強くなり給え、オリジン君。
昨日は更新できなかったです。申し訳ない。
今回もよろしくお願いします
大昔、一人の青年がいた。
才能にも体格にも恵まれ、武を競えば適うものは無く、魔法を競えば、皆彼に教えを乞うた。
彼はまだその言葉がない時代、狩猟者をしていた。
モンスターを狩り、人を潤わせ、仲間と飲み交わし、また戦いに。
ある時、彼は魔族の青年と会った。
その魔族は、魔族の王者、魔王と名乗った。
彼はその言葉を気に入り、魔王に、自分はどう見えるかと聞いた。
魔王は答えた。
勇敢なる者、勇者だと。
彼等は競い、友情が芽生えた。
共に戦い、共に笑い、共に悲しみ、共に支え合った。
そうして、二千年以上続く、勇者と魔王の物語になった。
いや、なる筈だった。
「滅び」さえこなければ。
「と、まあ、こんな感じかな?
決して誇張ではないよ、教会の歴史はほぼ真実さ。」
手帳のような本を広げながら、グラン爺は寂しそうに言う。
恐らくは直筆のその本は、その魔族との思い出なのだろうか、古くなったページを新しいものに書き換えたような、チグハグな模様になっていた。
言葉が本当なら、グラン爺は全ての歴史を知っていると言う事だ。
滅びが本当なら、三つの終わりもまた、存在する事になるし、撃退しかしていないのだから、或いはまだ生きているのだろうか。
「…その後、滅びが来てから、どうなったの?三つの終わりを撃退したって話だけど。」
「ああ、撃退したよ。
我輩含む、三十二人の勇者、六人の魔王、数万の軍勢、魔法使い。
戦いは何日も続いた、終わりの獣は爪の一凪ぎで何百ものイノチを奪い、終わりの巨人は森を喰らい、泉を飲み干し、終わりの龍は幾つもの村を、町を焼き尽くした。」
見たことがないはずなのに、その情景が浮かぶようだ。
必死に戦う人々、焼ける村、荒れる大地。
失われ続ける命の輝き、その重さに、ゾッとした。
「そんな時、一人の勇者が言った。
自分を不滅の存在に変え、命その物を燃やす秘技を使う、使い続ける。
だから、協力してくれ、と。」
その勇者が誰かなんて、聞くまでもない。
年月からしても、語り口からしても、恐らくは、その勇者がたった一人の生き残りなんだろう。
「初めに同調してくれたのは、最初に出会った魔王だった。
面白い、俺の力を全てやろう、彼はそう言って、勇者に自らの命を与えた。
人間の魔法使い達は、失われる事の無い命、穢れる事の無い魂に変化させるための魔法をその場で編み出し、実行に移す為に自らの全てを吐き出した。
残った魔族と、希望を信じた人々は、その時間を稼ごうと、無謀にも全員が突撃していった。
それだけの犠牲を出しながら、その身体を不滅に変えた勇者は、三つの終わりに挑んだ、何度でも、何時までも。」
遠くを見るように顔を上げ、自らの右手を翳す。
「お前では無かった、そう、声が聞こえた。
気のせいかもしれないが、勇者はその声に攻撃を止めた。
三つの終わりは満身創痍といった様子だが、まだ消え失せては居なかった。
しかし、そのまま何処かへと去った。
勝利と言っていいのかすら分からない戦いが終わった時、勇者に遺されたのは、尽きぬ命と、穢れぬ魂、そして、骨だけになった身体だった。」
語り終わったグラン爺は、自分の頭蓋骨を撫でた。
壮絶な話だった。
全てを失った勇者は、全てを識る魔王となり、そして今、俺に何かを告げようとしている。
「その声が、我輩の聞いた神の声だ。神では無いかもしれないけどね、まあ、何でも良かったんだ。
しかし、今後の為に何かを残さなくてはならない。そう考えて我輩は創世教会を作った。
神に関する情報が集まるように、神に対するアプローチが出来るように、とね。
まあ、その成果は今のところ無いわけだけど。」
肩を竦めて、最後は少し冗談混じりに言う。
徐々にだが、グラン爺が何を言いたいか、何に気付いたか分かってきた。
「一週間と少し前、感じたんだ、あの空気を、思い浮かんだんだ、あの光景が。
そして、ソレが現れるなら、そこには必ず、君が居ると我輩は考えたんだよ。」
それは、俺か会ったかもしれない誰か、あれが神なら、もしかしたら、また、滅びが訪れる、そう言う事なんだろうか?
ああ、駄目だ。
また悩みが始まってしまう。
俺が、俺のせいで、俺が来たから。
そうだ、全ては覚悟なんだ。
その全てを背負えるほどに、俺はまだなっていない。
「強くなり給え、オリジン君。
君は紛れもなく、最強の魔族になるだろう。
世界にその名を知らぬ者は居なくなるだろう。
我輩達には成し得なかった、新しい始まりにきっとなるだろう。
悩み給え、考え給え、そして、貫き給え。
それが出来るのが、君の一番良いところだと、我輩は思うよ。」
…ずるいよなあ、年寄りってのは。
若者の悩みを見抜いて、たった一言に落とし込んじまう。
有言実行。
俺は幾つもの大言を吐いた。
なら、それを実行に移すだけ。
今までと変わらない、これからも変えられない。
それがきっと、俺がオリジンであるという事なんだろう。
「キッツいよな、この世界は。
幼馴染とか、女の子達と平和によろしくやりたいってだけで、世界を救わなきゃなんないんだから。
まあ仕方ない、仕方ないよな、やるよグラン爺、俺はやる、守りたいものとか、山程出来ちゃったしね。」
答えはシンプルでいい。
世界に滅びが訪れようと、俺は自分の我儘を通すだけだ。
俺はこの人生に満足してんだ、邪魔すんな。
決意を込めて、グラン爺に視線を返す。
グラン爺は満足に頷いた後、幾分明るい口調で言った。
「なら、アグニ君には絶対負けられないね。
そこでだけど、オリジン君、ちょっと街おこしでもしてみないかい?」
とりあえず、意味不明である。




