ダーリンは嫌なのか?
今回もよろしくお願いします
小学生くらいの頃、俺は子供の遊び、それも、鬼をやるのがめちゃくちゃ上手かった。
鬼ごっこ、隠れんぼ、缶けり、高鬼、色鬼、などなど、数えればきりがない。
それもこれもどっかの幼馴染様が、鬼になるとものすごーく不貞腐れるからで、結果として俺は他の奴の二倍の確率で鬼を引くことになっていた訳だ。
「ほれ、きっーく。」
「なっ!くそったれえええええ!」
遥か彼方に飛んでいく空き缶、もとい、空き缶代わりの鋼鉄竹虫の抜け殻。
これで記念すべき十回目の退場である。
「ソナタが得意だと言うから選ばせてやったのに、何という体たらくか、これは一生終わらぬかもしれぬな?」
「いや、普通に考えて突然現れる奴を止めるのは無理だろ。」
大体想像はついたと思う。
俺たちは今、缶けりをしていた。
子供の遊び発言から選択肢を与えられた俺は、分かりやすい所で鬼ごっこを選択した。
結果、三日間に渡る攻防の末、惨敗。
カミラは一度も俺に捕まることなく、王都の門を叩いて見せた。
次は隠れんぼ、ハンデとして、カミラは隠れた場所から全く動かないと言う縛りを設けるも、探し始めて四日目の朝に肩に手を置かれ、諦めい、で試合終了。
どこにいたか聞くと、ずっと地面に埋まっていたらしい。
わかるかそんなん。
そして、缶けり。
更にハンデと言うことで、隠れる半径は1キロ、地面の下を始め、密室になる場所には隠れないと言うカミラ。
それなりに使いこなせている気配察知と魔力探査で場所を特定しても、ヘブンズゲートによる短距離移動と、単純な読み合いで差を付けられ、狩ってきた鋼鉄竹虫は全滅。
更に抜け殻を集めて挑むも、先程最後の一つが飛んで消えました。
「のう、ダーリン。」
「何だ。」
「楽しかったかの?」
また何か言われるかと思ったが、笑顔で問いかけられて、思わず目が点になる。
楽しかったかと聞かれれば、そりゃ楽しかったさ。
泥まみれになりながらちっこい背中を追いかけて。
犬のように這い回り、鳥のように飛びながらカミラを探し。
互いにフェイントを織り交ぜながら同じ缶を狙う。
何も考えずに、遊んだ、って気持ちになっていた。
「ああ、めっちゃ楽しかった。」
「そうか、それなら良い。さあ、夕餉に向かう前にもうひと勝負じゃ。
これがどういう遊びかダーリンにも解ったであろう?最後は全て惜しみなく使って、妾を止めてみせよ。」
言いながら、抜け殻を置くカミラ。
楽しんではいたが、とっくに気付いていた。
実際、スキルや魔法を使っていながら、現代ルールに則って遊び続けたのも、自分に何が出来るかを探る為だった。
そう、これは子供の遊びを模した、カミラに勝つ方法を考える訓練なのだ。
「ああ、最後くらい勝って終わりたいからな。ルールは今まで通りだな?」
自信有りげに口角を上げて笑う。
カミラも同じ様な表情で、それを肯定した。
「うむ、今までと変わらぬ。
ようやく妾も楽しめそうじゃな。」
段々と低くなっていく太陽の光の中、カミラの蹴った缶が、高く舞った。
「あー、最後の最後に油断した。勝ったと思って気が緩んじまった。」
「フッフッフ、奥の手は隠しておくものじゃ。」
「それは判るが、どこに隠してたんだよそんなもん。」
「乙女の秘密というやつじゃな。」
最後の一戦、思いつく限りの妨害と本気の攻撃により、カミラの足を暫く止めることには成功した。
だが、いざ缶を踏むという時に聞こえてきたのは、刮目せよ、と言うワード。
巨大な赤い目が俺を睨め付け、力が抜けてその場に崩れ落ち、鋼鉄竹虫の抜け殻は暗くなり始めた空へと消えていったのだ。
「戦いも遊び事も、最後に物を言うのは効率と作戦じゃ。敢えて妾の動きを覚え込ませ、最後に引っくり返す。まあ、訓練だからこそ出来る事ではあるがの。」
「それでも一応言っとくぜ、お見逸れしました、とな。」
俺は最後まで、カミラが封魔盾ディアルガを使うなんて夢にも思っていなかった。
まさか俺を相手に、まさか遊び如きに、そんな気持ちで一杯だった。
だが、それこそが正しい戦いの運び方なのかもしれない。
あのタイミング以外なら、多分、避けられたと思うし、裏もかけたんじゃないかと思う。
自分の手札の中にエースを作ること。そして、それが最も生きる場面で切ること。
それこそが俺の求める、必殺技の取っ掛かりになるんじゃないかと確信している。
「さて、およそ解っておるようじゃから、後はその魔剣をひたすらに振っておれ、引退の式典の準備も終わっておるし、遊べるのは今日で最後じゃからな。」
「ああ、もうそんなに経ったんだな。」
そうか、いよいよ明日か。
明日、カミラは正式に魔王を辞める。
辞めたあとは南の魔王国に渡り、一人の女性として、伴侶として生きる事も公表している。
それについては嬉しくもあるが、同時に、本当に許されるのかと言う不安もある。
「しかし、本当に良いのか?」
「なんじゃ、ダーリンは嫌なのか?」
「嫌じゃないどころか歓迎するさ。けどさ、勇者の好敵手になったり、魔王の近衛してたりはするが、俺は唯の一魔族だぜ?反対する奴とか居るんじゃないのか?」
「阿呆、アンデッドの、バンシーの妾がダーリン以外の何処に嫁げるというのじゃ。
アンデッドに子はできぬ、アンデッド以外を伴侶に持てば、必ず後に遺される。
アンデッドとはそういうものじゃ。
故に、妾の最後の希望はソナタなのじゃ。笑ってくれるなよ?これでも妾、乙女じゃからな。」
「笑わんよ、お前が乙女なのも十分知ってるしな。」
最後の希望、とまで言われたら、俺も腹くくり直すしか無いじゃないか。
どいつもこいつも、こんな自分勝手な男の所に来やがって、絶対に後悔なんかさせてやらないからな。
「よし!ならば明日からの式典では、妾の側に立って国民に手を振るのじゃぞ?妾が国民に紹介すれば、ダーリンの知名度もうなぎ登りじゃな!」
…ごめん、俺が先に後悔しそうな気がしてきました。
モンスターなどなど
○鋼鉄竹虫…甲殻が鋼鉄のように硬い、円柱状の多接昆虫型モンスター。五百入りの缶ほどの大きさなので、水筒やパイプなんかによく利用されている。




