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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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別録・勇者ガラルドの躍進〜成長編その8〜

薄暗い天幕の中で、ガラルドは一人目を閉じていた。

頭の中では、オリジンに言われた事が何度も繰り返されている。


(僕は、勇者なんだろうか。)


勇者になった経緯は、単純に依頼を受けたからだ。無論そこまでの実績も評価されているだろうし、ヤード家という出自もあるだろう。


それでも、積極的に勇者であろうとしてきた。旅をし、強敵と出会い、守りたい者が出来て、そしてオリジンと好敵手になれた。


そこに、『自分』が勇者である必要はあったのか。自分が『勇者』である必要はあったのか。


(僕は、なんで勇者で在りたかったんだろう。)


自分が何か、永遠の課題であるように感じられるそれに、彼は答えを持っているのだろうか。


「荒れているかと思ったが、随分と静かではないか。」


思考の海に漂っていた耳に、自分と似た声が響き、目を開ける。


天幕の入り口には、兄であるガロードが立っていた。


「酒を持ってきたが、飲むか?」


「…いえ、辞めておきます。」


「そうか。」


自身も飲む気はなかったのか、テーブルの上に酒瓶を置いて、適当に腰掛ける。


「苛烈な男だな、彼は。」


「ですね、あの熱に焼かれないようにするだけで、今は精一杯ですよ。」


「だが、優しさに溢れた男だ。そして信頼も出来る。」


ガロードはそう言って、パイプを取り出して火をつける。


「あのような男に見出されるとは、私も鼻が高いぞ、ガラルド。」


「どうでしょう、呆れられたかもしれません。」


「お前の知るオリジン殿は、そういう人物なのか?」


そう言われ、甘えが出たな、と自らを戒める。


「いえ、そうではないと思います。失言でした。」


そういえば、何故オリジンは自分を認めてくれたのだろう。

あの日会って、戦って、意識を失って。

目覚めた時、隣のベットから言われた言葉。


「お前みたいな生き方をするやつが、俺は好きだ。」


それは、今の自分に足りないもののように思えて、それがオリジンに認められた何かであるような気がする。


「私は鍛えてはいるが所詮は文官だ、お前たちのように戦う者の気持ちが分かるわけではない。」


再び考え込むガラルドに、静かに語りかける声。

宙に浮いた煙に向かって、もう一度煙を吐きかけながら、ガロードは続けた。


「それでも、私なりに考えて、何故オリジン殿があんなに怒ったか、ぼんやりとは分かったと思う。」


思わず顔を上げ、縋るようにガロードを見つめる。

ガロードは苦笑いして、まだまだ子供だな、と呟く。


「あの時、お前は何も見ようとはしていなかっただろう。誰しもが前を向き、明日へと希望を繋げようとする時、お前だけは別の方向を見ていた。

問おう、あの巨獣を倒すことと、お前の守るべき者たちを守る事は、何か矛盾するのか?」


ガラルドは直ぐに答えられなかった。

アリア達を守る為に、巨獣を倒す。

アリア達に危険を侵させたくないから、自分が戦う。

その行動こそが矛盾している。

倒すべき敵を前に、自分の行動こそが愚かであったことに、ガラルドはようやく気付いた。


「続けて問おう、アリアと殿下を危険に晒すことと、前線で戦う事は、同じなのか?それは、お前がすべき尽力を放棄しているのでは無いのか?」


思わず歯を食い縛る、違うと叫びそうになる。

だって、死ぬところだった。あの瞬間、全てを失うと思ったんだ。


「父上が兵達を教練する時に、必ず言う言葉がある。

隣の者を見よ、その顔を決して忘れるな。それが、お前が守るべき者であり、お前を守る者なのだ。とな。

実にいい言葉だと思う、一人で戦うなと言う教訓にも聞こえる。

事実、我々の背には常に何かが乗っているのだ、それは一人きりで背負えるものでは無いだろうよ。」


なら、勇者とは何なのだろう。

人々を守り、導き、希望たる勇者。しかし優れた人が多くいるのなら、誰かの為にしか戦えない勇者は、何をすればいいのだろうか。


「また難しく考えているな?全く、糞がつくほどの真面目だな、お前は。」


「それは、考えますよ、僕は勇者なんですから、何か出来るか考えないと。」


「それがそもそも間違っているとは思わんのか。

勇者とは名誉や称号であり、生き方では無い。自由なのだ、勇者は。

やりたい事があるのならやればいい、やるべき事しか考えられないのなら、勇者には騎士達がなればいいのだ。

だが、勇者というのは案外上手くできているものでな、やりたい事とやるべき事が一致することが多いようだ。不思議なものだな。」


勇者が自由なものだなんて、考えたことも無かった。

確かに、狩猟者をしていたときは楽しかった、戦うのも嫌いではないし、ワクワクする事も多かった。

反面、勇者として生きるのは、窮屈な思いをすることが多々あった、ただそれは、自分が勝手に抑圧していたからで、勇者としてではなく、勇者ガラルドとしてやってきていれば、もっと違った見え方をしたのかもしれない。


差し当たっては、ガラルドとして剣を握ろう。

まだ答えは出ないけれど、アリア達を危険に晒すのはやっぱり嫌だけど、ここでボンヤリしているよりはきっといい。


「兄上、僕も行ってきます。」


「答えは出たか?」


「まだです、でも。」


剣を腰に差し、軽装のまま立ち上がる。大層な鎧で自分を守る事なんて必要ない。

僕は勇者として、自分のまま生きる、自分のまま、皆を守りたいから。


「僕は思っていたよりも考えるのが苦手なようで、とりあえず、体を動かきてきます。」


今、アリア達が戦っているのに、自分が居ないなんてありえない。

行かなくて後悔するくらいなら、行って全てを解決したい。


帰れと言われるかもしれない、もう終わっているかもしれない。

それでも、僕はガラルドだ、戦う事でしかオリジンに答えを返せない。


「多分これが、僕の初陣なんだろうな。」


一人呟いて、ガラルドは馬に跨った。


行く先は、敵の元、愛する人の元、そして、自分の生きる戦場だ。

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