百花城では悪かった
今回もよろしくお願いします
骨折、計二十五ヶ所。
打撲痕、内出血、全身の約六割。
内臓出血多数、魔力、最低四日間は回復の見込み無し。
以上が戦闘終了後の俺の総ダメージである。
アグニの城である溶鉱炉に世話になりながら、魔力の回復を待つのが良いだろうとの診断を受けて、俺はアグニと共に城の医務室で治療を受けている。
回復魔法で治せば良いんじゃないかと思うだろうが、回復魔法にも色々と制約があり、掛かる側の魔力が底を尽いているような状況だと効果が薄いらしい。
現在は自己治癒力を高める治療を行っているのだが、この治療、見た目は許容出来るが、やられている方としては何とも情けない。
バルカンを初めとした精霊魔人種は、他者の治癒力を活性化させる能力を持っている。
使い方はとっても簡単、ただ相手に触れるだけ。
それも、触れている面積が大きいほど、肌と肌が直接触れるほど良いらしく、つまりは
「うふふ、どうですかぁ?」
「やぁん、逞しい…濡れちゃいますぅ。」
「カラダを適温に保つのは任せてね?」
三人の精霊魔人に全身のあちこちに絡み付かれている状態なのである。
ちなみにセリフは上から、風と大地の魔人シルフィーユ、水の魔人ウィンディア、炎の魔人バルカンだ。
もちろん看護はシッカリと行われているし、両腕が使えない今は非常に助かっている。
それこそマキナが柱の影でハンカチを噛み締めるくらいには助かっている。(比喩では無い)
だが先程も少し言ったが見た目がヤバイ。
両脇に枝垂れかかる女性、股の間に横向きに座り、首に手を回す女性、うん、まさしく悪の大魔王と言った風体である。
俺とは違い、体は全快しているアグニでさえ、
「うっわ…」
と言った程である。
本意ではない、本意ではないのだが、治す為には致し方なし。
あれこれ世話を焼かれ、なんやかんやありながらも、これも勝者の特権だと思うことに、頑張ってするのだった。
さて、そんな具合でありながらも戦後処理はしなくてはならない。
具体的には勝者から敗者への要求、前回の侵攻戦で、ユーリカがカミラに俺を要求されたように、今度は俺がアグニに何かくれと言うのだ。
「つーわけで、なんか強くなれるような物があれば欲しいんだけど。」
「具体性がねぇなァ…。」
この要求に、思わずアグニも呆れ顔である。
今回の戦いで、俺はまだまだ魔王という存在には到底届かない事を再確認した。
俺自身の強化は、更に因子を取り込み続け、完全な魔族になることが前提だ。
だからこそ、今出来ること、例えば何かしらの魔道具だったり、武器や防具だったり、強化アイテムだったり、そういう物が欲しいのだと説明する。
アグニは少し考えた後、少し待ってろと言い、部屋を出る。
本当に少しの時間で戻ったアグニの手には、色とりどりの宝石のような物が載せられていた。
「まあ、こンなもンでよけりゃくれてやる。」
「宝石、か?いや、それにしては魔力の質が…」
「なんだ、知らねぇのか。
これはな、精霊魔人の核、魔石だ。」
「なっ!?」
魔石、様々な場所で動力代わりに使われていたり、魔法や魔力を込めて使う、宝石のような石。
知識としてはそれくらいしか知らなかったのだが、それが精霊魔人の核だと言うのは驚きだ。
「いいのか?それって、言わば亡くなった魔人みたいな物なんじゃ…」
「は?お前、マジでモノ知らねぇんだな。コイツラはな、これから精霊に至る、言わば卵、もしくはガキンチョみてぇなモンだよ。」
詳しく聞くと、精霊は単純な生殖で増えるわけではなく、互いの魔力を混ぜて精霊核を創り出し、そこに魔力が注がれる事によって、新たな精霊が生まれるとの事だった。
「コイツをよ、お前の、なんだ、凝縮魔法とやらで一つの核にしてよ、お前の魔力で成長させろや。
そうすりゃ、お前だけの特殊な精霊が生まれるンじゃねぇかと思うぜ?」
「最後疑問系なのは不安だが、解った、有り難く頂くよ。」
アグニはそれを小さな袋に詰めて、俺に投げ渡す。
包帯でぐるぐる巻の両手で受け取ると、暖かくて穏やかな魔力が感じられる。
新しい命と、それに伴う責任。そういうものを感じつつ、宜しくな、と心の中でつぶやいた。
「あー、それとだがな。」
頭を掻きながら、居心地が悪そうに足を揺すり、アグニは頭を下げた。
「百花城では悪かった。
愛する女を、守るべき女をコケにされたお前の怒りは尤もだ。すまなかった。」
その言葉が、胸の中に落ちて、俺は呆気に取られた。
なんだよ、俺はつまり、あれか、アグニに謝らせたかっただけだったのか。なんともまあ、ガキかよ。
そして、この4ヶ月の想いが一気に押し寄せる。
初めはとにかく腹が立った。
自分がいかに愚か者だったかを思い知った。
戦うことの意味と喜びを知った。
誰かを守れる事の尊さを知った。
そして、アグニもまた、尊敬すべき偉大なる王であることを知った。
「いいさ、俺は全力でお前に挑んだ、お前はそれに応えてくれた、それで手打ちにしようぜ?」
「フン、そうかよ。」
少しばかり照れながら、アグニはそっぽを向く。お前もガキだな、と少し笑う。
落ち着いてみれば、結局はガキ同士の喧嘩だった今回の侵攻戦。
お互いの望んだ形とはほんの少し位は違っているのかもしれないが、それでも、良い結末を迎えられたと思う。
こういう出来事を、積み重ねていきたい。
「ま、何はともあれ、これからは宜しくな、アグニ。」
「ケッ、まあ、俺様も魔王だ、頭下げて頼むンなら宜しくしてやるよ。」
その言い方にガンを飛ばし合う、どこまでもガキな俺達だが、そう言うダチが一人くらいいても、それはそれで良いものなのだ。
種族などなど
○バルカン…炎の精霊魔人。精霊がある程度の力をつけると精霊魔人となる。
バルカンは温度の調節に長けていて、炎のオーラで自己治癒力を高める事が出来る。
膝の上担当。
○シルフィーユ…風と大地の魔人。精霊種は自由気ままな性格の者が多い。
循環させる力をもっており、自己治癒力を高める事が出来る。
右側担当。
○ウィンディア…水の魔人。女性の精霊種のスキンシップは割と濃厚。
癒やしの能力は全精霊種トップ。水に関するエキスパートである事からも分かるように、自己治癒力を高める能力も高い。
左側担当。なおセリフにエロい意味は無い。無いったら無い。




