くだらねえんだよ、そんなもん
随分と間が開いてしまいました。
ちょっと海外に居たもので、すみません。
今日から毎日更新を復活させたいと思いますので、またよろしくお願いします!
ミスリルにより強化され、魔法の通じないスケルトン。
生前の武技を肉体という枷を解かれた状態で使え、体力などの縛りもない。
しかし、それだけだ。
結論を言う、全く相手にならなかった。
それはそうだ、この程度の相手が魔王や勇者達に匹敵する訳がない。
全力で剣を振るう事、数回。
それがこの坑道で企てられた陰謀の終結だった。
「ば、馬鹿な!そんな力っ!力だけでまた、私のっ!」
男は半狂乱になりながら怒鳴り散らし、最後の一閃を振り抜いたままの俺から後退る。
ゆっくりとそちらを見る、恐怖の中に、強い嫉妬と憎悪の感情が見える。
「認めない!こんな不公平があるかっ!生前は力によって全て奪われっ!死してなお、力によって壊される!力、力、ちからっっ!!
私が力を望むのは許されすらしないのか!こんな世界が、公平だの平等だのとほざくのか!!」
血を吐くように紡がれる怨嗟の声。
こいつは報われ無かった奴なんだろう、言っている事は、分かる、分かってしまう。
力によって狂わされた人生、不条理、理不尽、そんな物が沢山伸し掛かっていたんだろう。
俺だって、あの時、あっちの世界で、多分きっとそうだった。
でも、
「くだらねえんだよ、そんなもん。」
真面目に生きてたつもりでも、一瞬で全てを失うことだってあるんだ。
俺が失ったものを他のやつは失ったのか?
俺が得るはずだった幸福を、他のやつは享受しているんじゃないのか?
そんな風に考えていた時期もあった、そうして世界から色は消え、友は去り、死を願った。
俺は恨み、妬むことでしか自分を保っていられなかった。
ああ、そういう事か。やっと分かった、ユーリカが覚悟の理由を他人に押し付けるなと言った意味が。
誰かを守りたいだなんて言っておきながら、俺が戻りたくないんだ、あの時の俺に。
あの感覚を味わいたくないんだ。
それは完全に自分自身の感情で、感傷で。他人になんて何一つ配慮していない、我儘で無茶苦茶な想い。
各主人公諸君。
「俺はもう失いたくないから、お前を守るために人を殺す。」
だなんて、そんなクソみたいな話があるか?甘ったれにも程があるだろう?
俺は少しばかりスッキリとした気持ちで、男に歩み寄り剣を振り上げる。
「所詮、どんな世界でも幸せを掴めるやつなんて数が決まってんだ。だから俺はお前を殺す。
不公平だから殺す。不平等だから殺す。不条理だから殺す。理不尽だから殺す。平等に公平に、人道的に常識的に、お前が俺の邪魔をしたから殺す。
なんの事はない、俺は俺の為に、お前を殺す。」
振り下ろされた剣は、抵抗を感じることなく男の首を刎ね飛ばした。
「だから恨んでくれても良いぜ?生憎と、俺は何一つ悪いとは思っちゃいないがな。」
恐怖に染まったその表情に、俺は火の魔法を放った。
坑道を出ると、外はすっかりと暗くなってしまっていた。
小柄な人間なら一人分は入りそうな袋いっぱいに詰めた鉱石を背負いなおす。
あの男を殺したことに後悔はない、あっちも俺を殺そうとしていたし、俺にはどうしてもこの鉱石が必要だった。
色んな奴と戦って、いつの間にか一端の戦士になれたつもりでいたんだが、このもやっとした気持ちはなかなか晴れそうにもない。
…いや、この程度の感傷で収まって良かったんだろうな。
殺すつもりで戦って、命を奪う覚悟も決めて、ただ実行した。それだけだ。
いずれはこの気持ちにも慣れるんだろう、そうじゃないと、いつかは何も出来なくなる。
綺麗事なんて言うつもりはない、殺すことに慣れて、それが当たり前になる。きっとそれでいいんだろう。正誤でも善悪でもない、きっとそれがいいんだろう。
暗視スキルを使って空を飛ぶ、遠くに見える街の明かりが恋しい。
自分と男の血、埃と土にまみれた体が休ませろと訴えてくるが、それを無視して飛ぶ。
今すぐにでも、無性にユーリカに会いたかった。
「おーい、戻ったぞー。」
サリーの工房に戻り、袋を下ろす。奥から足音が聞こえてきて、ユーリカがひょっこり顔を出す。
「おかえり、オリ君。半日で戻るとは思わなかったよ。…大丈夫だった?」
「スケルトンぐらいしか居なかったしな、余裕だ余裕。」
「…うん、そっか。それなら良いんだ。」
俺がユーリカの気持ちを察することが出来るように、ユーリカも俺の事を察してくれる。
そのユーリカが何も聞かないのなら、俺も言わない。
帰るまでに噛み砕いて飲み込んできた、だから、お互いに何も言わない。
「サリーは?」
「コア以外のチェックをしてくれてたんだけど、少し前に寝ちゃった、オリ君を待つって言ってたんだけどね、それは私に任せてほしいって言って、休んでもらったの。」
「まあ、もう夜中だしな、それがいい。サリーには万全の体制でやってもらわないと。」
「だね。」
言いながら、優しく手を握ってくるユーリカ。
言葉にはしなくても、慰めてくれているんだろう。
今日だけは甘えてしまいたくて、引き寄せて抱きしめた。緩やかに花の香りがする。
噛み締めて、噛み締めて。明日もマキナを助けるために、頑張ろう。




