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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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それでは行ってまいります

モンスター騒ぎが収まってからの一週間は、物凄く充実した観光、もとい、滞在だった。

ガラルドの言葉通り、ヤードの畜産物のレベルは高く、肉にしろ乳製品にしろ、とにかく魔界とは比べられない程の安さと旨さだった。


もちろん食ってばかりじゃなかったぞ、一部の人間、上級クラスの狩猟者や外交関係者、または興味と趣味で赴くもの以外には、割と知られていない魔界。それについての公開セミナーに招かれたり、魔界の特産物や観光スポットなどの情報交換会に参加したり、現地で働く魔族達の陣中見舞いをしてみたり、一応、大使としてもきちんと仕事をしていたのだ。



そして今日も魔界と人間界の農業、畜産業の違いについての講演会に参加して、ヤード家の屋敷に戻ると、いつも迎えてくれているメイドさん(ベテラン)から声をかけられた。


「オリジン様、王城より返事が来たとのことです、旦那様がお呼びになっています。」


「分かりました、伺います。」


思っていたよりも早い返事に少し驚く。

人間界には竜便が無いはずなので、馬を走らせたにしても、結構無理をしたんじゃないだろうか。


「使者の方に労いの言葉を伝えておいて下さい、後、気休め程度ですが疲労に効く薬も持っていますので、後ほどお渡しします。」


「お心遣い、ありがとうございます。」


メイドさんと別れ、失礼にならない程度に身なりを整えて、ガルシアさんの執務室へ向う。

ガルシアさん達は、俺達に対して、まるで家族のように接してくれているが、ある程度弁えることは必要だからな。


執務室に着くと、執事長が扉の外で待っていて、中に俺の来訪を伝えてくれる。

一切の無駄なくやり取りが終わり、俺が扉の前に立つ前には開かれ、熟練の技を感じさせてくれた。


「ガルシアさん、入りますよ。」


「おお、オリジン、ようやく王都から返事が来たぞ。」


俺が軽い感じで入ると、もっと軽い感じで返事をするガルシアさん。

ほんと、初めは威厳のある家長だと思ってたのに、気のいいおっちゃんって感じになっちゃったよな、まあ、こっちが素なんだろうけど。


「早かったですね、王都まで一週間くらいかかるんでしょ?」


「うちは精鋭揃いだ、この程度、大した事はない。それよりも、早速だが、明日には出立したい、大丈夫だろうか?」


「こっちは元々、大した荷物も無いですし、魔族なんて丈夫でなんぼですから。」


「うむ、羨ましい限りだ。ガロードなどはまだまだ体がなってないからなあ。」


あのマッチョ兄でもだめなのか、流石は元勇者。


「旅路は一般的なものを使う、野営こそ無いが、大使を宿泊させるには、といった宿もあるが構わんな?

王都に着いたら到着の報せを城に送り、一泊の後に謁見となる。今の内から手順を覚えておいてくれ。」


「了解。」


その後、世間話を一頻り終わらせ、また夕食で、と部屋を出る。


俺の人間界旅行おしごともようやく中盤に差し掛かった。

王にこれからの懸念を伝え、教会で調べ物、それが終わればまた暫くは自由行動になる。


元の世界で旅行なんかしたことの無かった俺は、ウキウキとした気持ちで、これからの予定を立てていくのだ。






「それでは行ってまいります、父上。」


翌日、四頭立ての立派な馬車に乗り、俺達はヤードを出発する。

モンスターについての報告に行かなければならないガロード、ガラルドのパーティーと共に、俺達も挨拶を交わす。


「またいつでもいらっしゃい、今度は沢山の家庭料理を教えてあげるわ。」


と、マキナやリシュリーに夫人が言い、ハグをして別れる。


「オリジン、世話になった。」


「こちらこそ、ガルシアさんに会えただけでも旅の価値がありましたよ。」


ガルシアさんと握手をして、別れを惜しむ。

あちらの世界では、周りに恵まれなかった俺にとって、ガルシアさんのような尊敬できる人に会えたことは本当に良かった。


「名残惜しいですが、いつかまた。」


さあ、気持ちを切り替えて王都に向かおう。

俺は馬車にのり、見えなくなるまで彼らに手を振った。





俺は割とファンタジー小説を読んでいたんだが、現実ってのはそれよりもよく出来ているものだ。

暇潰しも兼ねて護衛の兵士達と談笑しながら進んでいるのだが、よくテンプレート的に存在する盗賊なんてものは滅多に居ないらしく、彼らも一度も見た事は無いという。


と言うのも、この世界って基本的に日銭を稼ぐのなら仕事は腐るほどある。定職に就くのも難しくない。

稼ぎたいなら、勉強して役所や大商家に。体に自身があるなら狩猟者になればいいし。

学も力もなくても、雇ってくれる場所は多い。

農業とかを始めるのも自由だしな。


モンスターも、こちらの人数が多ければあまり襲ってくることはないようで、馬車旅は非常に静か。日中は移動し、夕方になる前には町か村に着いて観光できる。


魔界で俺はどれだけ急かせかと移動していたのか、もっと楽な旅がしたかったと、今更だが思ってしまうものだ。



そうして一週間、俺達を載せた馬車は、遂に目的地に差し掛かる。


「見えてきましたよ、あそこが王都です。」


古く、それでいて威厳ある城壁。

大きな旗にリーベンスの紋章、人間界の王都に、俺はようやく辿り着いたのだった。

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