるのも聞かず、まるでオリ君みたいに、オリ君になりないみたいに。
「なんで!どうして!これが成功しなきゃ!私は!なんの為に!」
心が乱れて、魔力が拡散していきそうになる。
それを無理矢理に食い止めて、あの場所を、何よりも幸せだった、あの小さな部屋を思い出して、イメージを繋げて。
それでも、心は折れそうで。
「会いたい…、会いたいよ、オリ君…。」
だから
「もう少し、頑張ってみよう。」
私は立ってられたんだと思う。
そして、魔力の流れが止まっていることに気付いた。
「あ」
その間抜けな声は、私だったのか。
「成功、したかも!開く、開くよ!」
その暗闇は、私が求めた魔法。
世界に穴を開けて、あちらへと進む為の。
でも、
「小さい…!」
ギリギリ腕が通るかどうかくらいにしか開かなかったの。
そんな時に、とっても聞きたかった、誰よりも大切な人の声が、聞こえた気がしたんだ。
―友梨佳…会いてえよ…
その小さな穴から溢れ出す、想い、想い、想い。
オリ君の、庵君の気持ちが、悲しさが、切なさが溢れ出す。
想いに満たされて、溺れそうになるけど、ぐっとこらえて、私は声を上げる。
「なんか、すっごいパワー来てる⁉今しかないよ!世界の壁なんかぶち抜け!3、2、1、いっけええええええ!」
開く、開いていく。
私の夢が、残して来た幸せが。
恐怖で震える心を奮い立たせて、私は足を踏み入れる。
何も見えない暗闇へ。
私の全てを残して来た世界へ。
あれから色々とあって、私の隣にはまた、愛する人がいる。
引き締まった横顔を見ていると、何故か私がこっちで生まれ変わってからの事を思い出した。
言いたい事や話したい事は沢山あって、でも、昔通りの感じが心地良いから、言わないんだ。
あ、でも。
一つだけ聞いてみても良いかな?
「ねえ、オリ君。」
「ん?どうした?」
「もし、もしもだよ?」
その語り出しに、途端に嫌そうな顔になるオリ君。
安心して、今度はきちんと伝えるよ?
今度はちゃんと伝えられるよ。
「もし私が、家族が増えるって言ったら、嬉しい?」
大好きだよ、庵君。




