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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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別録・勇者ガラルドの躍進〜成長編その1〜

お待たせしました。

今回から再び別視点です。

よろしくお願いします。

既に見慣れてしまった高価そうな赤い絨毯の上を歩きながら、白銀に光る鎧を着け、腰に剣を挿した青年は溜息を吐く。


強力なモンスターを倒して報奨を得るのはいつも通り、「勇者」と言う名の持つ影響をその身に感じるのにも慣れた。


だが、貴族の付き合いというのは未だに苦手だ。


青年の名はガラルド・ルイ・ヤード。

辺境の貴族ヤード家の次男にして、「閃光」の名を持つ、人間界の東端、リーベンス国の勇者であった。





「随分と疲れてるじゃない、そんなに嫌なら辞退すれば良いのに。」


祝賀会という腹の探り合いと、自分に擦り寄ろうとする女性達の相手を終え、誘いを断り宿に戻ったガラルドを迎えたのは、幼馴染のそんな一言だった。


「そうなんだけどね、まあ、その、僕にも思う所があるって言うか。」


大きな三角帽子を膝に乗せ、身長ほどもあるねじれた杖を傍らに置きながら、赤毛の少女は呆れたように続ける。


「ねえ、ガラルド、私は守られ続けるのは嫌よ。ちゃんと自分の功績であなたに並ぶつもり。

だから、私にはきちんと話して。」


思わず見返したその目は、口調とは違い真剣そのもので、ガラルドも覚悟を決めて近況を話す。


「…僕に、王家から婚姻の打診が来てる。相手は第三王女殿下で、君に、アリアに会いたいって仰ってる。」


「光の神子姫様!?あのリシュリー殿下が、私に!?」


赤毛の少女、アリアは流石に驚いたのか、思わず腰を浮かせる。

口元に人差し指を当てながら手振りでそれを落ち着かせると、アリアは納得したように、そう、とだけ呟いた。


「殿下はアリアに対して凄く好意的だ、でも、それが本心なのか上辺だけのものなのかは、正直分からない。

だから、会わせたくなかった。婚姻の話も正式に断るつもりだったし。」


アリアが落ち込んだのでは、と、やや早口で告げるガラルド、恋人として上手くいっていると思うし、次にヤードの家に帰る時には、両親に紹介しようとすら考えていたのだと明かそうと思った矢先、アリアが先に口を開いた。


「断って、あなたは大丈夫なの?」


その声に、その瞳に、不安や怯えのような影は一切なく、ただただ自分の事を気遣うような、有り体に言えば、大人の女性の姿だった。


(そう、か。もう彼女は、僕の背中で泣いていた、小さなアリアじゃ無いんだ、分かってたつもりだったんだけどな。)


ガラルドは思わず苦笑する。

君の為に強くなって、君に必要とされたかった。

けれど、同じ事を考えていた君は、僕より先に進んでいるんだな、と。


「まあ、厳しいだろうね。王家からの印象は悪くなるだろうし、殿下は教会からの信頼も厚い。

これまでが期待の勇者、国の自慢だとしたら、これからは、制御の出来ない愚か者ってところかな。」


軽く肩を竦めながら、なるべく明るい口調で答える。

ガラルドとしては、別段それでも困らない、国よりも、家よりも、自分にとってはアリアが大事だ。

それに、いざと言うときには、あの人が居る魔界に逃げても良いかもしれない。

それが、我が儘な自己満足であるという事も、アリアの気持ちを解ったつもりになった最善だと思い込もうとした事も、薄々は気が付いていながら。


「あんた、馬鹿でしょ。いや、知ってはいたけど。」


苦悩するガラルドに告げられたのは、容赦のない一言だった。


思わず目を見開くガラルドの目に映るのは、呆れを隠そうともしない、肩を落とした彼女だった。


アリアは思い出していた、一週間に満たない滞在だったが、魔界に出来た友人達の事を。

そして気付いたのだ、自分はガラルドに依存しているだけだと、自分の足で立ち、自分の意思で隣に並ばなくてはならないのだということを。


「私を大切にしてくれるのは嬉しいし、そういう所が好き。でもね、あんたは勇者なの。皆の希望になって、導かなきゃいけないの。

だから、私に遠慮なんてしちゃ駄目。こんな言い方、不敬かもしれないけど、婚姻だって、王女様だって、使えるものは全部使いなさい。それにね?」


そこで区切ったアリアは、いつも通りの勝ち気で不遜な表情に戻り。


「男を立てるのがいい女だって、ユーリカ陛下も言ってたもの!」


その、余りにも自信の溢れる態度に、成長していなかったのは僕の方か、と、ガラルドは情けなくなる。


「さあ、ガラルド。リシュリー殿下に会うわよ。」






夜のうちに出した手紙の返事は、翌朝になり、迎えの馬車と共に届いた。

あまりの準備の良さに、ガラルドは目を白黒させたのだが、アリアは特に気にした様子も無く、流石は王女様、と馬車に乗り込んでいく。


手紙の返事は非常にシンプルで、やっと会えることになって嬉しい、三人でお茶会をしたかった、と、要約するとこの二つだった。


初めて王城に入るアリアが堂々と、何度も通っているガラルドが少しビクビクと歩く姿は、傍から見れば滑稽だったに違いない。


そんな事を考えながら案内された先は、なんとリシュリーの私室だった。

未婚の女性の部屋に男が入るのはマズイ。思わずガラルドの腰が引けるが、時は無情に過ぎ、案内役の侍女が部屋をノックする。


「どうぞ。お入りになって?」


聞こえてきたのは少女を抜け出した頃の、愛らしい女性の声。

きっと強敵だわ、と気合を入れ直し、アリアが扉に手をかける。


流石に全てを任せっぱなしは良くない、と、ようやく覚悟を決めたガラルドがアリアを制して扉を開ける。


簡素ながら美しく飾られた室内、その窓際に置かれた丸いテーブルと椅子に、一人の女性が腰掛けて微笑んでいる。


「失礼します、リシュリー殿下。ガラルド=ルイ=ヤード只今参りました、お招きに預かり光栄です。」


「宜しくてよ、それで、アリア様は?」


ガラルドが場所を譲ると、いつもの魔女姿のアリアは、ゆっくりと淑女の礼をした。


「お初にお目に掛かります殿下、アリアと申します。本日はお招き頂き、ありがとうございます。」


魔女姿で優雅な礼をしてみせたアリアに、リシュリーは一瞬声を失う。

まさか魔女姿で来るとは想像もしていなかったのか、あるいは平民が正式な礼をこなしてみせたからか。

我に帰ったリシュリーは、椅子から立ち上がり、完璧な礼をしてみせる。


「始めまして、アリア様。わたくしはリーベンス国第三王女、リシュリー=ミゲル=リーベンスですわ。さあ、お座りになって、お茶を用意させますわね。」


初対面のインパクトは与えられた、立ち上がりはアリアがやや優勢か。


アリアの服装からも分かるように、ここは戦場、女の戦いは、既に火蓋を切られているのだ。

人物紹介


○リシュリー…リーベンス国の第三王女。光属性の魔法と治癒を得意とする、通称「光の神子姫」。


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