足掻いて来たぞ、アグニ
今回もよろしくお願いします。
あっと言う間に時間は過ぎ去り一週間後、まだ朝日も登らない早朝に、俺達侵攻組は王城の訓練場に集まっていた。
この一般の間も余剰分の魔力を魔剣に注ぎ込み続けた、決戦の準備は充分に整っている。
「さあ、行こうか。今日中に着いて、夜襲をかけるよ。」
ユーリカの言葉に皆で頷く、警備の薄い夜中に、いかに素早くアグニの城に侵入し、先制攻撃を仕掛けられるか。それが鍵を握る。
流石にヨーイドンで戦って勝てると思えるほど、俺は自惚れてはいない。
俺が気を付けるべきなのは、戦闘を始めた者の余波に巻き込まれない事。
玉座の間に入るまで、ドラグとユーリカを盾に、攻撃を受けない事。
そして、最初から全力で挑み、必殺の一撃を当てる事。
ここまでしてようやく、勝ち目が生まれる。
もしかすると、考えているよりも戦闘力の差は開いていないかもしれないが、考え得る最悪を常に意識しておく。
「オリジン様、宜しくお願い致します。」
頭の中で今日の作戦を反芻していると、俺が抱えて飛ぶことになっているマキナが声を掛けてくる。
戦いの前だから当然のように真剣だが、どことなく恥ずかしげにしているマキナを見て、少し気が緩む。
そうだ、意識ばかり凝り固まっても仕方ない。
元々は勝てるはずのない戦いだ、それが今や、勝ち目がある所まで来た。
その事実だけがあればいい。
「じゃあ、出発!」
ユーリカの掛け声に、マキナを抱き空へと飛び立った。
平原を抜けて森林へ、発見される確率を下げるため、出来るだけ低く飛ぶ。
道中には特に語ることはない。
出てくるモンスターはグロリアが一掃するし、何度かの休憩で疲労も回復させた。
昼が来て少しの食事を取り、空が暗くなり始める頃、高度を上げる。
いくつもの町の明かりを通り過ぎ、やがて見えてくるのは、明るい山、火山だった。
あの山の麓にアグニの城、「溶鉱炉」がある。
王都が見え始めた辺りでグロリアが先行する。城外の敵の目を集めるためだ。
王都の外には赤い巨人が立っている。恐らくはアレがイフリートなんだろう。
「行ってくるっす!ドラゴンフォーム!」
眩い光が一瞬グロリアから発し、後には巨大な竜の姿になり、巨人イフリートに向かって飛んでいく。
負けるな、グロリア。
心の中で応援し、グロリアと別れた。
グロリアを除いた俺達は再び低空飛行に切り替えた、グロリアが上に注目を集める手はずになっているので、俺達は城壁のギリギリを飛び、侵入する。
チラリと振り返ると、喉元に食らいついたグロリアが、イフリートを引き倒す所だった。
その轟音と振動で辺りの目は無い。
恐らくだが相手に奇襲と言う考えは無かったんだろう、正門へと駆けていく兵士を横目に、王城に飛び込んだ。
「奇襲だ!南が来たぞ!兵を叩き起こして防御を固めろ!」
隊長らしきバルカンの男が兵達を急かす、慌ただしい場内は潜入するにはもってこいだ。
ここからは全員が戦える。
手近な敵を気付かれないように無力化しながら、二手に別れる。
ユーリカ、マキナ、クークーは最短距離を、俺とドラグはやや遠回りなルートで玉座の間に向かう。
「魔王ユーリカだ!食い止めろ!」
案の定、敵は多くをユーリカの方に向かわせる。その隙に俺たちが玉座の間に入る予定だ。
少ないと言っても城内の兵はこちらを探している。出会う全てをドラグが無力化していく。
階段を登り、いくつかの角を曲がる、百花城に比べてやや複雑な城内も、今回は俺達に味方した。
敵の初動が遅れるだけ、俺達は前に進めるからな。
最上階へと上る階段の所に辿り着くと、そこはマキナとクークーが制圧した後だった。
目線を交わし、階段を駆け上がる。
俺達を追ってきた兵は二人が食い止めてくれる、そう信じて振り返らずに走る。
そして目の前に現れるのは、明らかに他とは作りの違う扉。
いる、この向こうにアグニが。
大きな気配を感じて、ドラグと頷き合う。
扉を開く、玉座に座るアグニと、それを守るように立ちはだかる近衛であろう男女のバルカン。
雄叫びを上げながらドラグが近衛に襲い掛かり、二人を引き剥がす。
絡み合う俺とアグニの視線。
決めるなら、今。
「『我に従え。』」
混沌乃災禍の能力を開放する、いくら貯めていたとは言え、魔力の消耗は激しく、長時間の戦闘は不可能。
俺はアグニとの距離を「凝縮」し、一瞬で目の前に立つ。
「足掻いて来たぞ!アグニィィ!!」
アグニに向かい振り下ろす剣、戦いの火蓋が今切られた。




