立派なレディになることね!
今回もよろしくお願いします
旅とは。
その時期、その瞬間、変わりゆく景色を楽しんだり、現地の人々との暖かい交流があったり、突然のトラブルさえも笑い話になる、そんな不思議な物語である。
フローラルージュを飛び立った俺達は、一時間後には山頂に辿り着き、そこで軽い昼食。
下りは速度が出やすいため、やや速度を落としつつ進み、更に一時間経つ頃には、山間の清流で休憩をとった。
空にはほとんどモンスターの姿は無く、時たま現れる鳥系のモンスターも俺かエリーゼが瞬殺。
バンパイアの持つ、本来の魅了の力を思い知った出来事でもあった。
そんなこんなをしつつしばらく飛んでいると、眼下に小さいながらも麦の畑が青々と生い茂る村を見つけた。
「あれが荷物を預けた村だから。
ゆっくり降りてね、皆ビックリしちゃうから。」
「了解、畑の端の方に降りるか。」
麦の手入れをしていない場所を探し、そこに降り立つ。
野山の、あるいは農村特有の青っぽい匂いを堪能しつつ、歩いて村の方へ向かう。
途中、エリーゼに気付いた村人らしき人達(彼らはホープルと言う、人間に近い種族だ)が、こちらを見て驚いたような顔をしながらではあるが、エリーゼと共に俺も歓迎され、村に付く頃には20人程の集団となっていた。
「ほお、南の方からきなすったか。道理で洒落た格好をしとると思ったべ。」
「あんちゃんあんちゃん!南にはでっけぇ城があって、花がたっくさん咲いとるってのは本当か!?」
「それにしてもいい男だよ、ワシが後十歳若けりゃねえ、フォッフォッフォッ。」
なんて言う、田舎トークで盛り上がり、これも醍醐味と律儀に挨拶や返答をしていたのがいけなかったのか、はたまた田舎を侮っていたのが行けなかったのか。
村に付くなり、集団のリーダーらしき老人が、突然大きな声で叫んだ。
「皆のもの!エリーゼの姫様が南の男捕まえて帰ってきたぞぉぉ!!」
油断したなぁ、俺も昔は田舎に住んでたってのに。
辺りに響くおおっ、と言うどよめきと黄色い声。
途端に村は歓迎ムードになり、大牙猪鹿を狩って来いだの、一番良い酒を開けろだの。
あああああ、これ、もう否定出来んやつじゃねーか。
「おい、エリーゼ。どうすんだこれ。」
「オリジンはいざってときに弱いなあ。大丈夫!アタシに任せといてよ!」
聞いてみると、胸を張って答えるエリーゼ。
ああ、これ、先の展開が見えてるわ。
とりあえず今だけの事だろうし、諦めて流されるか、と肩を落とした。
「それでは、まだ真っ昼間ではございますが、姫様の目出度い門出にカンパーイ!」
「「カンパーイ!!」」
村中に響く乾杯の声、俺も注がれたジョッキを持ち唱える。
どうせなら料理も酒も楽しんでやろう、流石に飲酒飛行では引っ張られまい、と、村で作ったという麦酒を飲み干す。
…うっめぇ、これマジでビールだわ。
ユーリカこれ輸入してくんねぇかな。
南ではエールが主流で、俺にはちょっと上品過ぎる気がしてたんだよな。
ラガーの作り方なんか知らんし、しゃーないかと思っていたらまさか出会うとは。
すかさずおかわりを頼み、今度は半分位を飲む。
これこれ、このキリッとした苦いのがたまんねぇんだよ。しっかり冷えてるしな。
「いやー、良い飲みっぷりだねえ。」
「ああ、南はエールばっかでさ、やっぱラガーの方が俺には合ってると再確認したね。」
「そうかそうか、正直、北にはなんも珍しいものが無いからなあ、都会の兄ちゃんが気に入るものがあって嬉しいよ。」
聞けばこの人、ビールの製造を担当してるそうだ。
長期発酵はこう言う時間の長い村には向いてるとか、昔エール作ってて腐らせたとか。
知らない事ばかりだったが、楽しく聞かせて貰っていると、エリーゼが村の女の子に集られて、恋愛の秘訣なんかを聞かれていた。
「ねえ姫様、あんなカッコいい人どうやって捕まえたの?」
「そうね、まずは立派なレディになることね!
アタシぐらいになると、あっちから声を掛けてくるから、後は流れで、ね。」
「わあー、姫様カッコいいー!」
…なんだあれ。
まんま都会に憧れる村娘と、ハッタリかます準田舎モンじゃねーか。
俺も田舎出たばっかの頃は、やっぱ都会は凄いとか言ってたっけな…。
これもある種の厨二病だよな…。
このまま白熱した場合の嫌なパターンを予感し、ちょっと落ち着けようと出向いたが、敵は一手早かったらしい。
「ねえねえ、もうチューしたの?」
さて、逃げるか。
俺は踵を返し、さり気無く村の背景へと溶け込もうとしていたのだが腰に衝撃、飛んでまで俺の腰にしがみつくエリーゼを見て、顔を引き攣らせた。
「どーこ行こうとしてるのーオリジーン。アタシの名誉の為にさー、ちょーっとこっち来てほしいしー。」
こいつ出来上がってんじゃん。ベロベロじゃん。
いやまああれだ、例えばカミラなら、あいつ俺よりよっぽど年上だし、それっぽい言動だからすぐに気にならなくなった、だけどなぁ、
「いや、正直ガチロリはちょっと。」
「もー、『いいから来てよね』。」
あ、やられた。こいつマジでかけやがった!
くそっ、俺の精神耐性は高いはずじゃなかったのか!?
「その程度でーバンパイアのー、ましてやさー、アタシの魅了防ぐー、とか、無ー理ーだから。」
うわ正論超腹立つわ、こいつをどうにかして鎮めたい、と言うか、やり込めたい。
いっそ、このまま付き合ってやるのがいいか、こちとらコッチに来てからそっちのスキル上がりまくってんだよ!
「連れてきたよー。」
キャーキャーと声を上げる女性陣、ニヤニヤと期待したような男性陣。
「今からー、ホンモノのチューってのを見せてあげるー!アタシにはこのくらいヨユーだからー!ほら、オリジーン、ちゅー。」
吸血娘め侮るな。
ならば見せてやる、これが、俺の、覚悟だ!
「ほら、さっさと準備するし!アタシ先に行ってるから!」
借りていた部屋を真っ赤な顔で出ていくエリーゼ。
俺も外に出て井戸を借り、僅かに酒の残る頭から水を被る。
土産にビールも貰ったし、対価として造形の土魔法で村のあちこちを補修した。
その思い出だけで充分だ。
なんやかんやなんて無かった…無かったんだ!
と、自己弁護しながら村の広場へ。
村長を始め、村の皆が見送りに出て来てくれていた。
「また何時でも飲みに来てくだされ、何も無い所ですから、皆の良い刺激になります。」
「ありがとうございました、俺も好みの酒に出会えてよかった。
また来ます。」
そして、村の皆と握手したりハグしたりして、いよいよ出発。
旅路はまだ半ば、ってか半分も行ってない。
オリジン旅行記はまだ始まったばかりだ。
人物、種族、モンスターなどなど
○ホープル…農耕が得意な種族、見た目はほぼ人族。
あらゆる種族と仲良く出来ている、北の魔界の主要な種族。
○大牙猪鹿…大きな牙と角を持つ猪顔の鹿モンスター。草食で肉が美味い。
○オリジン…ついにロリコン。そんな覚悟は持たなくていいです。




