楽しそうで良かったです。
今回から視点が戻ります。
今回もよろしくお願いします。
マキナをお供に魔界を出た俺は、長い船旅の後、なんちゃらと言う港に辿り着いた。
まずはリーベンスの王城に手紙を送る、魔王連名のかなりお固い手紙だ。魔界の現状とか、これから起こりそうな事とか、神についての考察とかが書いてあるらしい。
その後ヤード領に向かうわけだが、いや、港ってのは美味いものが多い訳だよ。
思わず食べ歩きをしてしまい、気が付けば日が暮れ始め、結局一泊してからヤードまで飛ぶことにした。
「オリジン様が楽しそうで、良かったです。」
そう言ってくれるマキナを思いっきり可愛がり、翌朝。早速翼を広げ、マキナを抱えて飛ぶ。
空は快晴で、魔界には無い色々な匂いや景色を届けてくれる。
そしてその中には、かなり不穏なものも混じっていたのである。
「様子がおかしいですね。」
街道を見下ろした俺達は、明らかに逃げてきたと言う風体の一団を発見する。
おそらくだが、あっちはヤード領。
勇者ガラルドのお膝元であるヤードから逃げるとは、何かとんでも無いことが起こっているのではないかと思い、速度を上げる。
そこに居たのはでかいモンスター。
今にもアリアを襲おうとしているそいつを見て、俺は距離を凝縮した。
その後は、ガラルドに説教したり、ヤードの兵士達と協力してモンスターを倒したりして、ガラルドの実家である、ヤードの屋敷に招待された。
「オヤ、私のホウが早かったラシイナ。」
されたらされたで、真っ黒な鎧が寛いでやがった。
「おいコラ、お前も状況分かってたんだろうが、手伝いに来いよな。」
「ヤード家に挨拶もセズ、往ける訳もナシ。ソモ、オリジンが居たノダ、大事無かったロウ。」
こいつの名はリヴィ、グラン爺の右腕、「鉄騎将軍」と呼ばれるリビングアーマーで、今回の旅のもう一人のお供だ。
「ソレニ、むさ苦しい兵士を見るよりモ、可憐なメイドを見る方が良いに決まってイル。」
「カースインパクトォ!」
開いた窓から遙か彼方に飛ぶように計算し、頭をすっ飛ばす。
リヴィは肩を竦め、フワフワと、外へと浮いて行った。いや、横着すんなよ。
「僕は初めてあったんですけど、ああいう人だったんですね、リヴィ殿は。」
ガラルドもちょっと引いている、それが正しい反応だ、俺も初めはかなり引いた。
そういうやり取りがありつつも、俺達はヤード家当主、ガラルドの親父さんと会うのだった。
「私がヤード家当主、ガルシア=ルイ=ヤードだ、領共々、息子たちが世話になったようで、礼を言う。」
「お気になさらず、ガルシア殿。私はオリジンと申します、この度は滞在の許可を頂き、ありがとうございます。」
「同じく、感謝を。私はマキナと申します、オリジン様の世話係として同道いたしました。」
真面目に話す俺を見て、ポカンと口を開けるガラルドとアリア。
なんだその顔は、俺だって礼節は弁えてるぞ。
「そして、久しいな、リヴィ殿。相変わらずの女好きで、何よりだ。」
「ウム、8年ぶりになるノカ。そちらは大分老けてしまったナ。」
見た目厳ついガラルドの親父さん、ガルシアさんは、リヴィと気軽に声を交わす。
ガラルドの前の勇者がガルシアさんらしく、リヴィと好敵手であるとか。
そんな二人の話を聞いているのも面白いのだが、先にやるべき事を片付けてしまおうと、俺は再び話しかける。
「ガルシア殿、リーベンス王にお送りした書簡の写しがこれになります。我々は王都に向かわねばなりません。陛下と謁見し、これに当たらなければならないのです。
つきましては、お取り立てをお願いしたいのですが。」
「相分かった、勇者の名を以て当たらせて頂く。」
と、ここまでが真面目な話。
事前に連絡が行ってるし、ガルシアさんもそれは承知だ。
まあ、体裁とか、慣例とか、そのへんのための会話だったのだ。
「じゃあ、難しい話は終わりにしましょう!」
会話が終わると、奥方であるシュリさんが手を叩いて微笑む。
ガラルドによく似た美人さんで、二十五歳の息子が居るようには見えない。
そのシュリさんだが、並んで座っていたリシュリー殿下とアリアの手を取って、上座へと案内する。
「今日はおめでたい報告もあるのよ、なんとガラルドに、二人のお嫁さんが来てくれることになりました!」
拍手する俺とマキナ、それに使用人達。リヴィとガルシアさんはうんうんと頷き、ガラルド達三人は真っ赤な顔で立っている。
「特にアリアちゃんは、昔から頑張っていたもの、私の感動もひとしおよ。」
「奥様…」
「お母様とよんで、アリアちゃん。」
「お、お母様…」
リシュリー殿下は優雅に、アリアはカチコチになりながら、ガラルドはさらに真っ赤になって結婚の報告をし、この話はヤード中に伝えられる事になる。
モンスター被害からの復興は大変だろうが、こういう慶事がある事は、きっと心の支えになるだろう。
「しかし、ガラルドが結婚なあ…、早かった様な遅かった様な、不思議な感覚だ。」
ガルシアさんは今までを思い出すような目で三人を見る。
勇者の先輩として思う所もあるのかも知れない、是非ともガラルドを導いてやってほしいものである。
あと、出来れば結婚生活における夫の気構えとか教えて下さい。
その日の夜、テラスに出ていた俺に、ガロードが近付いてきた。
手に持った酒瓶を揺らし、俺に勧める、当然受ける。
「ガラルドの事、本当に感謝している。」
「やめてくれよ、青臭い理屈をぶつけただけさ。」
「それでも、オリジン殿がガラルドの好敵手となり、良かったと思える。」
ガロードの話は終始ガラルドについてだった。
兄として、ガラルドの危うい所を指摘できなかった事を悔やんでいるらしい。
俺はそれ自体がいい傾向だと思うんだが、貴族と言うのは難しく考えてしまうものなのか、やや早めのペースで出来上がったガロードは、最後にポツリと呟いた。
「ガラルドの自信を失わせたのは、私なのだ。それが、今も尚悔やまれていかん。」
「なら謝っとけ、先に上の奴が謝れば、大抵はなんとかなるもんだ。」
「そうか…そうだな…すまぬなあ、ガラルドぉ…」
そう言って、寝てしまった。
肩を竦めてベッドに寝かせてやる。
いいよな、兄弟ってのは。俺には居なかったが、ユーリカがそれに当たるんだろう。
こういうのは意地を張っても仕方が無い、格好つけずに、さっさと折れてしまえばいい。
そして良くなった兄弟仲で、ヤードを更に良くして欲しい。
きっと決戦は訪れる。
そのときに失うものが無いように、頑張ってくれ。
俺はそう願い、部屋に戻った。




