よくぞ参られた
王都に入ってまず初めに思ったのは、人の多さ。魔界でのイベント事に集まる人と、ここでの日常が同じ位とは恐れ入る。
あちこちから掛かる売り込みの声、盛り上がる酒場、狩猟者の仕留めた獲物を見に来る子供達。
「いい所だな。」
「そうですね、街が生きている、そんな風に思います。」
「ウム、賑やかなのはよいコトダ。」
魔界組にとっては、本当に別世界と言った所である。
「本日はこの宿に泊まる、一応は王都で最高の宿と言われている。明日は午後の一番から謁見だ、それまでに身なりを整えておいてくれ。」
ガロードに案内されたのは、いかにも高級宿といった感じの大きな建物。従者の人がカウンターに、俺の一月分の給料ぐらいある金貨をポンと出してるんですが。ガロードマジ貴族。
「もっとも、王宮暮らしのそなたらには少々もの足りぬやもしれぬがな。」
「いやいや、充分過ぎるから。」
まだ日は高いが、ゆっくり休んで明日に備えようと言う事で、ここで一度解散する。
だが、俺は来る途中に何箇所も気になった屋台があったのだ、当然買いに行かせてもらうぜ。
「と、言う訳で出掛けてくる。マキナはどうする?」
「そうですね、色々と勉強出来ることもありそうですし、お供させて頂きます。」
「拙者は別口で出させてもラウ。」
「ん、何処か行くのか?」
「無論、ソッチ方面のお店ダ!」
「お前、どうやってやんだよ…まあいいけど。」
とまあ、夜迷い事を吐かす鎧はほっておいて、俺とマキナはヤード家の従者に外出を告げて外に出る。
ちなみにガラルド達は既に王城に居るらしく、今回は別行動だ。
さっきから少し時間が経ったからか、街の雰囲気は少し落ち着いたようで、それなりに人を避けながら屋台村があった場所に進む。
マキナによる流石のナビゲーション能力で、俺達は十分とかからず商店街らしき通りに辿り着いた。
「さて、まずは腹ごしらえ、そんでまあ、土産物なんかを覗いてみるか。」
「はい。…ちょっとしたデートですね。」
「だな、マキナにはいつも世話になってるし、今日は何でも買ってやるぞ。ただし、お手柔らかにな?」
なんて感じに話をしながら、王都名物と言われる焼き物を探す。
肉に香草の混ざったパン粉をかけて焼くらしいその料理は、王城発祥と言われていて、王都に来たなら初めに食べるべき料理とまで言われている。
探し始めてすぐにその屋台は見付かり、なんとなく片付けを始めそうな雰囲気に、急いで駆け寄る。
「おっちゃん!2つくれ!」
「お、運が良いね魔族の兄ちゃん、ちょうど最後だよ。」
「マジか、急いだかいがあったぜ。こいつを楽しみにしてたんだ。」
「王都は初めてかい?だったらあちこち回ってみなよ、食い物の旨さなら魔界にだって負けてないからさ。」
「そうっぽいな、誘惑が多すぎて、こっちにいる間中、屋台巡りばっかりしてそうだ。」
「そいつはいい。あっと、お客さん、すまないね、こっちの兄さんで終わってしまったんだ。」
「む、売り切れか。それは残念だ。」
店の親父と話していたら、新しく客が来る。
そこそこ身分の高そうな服を着た、ナイスミドルな感じの男だ。
本当に残念そうな顔をしているのを見ると、俺達は一つを分ければいいかと思い、男に話しかける。
「良かったら一個どうだい?俺達は一個で良いからさ。」
「良いのか?魔族のようだが、観光ならこれは食さねばなるまい?」
「別に今日しか来られない訳じゃないしな。俺はオリジン、こっちはマキナ。代わりと言っちゃなんだが、アンタのオススメの店を教えてくれればそれで良いさ。」
「ふむ。そうさな、儂の名はベン。特別に、儂の知る穴場を教えてやろう。」
そう話は纏まり、俺達とベンは香草焼きを片手に商店街を進む。
食品以外にも、工芸品や民芸品、衣服や武器防具など、ごちゃまぜだが、なんでか調和している周りの様子を物珍しげに眺めていたからだろうか、ベンは少し笑いながら俺に話しかけてくる。
「珍しいか、この風景は。」
「ああ、俺は南から来たんだが、うちの王都も賑わってると思ってたんだが、ここはレベルが違う。よっぽど良い政治をしてるんだろうな。」
「ほう、政治も分かるのか、お主。」
「こう見えて王城勤めさ、もっとも、武官の方だけど。」
「この街は、良く見えるか?」
「いい街だ、何より、飢えてる奴が居ない。」
「なるほど、それは真理だな。」
結局、くだらない話から政治の話まで、ベンの話術に上手く載せられ、食い物と会話で口が休まる暇が無かった。
まあ、紹介された店は、確かに一つ上のグレードだと言わざるを得ないものだったが。
そうこうしていると段々と日は落ち、辺りが薄暗くなる頃、歩いている兵士達の数が、少し多くなって来ていると気づく。
「なんかあったのか?兵士が多いな。」
「なに、暗くなる前に巡回を増やして入るだけだ、治安は良くとも夜道は危険だからな。」
「なるほどね、んじゃ、俺らも帰りますか。」
「そうだな。儂も戻らねば、小言が多くなるのでな。」
俺達は宿への道を戻る。ベンも道は同じらしく、別れるまで他愛もない話をしながら歩いた。
「此処に泊まっておったか。」
「知り合いの奢りでね、じゃあまたどこかで会おうぜ、ベン。」
「うむ、達者でな。」
そう言って別れる。ベンは貴族街の方へと歩いていき、やがて見えなくなる。
やっぱどっかの貴族だったんだな、と思いながら、明日王城で会えるかもしれないと、ぼんやり思った。
ちなみにマキナには宝石の付いた櫛と、揃いのブレスレットを買った。
魔界で待つ皆にも、アクセサリーなんかを用意した、お財布、厳しい。
まあそれは閑話だ、なんせ翌日、王城、謁見の間に入った俺を待っていたのは。
「よくぞ参られた、魔界からの使者よ。」
「うわー、マジかー…」
ニヤリと笑う、良く見知ったおっさんが玉座に座っていたのだから。




