たまにはゆっくり休んでおいでよ
結局、魔力が回復し始めたのが5日後、その後回復魔法と自己治癒を使い、丸々一週間の休養を経て、俺の体調は万全に戻った。
アグニとの戦いで破損した装備は残念ながら修復不可能、後日新たな装備を手に入れようと思う。
怪我も治った今日、四魔王が溶鉱炉に集合する。なにせ本日は定例魔王会議の日だ。
議題は最近動き始めた神、或いはそれに準ずる何者かについての事、提案者はグラン爺。
集まった四魔王プラス、カミラと俺は円卓に座り、各々の紹介を終えたあと、配られた資料に目を通す。
あらかじめグラン爺から概要は聞いていたのだろう、俺、アナスタシア、グラン爺の話を中心に、滅びと三つの災いの事、過去の英雄の話と結末、アナスタシアに起こった変化と、俺が見聞きした神の事、なるべく詳しく話し、疑問にも答えていく。
「では、我々が考えるべきは、今後の展開の予想と、その対策と言う事でそうか?」
東の新たなる魔王、カミラの元側近でもある、ウィスプ族の青年ルライトが切り出す。
戦闘はからっきしらしいが、今後の国力の向上と発展に力を入れられるよう選ばれた文官タイプの魔王だ。
「更に言うならば、三つの災いの倒し方もだね。今後オリジン君を中心にした騒動が起こる事を見越せば、恐らくは魔界で戦う事になるだろうから。」
グラン爺からの返しに、全員が唸る。
三つの災い、これについては分かりきっている訳ではない。
圧倒的な攻撃力、防御力、環境を破壊する程の影響力、単純に巨大である事、そして、過去のグラン=セインが倒し切れなかった程の生命力。
それらから鑑みる戦闘力の出鱈目さ。
解るのはその程度だ。
過去に比べると、装備、魔法の質は高まっているし、昔は存在すら気付けなかったスキルというものもある。
倒し切れなくとも、被害は相当抑えられるだろう、とはグラン爺の言葉である。
「まあ、焦らなくても良いと思う。アレは恐らく、英雄譚の締めくくりだろうからね。
今回決めておきたいのは、魔界に情報が浸透して、備えが出来るまでの間、オリジン君をどういう状態にしておくのが良いか、その扱いだね。」
その言葉に、過去の英雄達の記録を思い返す。
かつての英雄譚は、裏切り、嘆き、怒り、絶望の四つのパートに分けられて描かれている。
聖武器を巡る仲間の裏切り。
圧倒的な力により、他者に受け入れられなくなる嘆き。
まるで兵器であるかのように扱われ続ける事に対する怒り。
その結果、守るべき者たちを守れなかったという絶望。
そして心を患い、命を自ら断ったという終わり方をする。
英雄に選ばれるような奴らだ、真面目で、融通が効かなかったんだろうな、あの時のアナスタシアみたいに。
その点俺は、先に神の存在を知覚してしまったからというのもあるだろうが、裏切られたらチクるし、相手にされなければほっとくし、兵器にされても知らん顔出来るし、守りたいものは何より優先する。
神の思惑を外すのは難しいだろうが、別に思い通りに動かなくても良いだろうと考える、まあ、不真面目で自己中なんだろうな。
だからこそ、こんな発言も飛び出す。
「そのことなんだけどさ、暫く人間界に行ってちゃ駄目かな?
寿命的な事を考えても、二千年前の事が正確になんて残ってないだろうし、世界の危機になるかもしれないんだから教えとくべきなんじゃないか?」
俺の意見に皆がグラン爺を見る。
グラン爺は顎に手をやり、少し考え込んでいたが、結論は直ぐに出たようで、一度頷いてから答えた。
「時期早々かとも考えたんだけど、早めに伝えるに越したことはないだろうね。
少なくとも、各国の上層部、それに、勇者達とその仲間は知っておかざるを得ないか、四魔王連名の書簡と、人族にも信頼があるリヴィを付けよう、それでどうかな?」
各魔王は、少し考えて首を縦に振る。
魔界で完結出来ればそれでいいが、そうならなかった時の事を考えたのだろう。
思ったよりもアッサリと決まってくれて、胸を撫で下ろす。
何が起こるか解らないし何も起こらないかもしれない、それでも、ガラルド達には伝えておきたいからな。
「それじゃあ、オリジン君には暫く人間界に行ってもらう事にするよ。リーベンスの王に会って、色々と伝えて来てほしい。そこから各国と勇者達には伝わるだろうからね。」
「そうだね、ここまでずっと頑張り通しだったんだし、たまにはゆっくり休んでおいでよ。」
グラン爺に続いてユーリカからも労りの言葉を貰う。
そうだな、これからの事を真剣に考えるのなら、ここで一度体も頭も休めるのも良いのかもしれない。
なんせここには俺よりも頼りになる魔族が勢揃いしているんだからな。
「解った、そうさせて貰う、魔界の事は任せるよ。」
これで、俺についてはそれが決定事項となった。
後は魔界の防衛や対策等だが、流石にそれには口を出せず、話を聞いているだけになったが、おおよそ納得のいく形で終われたんじゃないかと思う。
人間界にいる間に仕掛けられる事も考慮しているが、俺だけで解決出来る範囲もきっと大きいはず。
成長を続けているであろうガラルド達や、リーベンスの美味いものを想像し、遥か彼方に想いを馳せるのだった。




