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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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勝ってね、オリ君。

地獄の9月がようやく終わる…



お待たせしました、今回もよろしくお願いします!

一週間ある、一週間しか無い。

どちらでも良いが、それによって気の持ちようは随分と違うと思う。

ちなみに俺としては前者である。


自覚している条件として、俺は今現在これ以上は伸びない。いや、伸ばせないと言うのが正解か。

詰め込めばある程度の事は詰まるだろうが、それが逆効果となる事もあるだろう。


混沌乃災禍、俺の魔剣の使い方を「決めた」以上、また、その使い方の為に魔力を貯める必要がある以上は、過分な鍛錬でリソースを消費したく無いのが現状である。


まあ、だからと言って。


「そっち持って、いい?じゃあ飛ぶよ?」


「重いっす!カミラ殿、この荷物何なんっすか!?」


「愚か者め、嫁入り道具であれば、箪笥、鏡台、衣服、布団と決まっておる。」


「えー?アタシ服しか持ってきてないんだけど、これで良かったのかな?まあ、おじいちゃんは良いって言ってたし、いっか。」


「あの、やはりわたくしは城のほうで…」


「何を仰ってるんですかマキナさん。私のように付き合いが短い者も住むんですから、大丈夫ですよ。」


こんなことやってる場合じゃないんじゃないかなあ。


何をと聞かれれば、引越しとしか答えられないが、会話からお察しの通り、住むのは俺一人ではない。


使っていなかった塔を改造して出来たのは、石造り三階建の豪勢な屋敷。

どこをどうやって改造したかは全くの謎だが、塔であった面影すらないのは、改築ではなく新築だと思う。


また、部屋数も多い。

三階の大部屋、この屋敷のメインの寝室は俺の部屋になるようだが、三階にある他の部屋、二階の部屋は彼女達に割り振られる事になっており、さらに後十人ぐらいは大丈夫とのお墨付きである。

そんな体力持たんわ。


兎にも角にも姦しく引越し作業は続いていく。

皆でここに住む、初めに聞いた時は引き攣った頬が戻らないかと思ったが、これは俺の認識不足。

解っていたつもりで解っていなかった常識レベルの話だった。


曰く、大きな家は財力と権力の象徴。

多くの女性は人間性と誠実さの現れ。

相手の女性の地位は社交性と知性の

成果。


日本でやったら金に飽かせて女と権力を買っている、なんて思われそうなものだが、この世界の場合、俺は男性女性問わず憧れと畏敬の対象になるだろうとのこと。


まあなんせ、魔王と元魔王、その幹部二人に魔王の孫娘、更には教会の司祭でありながら新たな種族と、バラエティで他の追随を許さないラインナップだからな。


問題は、俺がそれに慣れるかどうかって話である。

まあそんなに変わらないとは思うんどけどさ。


「ほら、オリ君も手伝って。早く終わらせてご飯にしようよ。」


「ああ、そうだな、やるか。」


この世界に来て四ヶ月弱、俺は遂にハーレム的な何かを手に入れた、らしい。



ようやく荷物の搬入を終え、一息ついた頃には、昼の時間はとっくに過ぎてしまっていた。


部屋割りとしては、三階に俺、ユーリカ、カミラ。

二階にエリーゼ、グロリア、マキナ、アナスタシアである。


序列がどうこう言う結果らしく、まあ妥当かな、と思う。

ちなみにこの面子だけで百花城第一隊よりも戦力的にはかなり上らしい。

何それ怖い。


最後に残った自室の荷物を解き終え部屋から出ると、鼻を引くいい匂いが漂っている。


そういえば一階にはキッチンもあったな、と考えながら階段を降りると、満面の笑みで迎えてくれるユーリカがいた。


「お疲れ様、ご飯出来てるよ。」


「………ああ、ありがとう。」


今の一瞬、俺はボロアパートの玄関に立っていて、髪も目も黒い彼女が鞄を預かってくれる、そんな光景を幻視した。


無くした物はあった、戻らない物も多かった。

けれど、ここにまた、新しく始まる幸せは確かに存在する。


「悪い、先に行っててくれ。顔洗ってくる。」


「…うん、ただいま、そして、おかえり、オリ君。」


俺はこの幸せの為に、出来ることは全てやろうと心に誓った。




少しして落ち着いたので、宣言どおりに顔と手を洗って食堂に入る。


待っていてくれたのか、テーブルの上には豪華な料理の山、それも、俺の好物が多く並ぶと言う、何というか、俺の為に用意されてる感のある食事だった。


「待たせたな、すまん。」


「気にするでない、今日は主賓じゃからな。」


「主賓?やっぱりこれ、引越し祝か?」


「引越し祝?なんじゃそれは?」


俺の為っぽかったから引越し祝かと思ったが違うらしい。

ならばと思って見渡してみると、何故か皆俺を見て真剣な顔をしている。


「えーと、結局何なんだ?」


「壮行会、かな。オリ君が頑張れるように、それと、勝てるように。」


「ああ…。」


納得する。なんだかんだと言っても、皆それぞれが気を使ってくれていたのだろう。

それにしても、ユーリカの口から初めて「勝つ」という言葉が出た。

今までは、死ぬな、とか、頑張れ、しか言わなかったんだが。

俺の視線に気付いたのか、ユーリカは苦笑いしながら続けた。


「オリ君は私が、私達が思ってたよりも強くなった。だからって、全部を背負わせるつもりは無かったの。

でも、オリ君ってば勝手に背負って頑張って、全部なんとかしちゃうんだもん、もう私が言える事は一つしか無くなっちゃった。」


そこで一呼吸おき、ユーリカも真剣な目で俺を見る。


「勝ってね、オリ君。オリ君が一番だって証明して。この先のどんな事にも負けない人なんだって、信じてるから。」


「そうじゃな、妾は目に見える物しか見えぬ、故に勝て。その凱旋を妾に見せてみよ。」


カミラが言い、皆が続ける。


「共に行く事は出来ませんが、貴方の無事を祈ります。」


アナスタシアが、


「オリジンが負けるわけないし、負けたら許さないんだから。」


エリーゼが、


「気楽に行くっすよ、気楽さと実力には何の関係も無いっすから。」


グロリアが、


「我儘で申し訳無いのですが、わたくしも、オリジン様には勝って頂きたく存じます。」


マキナが言う。


滾る、燃えてくる、俺の中の何かが、引火して、爆発して、そして、決意が、覚悟が生まれる。


「勝つさ、これで勝てなきゃ男として終わりだろ。」


笑みが溢れる。心が昇華していく。

注がれたエールを一息で飲み干し、自らの高まりすぎている程の戦闘意欲を鎮める。


「さあ、食おうぜ。勝てるように、全力で挑めるように。」


かつてない程の食欲と、見え始めていた勝利。

待っていろアグニ、俺は四ヶ月、足掻き続けたぞ。


俺の生き様を、誇りを、全てを賭けて、俺はお前に、勝つ。


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