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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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別録・勇者ガラルドの躍進〜成長編その5〜

「ハッ!」


ガラルドの突きがモンスターの表皮を貫き体毛を舞わせる。

その一撃が呼び水となったのか、モンスターが低く唸りを上げ、姿勢を低くする。


小山のようなモンスターが今にも飛び出さんとする姿は、威圧的の一言に尽きる。


「…このくらいが限界か、そろそろ退きます、アリア、目くらましを頼む。」


「了解、ミラージュ、ワイド。」


アリアの放つ幻影の魔法がガラルド達の姿を隠す、半円状にモンスターを取り囲んでいた兵士たちと共にガラルドとアリアは馬に飛び乗って後方へと駆けた。




巨獣とガラルドが相対してから早くも一日が経とうとしている。

突撃は既に四度目、そこでようやくこのモンスターの特性がいろいろと分かってきていた。


防御力はそれほど高くはない、しかし巨体ゆえに体力が多い。

攻撃力は高いが、凶暴化しない限りは防御を優先する。

ある程度のダメージを受けると凶暴化し、最も近いものから狙う。

ダメージを与えているときは回復しないが、数時間経てば傷は全て再生する。


これらの事がわかった所で、倒す方法は初めから変わらない。

すなわち、反撃覚悟での飽和攻撃である。

だが、それには火力が足りない。


「戻ったか、ガラルド。」


「兄上。」


馬上で頭を悩ませるガラルドに、ガラルドの兄であるガロードが声を掛ける。

文官とは思えない体つきをしてはいるが、戦いにはまるで素人、それなのに領のため、民のために前線まで来ている兄に思わず頬が緩む。


「あ、ガロード様。」


「おお、アリアも無事に戻ったか、なによりだ。」


馬から降りて使用人の礼をとろうとしたアリアをガロードは制し、二人を泊舎へと誘う。


貼られた暖簾のような入り口をくぐると、中にいたリシュリーがやや疲れたように微笑んだ。


「ご無事で何よりです、おかえりなさいませ。」


指揮官用の部屋にリシュリーがいることを問おうとすると、先にガロードが口を開く。


「話したいことがあって私が呼んだ。他の隊長も来る手筈になっている、まあ、少し休め。」


「心遣い、感謝します兄上。」


ガラルドは一度頭を下げると、用意されていた椅子に座り息を吐く。

ずいぶんと気を張っていたようで、座った瞬間に体に重みがかかるようだった。

アリアに目をやると、既にフラフラと船を漕いでいた。魔力を大分消耗しているのだろう。


今日はここまでか、と装備を外して立ち上がり、アリアを抱えてベッドへと寝かせる。


「強くなったな、お前達は。」


それを慈しむように見ながら、ガロードはガラルドに飲み物を渡す。

苦笑いしながらそれを受け取り、一息で飲み干す。


「思うようにはいきません、守るためには、まだまだ足りない。」


「そうか、まあ無理はするな。」


肩をポンと叩き、ガロードは自分の椅子へと戻る。


やがて三人の隊長たちが泊舎へと入り、ガラルド達はモンスターについての話し合いを始める。


「単刀直入に聞く、アレを倒せるか、ガラルド。」


「正直、難しいでしょう。単純に火力が足りません、倒せるまで攻めるとなると、被害がどれほどになるかは検討もつきませんし。」


「やはり他の勇者を待つのが次善策となるか。政治的な話で申し訳ないが、父上やお祖父様を動かすわけにもいかんからな。

他に気付いたことはないか?お前たちもだ。」


ガロードが見回すと、隊長の一人が発言する。


「既存ではありますが、数値がしたので一応の報告を。

モンスターが凶暴化するまでの被害、及び、凶暴化してからの日外の計算です、兵士、狩猟者、合わせて1000人を超える我が軍ですが、三割程の被害を許容すれば、全軍の攻撃が届くと見込まれます。」


「三割か、それでは敗北だな。続けろ。」


「はっ、倒せるまでに十の攻勢をするとして、残るのはおよそ数百程になります。一応のご検討を。」


「言うまでもなく却下だ、だが、報告は受け取っておく。他は?」


誰も言葉を発しなくなり、ガロードは小さく溜息をつく。


「皆、疲れているだろう。今日はもう終わりにして休むといい。」





その日の深夜、ガラルドは人の話し声で目が覚めた。

小さな声だが少し白熱した気配を感じて、体を起こす。


「常時……除けば…位は…」


「…すれば……倒れる…出来る…」


「期待…です…」


「誰かが…いけない…しょ?」


声はアリアとリシュリーのものだと直ぐに気付いた。

話の内容は恐らくモンスターを倒す手段についてだろう。

やめさせないと、と思うが、何を言えばいいのか分からなくなる。


現実的に倒す方法は見当たらない。

犠牲を覚悟での討伐なら、自分達が来るまでに終わっているだろう。


改めて自分が情けなくなる。

言い切った筈だ、敵を倒すと、ヤードは負けないと。


「くそっ…。」


小さく呟いた声は闇夜に溶けて消え、夜は過ぎていくのだった。





翌日、ガラルドはアリアと押し問答することになる。

試したい事があるとアリアが言い、危険を犯せないとガラルドが止める。


「攻撃を受けた人の傷から計算して、リシュリーの防御魔法は充分に耐えるわ、それならもっと深く切り込めるでしょう?」


「殿下を敵の眼前に出すことは出来ないよ、危険すぎるし、何かあってからじゃ遅いんだ。」


「それじゃあこのままあのモンスターを放っておくつもりなの?」


「そうならないように弱点を探って、倒せるように皆考えてる!」


「同じような攻撃を同じように続けて何が分かるのよ!」


一度言葉に詰まり、ガラルドは頭を振って熱くなりかけた心を落ち着ける。


「とにかく、今日は部位事に狙って弱点を探す、いいね?出来るだけ早く倒す方法は見つける、でもそれは安全策を取りながらだ。」


「あんたね!

…わかった、言う通りにするわ、納得はしないけど。」


アリアはそう残して、自分の準備に向かう。

アリアの言うこともわかる、より効率的に攻撃が出来れば倒せる可能性は上がるだろう。

けれどそれは、命を掛けることに等しい。

そんなことはさせたくないし、させるわけにはいかない。


結局は、自分なのだ。自分の剣がより深く刺されば、より強く斬れれば、より大きなダメージを与えられれば。


本日一度目の突撃、ガラルドはそれを意識しながら一歩を踏み込む。


「ハアアアッ!!」


全力で斬り上げた剣はモンスタ巨獣のした顎を捉え、頭を大きく浮かせる。


(もっと、もっと力の籠もった一撃を!)


更に踏み込み、体を回転させて前足を斬り付ける。


(今のは…!あと少しで何かが掴める!)


軸足を変え、剣を水平に薙ぐ、ハッキリとした手応え、恐らくは健を斬った。

体が倒れることを見越して、素早く巨体の横へと飛び出す。


(いけるかもしれない、このまま押し込めば…)


「ガラルド!!」


アリアの声にハッとする、巨獣のダメージは臨界点を超えて、既に威嚇の体制に入っていた。


右手から叫び声、砂嵐を巻き上げ、人が飛ぶ。

大きく振り回された尻尾が、ガラルドに向かっていた。


「しまっ…!」


剣で防御体制を取るが、焼け石に水だろう、ガラルドは目を閉じて歯を食いしばった。


「サンクチュアリ!」


凛とした声、激しい衝撃音がしてガラルドは目を開けた。

光る壁、それが尻尾の一撃を食い止めていた。


「これは、殿下!?」


バッと振り返ると、リシュリーが錫杖を構えて馬上にいた。

見渡すと、倒れている兵士たちにも光の膜がかかっている。

恐らくはギリギリで回復が間に合ったのだろう、見る限り死んでいる者は居なかった。


巨獣が唸る、誰が厄介かを理解したように。


「アリア!殿下を守れ!そっちを向くぞ!」


咄嗟に叫ぶが、巨獣は既に飛び出す為に身を屈めていた。

間に合わない!

ガラルドを焦燥が襲う。

力の限り剣を叩き付けるが、巨獣は意にも介さない、その身が、飛ぶ。


「リシュリー!」


アリアがリシュリーの前に立って杖を構える。いくつもの魔法が巨獣を傷付けるが、止めることは出来なかった。


やめろ、待ってくれ、こんなのは嘘だ。


「やめろおおおおおおおっ!!」





ズドン、と、土埃が舞う。

剣を落とし、膝をつく。

だが、聞こえたのは。




「かってえなあ、おい。石頭すぎるだろ。」



呆れた様な男の声だった。


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