表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
40/79

助けて下さい、オリジンさん

今回もよろしくお願いします

夢の中、意識の中に向かうと言うのは、なんとも変な感覚だ。


やり方自体はそれほど難しくもなく、魔力を同調させ、その一部に自分自身を送り込む、と言うか、置いてくる感じ。


だからか、俺は起きていながらにして、夢を見ているような、なんとも不思議な事になっている。


見えてくるこれは、記憶だろうか。

真っ暗闇の中で、幾つもの光景が目に入る。


泣いている少女が、何故自分は生きているのかと問う。


表情の無い少女が、何故自分は人とは違うのかと問う。


明るい笑顔の少女が、何故自分の悲しみは消えていってしまうのかと問う。


お淑やかな女性が、何故自分は選ばれてしまったのだと問う。


美しい顔に、苦悶を浮かべたアナスタシアが、何故自分なんかを救おうとするのだと問う。


そして、俺を見て消える。


逃げてんじゃねえ、甘ったれが。


追いかける、意識を、翼を駆使して、駆ける金の残滓を追いかける。


やがて、世界は白一面に変わる。

真っ白な翼を羽ばたかせながら飛ぶアナスタシア。

綺麗な青い瞳からは、涙がポロポロと流れ続けている。


「何故、来たんですか。私がどうなっているのか、貴方には分かっているはずです。」


「あのさぁ、だから来たんだろうが。」


「もうすぐ、私は貴方の為の試練に変わります。貴方を傷つける為の、より強い存在を創り出すための。」


あの夢の中身を思い出した時に、そんな気はしていた。

あいつが神だか宇宙人だか超次元生命体だか知らないが、とことん俺に絡もうってのかよ。


オリジンさんの、異世界のんびりまったりハーレムライフを邪魔するってんならそいつは敵だ。


神の試練とか、何も難しく考える必要なんて無い。受ける義理も無いしな。良いんじゃないの?そういう背景の娘が一人くらいいてもさ。


だから、


「お前も組み込んでやるぜ、アナスタシア。」


両手を打ち合わせ、一直線に飛翔する。

悲痛な表情をしながら、懸命に何かを押し留めようとするアナスタシア。


「駄目!傷付けないで!止まって!」


翼から幾く筋もの光線が放たれる。

ありゃ痛そうだな。だが、避けるなんて無駄はしねえ!


「フォートレス!アイアンスキン!ガードマジック!」


防御力マシマシで突撃する、体や翼に当たるたび、ヒリヒリとした痛みが走るが、そんなのは無視だ。


あと一息、俺は腕を伸ばす。

その腕が宙を舞った。


いつの間にか、手にした光る剣を手に持つアナスタシア。

慌てて離れた腕を掴み、傷口と繋ぐ。


「瞬間再生!」


ありがとうバンパイアガール。今度なんか奢ってやる。


「おいおい、そんな事までしちゃうのかよ。」


「だから、来ないで下さいと言ったんです。

お願いですから、出て行って下さい。私は、誰かを傷付ける為にこうなった訳じゃない、こうなりたかった訳じゃないんですから。」


意志と行動が一致しない、いや、操られているかのように、剣を振りかぶり突進してくる。


腰から剣を抜き、魔力を纏わせて対抗する。

アブソーブ、シャープウェポン、そして。


「カースインパクト!」


剣を弾き飛ばそうと思ったのだが、腎力で拮抗する、むしろ押されているぐらいだ。


いやいやと、首を振るアナスタシア。

力が一瞬緩んだかと思えば、アナスタシアは剣を自分に向けた。


させるかくそったれ!


絡めるように剣を差し込み、お互いに引き合う形の鍔迫り合いに。


「お前、お前さ、自分が消えれば良いなんて、思ってんじゃないだろうな?」


「…他に、方法が有るんですか?誰も傷付かない結末を、迎える方法が。」


悲痛な声で、しかし、強い意志を持って言い切るアナスタシア。


ああ、解った。

解っちまった、こいつ、本物のアホだ。


誰も悲しまない結末は、誰も傷付かない結末では無いかもしれない。そんな事は解ってる。

結局、アナスタシアは、とことん高潔なんだろう。

傷付けるくらいなら、いっそ自分が、なんて、そういう覚悟を持った奴なんだろう。


くだらねえ。

だから、鼻で笑ってやる。


「ハッ!閉じ籠った上に自殺とか、何処の引きニートだよ。

その言葉、ユーリカの前で言えるのか?

ガラルドやアリアにも、同じ事が出来るのか?

本当に、俺は、あいつらは、それで傷付かないとでも思ってんのか?

泣くぞ、皆。悲しむぞ、何時までも。

それで思うんだ、自分がもっとしっかりしていれば、自分がもっと頼りになれば、ちゃんとお前を見ていれば良かったってな。」


「だから!だから後悔してるんですよ!

こんな事なら、誰とも親しくならなければ良かった!

誰にも心を許さなければ良かった!

私もあの時、両親と共に逝ければ、どれほど良かったか!」


「おい。」


片手を離し、胸ぐらを掴む。

なんだよ、届くじゃねえか。

お前は拒絶なんかしてないよ、ただ、それを知らずに生きてきただけなんだよ。

俺にも、それがよく分かるから。


「何時までも甘えてんじゃねえ。前を見ろ。」


恐る恐る、アナスタシアは顔を上げる。泣きすぎて腫れぼったい瞼が、少し笑える。


「何が見える。」


「…貴方が見えます。」


「そうか、なら後は簡単だ。

いいか?魔族ってのはな、お前ら人間が思うよりも、もっと単純に、好き勝手生きてんだ。

笑いたきゃとことん笑うし、泣くときは大泣きさ。そんで辛い事とか、苦しい事とか、ガンガン騒いで流しちまう。

でもな、そこに居るのは一人じゃないんだ、仲間意識とか、そういうのかも知れないけど、アイツのやりたい事をやらせてやろうとか、言いたい事を言わせてやろうとか。

だからさ、俺がお前を魔族にしてやる。お前の願いを叶えてやる。

言えよ、アナスタシア。お前はどうしたい?どうなりたい?俺に、どうして欲しい?」


もう力なんて入っていない、ゆっくりと二人で落ちながら、それでも、アナスタシアは迷っている。


だから、抱き締めてやる、幼子にするように、背中を軽く叩いてやる。髪を手で漉いてやる。


「ほら、頑張れ、ちゃんと言葉にするんだ。甘えるなら自分にじゃなく、誰かに甘えろよ。

今ならヒーローが、目の前で飛んでるかも知れないぜ?」


しゃくり上げながら泣くアナスタシア。

じっと待っていると、飛び飛びながらも、その言葉を口にした。


「た、助けて、助けて下さい、オリジンさん、わた、私、まだ、皆と居たい、生きてたい、です。」


「ああ、任せろ。」


自信満々に笑ってから、俺はアナスタシアに口付けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ