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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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閑話・神野庵と神野友梨佳(後)

少し短いです。

今回も宜しくお願いします。

夜間学校を卒業し、食うには困らないくらいの給料の出る会社に、事務方の準社員として就職した俺達二人。

僅かづつではあったが、二人で金を貯めていくのは楽しかったし、最終的には結婚式をあげてやりたかったから、やり甲斐もあった。


二人で笑い合って、たまに喧嘩したりして、金がないときも仕事が辛いときも、お互いが居るから頑張れた。

月三万のボロっちいアパートがどんな豪邸より立派に見えたし、友梨佳の作る節約料理がフレンチのフルコースよりも嬉しかった。


そうやって何年も過ごして、二人の思い出が増えていって、そろそろお金が貯まるね、なんて話をして、指輪を見に行った帰りだった。


思い出したくない事ってのは、何時までもハッキリと記憶に残り続けるもので。


人通りは多くなかったが、その分、車なんて滅多に通らないような道で。


気恥ずかしさから、たまたま友梨佳よりも少し先を歩いていただけで。


道端の猫にかまい続ける友梨佳を呼ぶタイミングが悪かったからで。


「もー、もしかして照れてる?ふふ、私はすっごく嬉しいんだけどな。オリ君を好きになって、オリ君が好きになってくれて、もうすぐ結婚しちゃうんだよ、私達。」


踊るように、軽くスキップしながら、俺達が周りを見てなかった瞬間で。


「ねえ、庵君。これから私達家族になるんだよね?だから、もし、もしもだよ?もし、私が―」


その日から友梨佳は笑わなくなった。

その日から友梨佳は泣かなくなった。

その日から友梨佳は俺の名前を呼ばなくなった。

その日、友梨佳は、俺の隣から居なくなった。




人生が、価値観が、世界が変わる瞬間ってのは、あるんだ。

それは何よりも大切なモノを無くしたとき。

それは誰よりも愛したヒトを亡くしたとき。


「ゆ、りか…?友梨佳あああああ!!」


その日から、俺の目に映る風景は灰色になった。


味のしない食事を食べて、疲れの取れない睡眠を貪り、生きる意味のない人生を歩む。


誰か俺を殺してくれ。どうか俺を死なせてくれ。

生きる意味を教えてくれ。生きる意義を教えてくれ。


この時に俺がちゃんと受け止めて、前を向いていたならば、俺は普通の人生を歩んでいたのかもしれないな。


俺は全てを諦めていた。全てを誰かのせいにして逃げていた。誰かの為に生きようとなんて思わずに、差し伸べられた手を全て払い除けていた。ただ、この絶望感と孤独感を、気持ちの悪い居心地のいい場所だと思って、甘えていた。


だけどあの日、本当に死ぬ覚悟を決めたあの日、世界は再び、俺に色をくれたんだ。




これは、死んだ筈の幼馴染が、異世界で魔王をやっていて、そんな彼女について異世界に行き、魔族になって魔界を救おうなんて思ってしまった俺と言う、最近の流行にのっとったような陳腐な物語じんせいさ。


そんな物語で良い。


そんな物語が良い。


救われて、報われて、煽てられて、人生になんの苦労も無くて。

手に入れたいモノをちゃんと手に入れられるような、簡単な話でいいんだ。

テンプレ的で、食傷気味でも、主人公が絶対に勝利してハッピーエンドになるなんて、理想の終わり方じゃないか。


そんな物語が、俺は好きなんだ。






昔の夢を見た俺は、真夜中に目を覚ます。

あれから少し時間は過ぎて、魔界にある、俺の自宅に戻ってきている。


腕の中にある温かさ、青みがかった銀色の髪を撫でる。

俺も、ユーリカも、生きている。

だから、ハッピーエンドを迎えよう。

願わくば、誰かの絶望の上に立つ幸福ではなく、誰かを救って終われるような、そんな物語を。


そしたら、ユーリカに聞いてみよう、あの日の決着をつけるために。


あの日の君が、俺に聞きたかったことは、何だったのか。


少しだけ腕に力を込めて、再び目を閉じる。

温もりを無くさぬよう、亡くさぬよう。


俺は、俺が幸せになる為に、全ての力を使おう。



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