楽しみな御仁が参ったものよ
設定ノート(手書き)に厨ニ臭い単語が並んでいるのを見てニヤつくのは俺だけじゃないはず。
今回もよろしくお願いします。
想像する魔界のテンプレートとはなんだろう。
おどろおどろしい空気?
紫色の雲がかかる空?
禍々しい色の植物と荒れた大地?
俺とマキナでダンボールを一つずつ持ち、ユーリカを先頭に謎穴を潜った先は、当たり前だが室内だった。
白地に植物の蔦を思わせる意匠の入った壁紙。
部屋の隅に置かれた鮮やかな花々の花瓶。
障らない程度に金や銀の装飾品があり、床には赤いカーペット。
「ここが渡来の間だよ。」
「なんつーか、城みたいだな。いや城なんだろうけど。」
うん、凄い豪華。魔界要素ドコー?
お上りさんな俺は部屋をキョロキョロ見渡し、ふとこの部屋が六角形であることに気付く。
「気付いた?部屋の形や位置なんかも渡来には大事でね、内装まで全て計算されています。どや。」
「凄えよな、そんなキッチリしてんのにめっちゃ落ち着いてて寛げる部屋だ。」
「へへ、まあ殆どはアルラウネ達がやってくれてるんだけどね。」
「アルラウネって、植物の?」
「そう、あのアルラウネ。」
名も知らぬアルラウネさん達、ご苦労さまです。
「マキナ、とりあえず、オリ君の部屋に案内してあげて。
私は先に玉座の間に行ってるから。」
「かしこまりました。」
「あー、じゃあ後でな。」
扉を開けながらユーリカは言い、腰の辺りから翼を広げ(そんなん生えるのかよ)広ーい廊下を真っ直ぐに飛んで行った。
「ほんじゃ済まんが、案内頼むよマキナ。」
「はい、こちらです。」
マキナが示したのはユーリカが飛んで行ったのとは逆の道、やべえな、俺絶対迷子になるわ。
マキナの説明を聞きながら廊下を進む。途中で頭に花が咲いた(比喩ではない)緑髪の女性や、下半身の蜘蛛パーツで壁に張り付き、天井廻りを掃除している女性、首から上から鶏の執事服の男性などなど、如何にもファンタジーですよー、といった面々に出逢いながら、ほぼ最奥であろう大きな扉の前に辿り着いた。
「こちらがオリジン様の部屋になります。御用の際は室内にあるベルを鳴らして頂ければ、すぐに誰かが参りますので。」
「あ、うん。そうなんだ。」
尚本人はあまりの規模に頭が付いて行かない模様。
「あの…」
と、ボケっとしていると、マキナが言い難そうに口を開く。
「ん、どうした?」
扉を半分開きながら(うわ中めっちゃ豪華)上半身をマキナに振り返る。
俯き加減で赤い顔をしながら、モジモジした様子は非常に滾るのだが今は非常事態。
努めて冷静に続きを促す。
「先程は大きな声を出してしまい、誠に申し訳ありませんでした。」
「あー、俺も調子に乗ってた。こっちこそスマン。」
軽く頭を下げながらこちらも謝る。
多分ユーリカにからかわれたのが効いてるんだろう。
悪いの俺なのにね!
「いえ、あの、はい…。あの、もしわたくしに『御用』が有りましたら、何時でもお呼びください…ね?」
「お、おう。」
何これハーレムってやべえ。
思わずマキナの肩を抱き寄せそうになったところで、
「おお、マキナ嬢。戻っていたのか。」
突然廊下の奥から声がかかり、ダンボールさんを落とした。(尚ダンボールさんの策略により、肩を抱き寄せるのは物理的に不可能だったと記しておく)
「え、ええ、ドラグ殿つい先程戻りました。ドラグ殿は何故こちらに?」
姿を見せたのはドラゴン!
いや、ドラゴンを直立させて人間に近付けたような、いわゆるドラコニュート的な男性だった。
「となればユーリカ様は玉座に向かわれたか。いやはや、すれ違いになったようであるな。なに、カミラの馬鹿がユーリカを出せと五月蝿いのでな、探して来ると言って放ってきたところよ。」
可可と笑うドラゴニュートの男性、ドラグは、そこで俺に気付いたようで、俺を上から下まで眺め、うむ、と頷いた。
「そちらの御仁がオリジン殿であるな。我はドラゴニュートのドラグ、もはや老兵だが、この城の第一隊を任されておる老害よ。」
「オリジンだ、宜しく頼むよ、ドラグ殿。」
来る前にレクチャーされた通り、なるべく上にも下にもならないように挨拶を返し、手を差し出す。
しっかり握り返されたその手の、やはり鱗の感触のある、しかし剣か何かを振り続けたのであろう硬さに、少し感動した。
「うむ、気概もある。度量もある。更には雄々しき顔をしておる。これは中々に楽しみな御仁が参ったものよ。」
ドラグはそう言って手を離す。
そして足元に転がったダンボールをヒョイっと広う。
「そなたらも玉座に往くのであろう?ならば荷を置いて共に参ろうか。」
「そうですね、オリジン様も今後の為に、ユーリカ様の戦うお姿を一度拝見しておくほうが良いと思います。」
「んじゃ扉開けたところに適当に置いといて、さっさと行きますか。」
俺達はホントにテキトーにダンボールを置いて、玉座の間に向かった。
ちなみに移動方法だが、逞しいドラグの腕に抱えられて水平飛行するのはめっちゃ感動した、と言っておこう。
人物、建造物などなど
○ドラグ…ドラゴニュート。百花城魔王軍第一隊隊長。ややくすんだ青い鱗を持つ、魔王軍ナンバーワンの実力の持ち主。人当たりは明るく、やや好好爺といったところ。
○渡来の間…長い年月をかけ、位置、高さ、角度に至るまで、あちらの世界に繋ぐために考えられ作られた部屋。管理はアルラウネさん達。謎穴は今は閉じてます。




