いいお顔になりましたね
今回もよろしくお願いします。
天気は快晴、隣には美幼女、前方には元気一杯の美人幼馴染。もうこれギャルゲーでいいんじゃないかな?と、思いつつも、腰に履いた剣と、ややズシリと来る軽鎧が、現実を忘れさせてはくれない。
ここは城からも見えた東の山、通称『獣峠』。
その中でも動物系のモンスターの住処が多く、第二隊がよく間引きに来ている地区とのこと。
出てくるのはそんなに強いモンスターでは無いらしく、民間の狩猟者(分かりやすくラノベ風に言うと「冒険者」だとか)もモンスターの素材を求めて狩りに来たりする場所らしい。
ついでに魔王軍について説明しておく。
まずは第一。
百花城の主戦力。主に戦闘が得意な種族の集まる、実質上の「魔王軍」となる。
次いで第二。
こちらはモンスター退治や、斥候、伝令、工作など、広く働く部隊。
手先が器用な種族、または、非戦闘系ながらも軍に志願した人達の多くが集まる、通称「なんでも屋」。
最後に第三。
ここの多くは兼業兵で、殆どが王都民。
街の治安や、街道の安全、更には防衛も行う、どちらかと言えば警備兵に近い部隊だ。
街の人達からは「守備隊」などと呼ばれている。
そして今回同道しているのが第二隊隊長のゴーフィ、何となく憎めない顔をした、妻子持ちゴブリンある。
「オリジン殿に会うのは初めてになります、第二隊隊長のゴーフィであります。
今回は周辺の確保を任務としておりますので、なにかお気付きの際は自分にお伝え下さい。」
「ありがとう、オリジンだ。
頼りにさせてもらうよ、ゴーフィ。」
しっかりと手を握る。
俺より二周り程も小さい手だが、しっかりとした兵士の手である。
俺も気配察知や生命感知などのスキルを持っているとはいえ、やはりプロは違う。
辺りに散っている第二の兵士たちは、それぞれが成果を挙げながら、目的地に向かっていく。
やがて、前方に拓けた場所が見えてきた。簡易的だがそこそこしっかりしてそうな木の小屋が数軒、周りには柵が立てられ、数人の兵士が見張りをしているのが見て取れる。
「あそこが拠点だよー。」
ユーリカが駆け足で拠点に向かう。
兵士たちが直立で敬礼する中、おつかれー、と言いながらユーリカが持って来ていた差し入れを渡していく。
「良い王でありますよ、陛下は。我らのような末端にも気を配って下さる、稀有な方だと自分は思うのであります。」
ほんと、自慢の彼女であります。
この周辺に出るモンスターの種類、戦い方、対策法。
それらを頭に叩き込み、いざ実戦へ。
初めは接待プレイをしてくれるらしく、一体だけをこちらに追い込むとのこと。
俺は気持ちを落ち着けながら、その時を大人しく待つ。
にわかに騒がしくなったと思えば、前方の藪が大きく揺れ、そいつは姿を現した。
おいおい、随分とデカイじゃないの!
追って来る者よりも、武器を向けていない俺に狙いを定めたのか、体高2メートル近く、犬か狼と、狐を合わせた様な三つ目の獣は、回り込むようにジリジリと動く。
視線を移す、カミラとゴーフィが頷いたのを見て、俺も剣を抜いた。
「ガアッ!!」
初手はモンスター、右手に走ったかと思えば急に角度を返し、飛び掛かるように前爪を振るう。
当然、見えている。
なるべく最小限になるように屈んで躱し、潜り抜け様に腹に剣を薙ぐ。
―浅いっ!
直ぐに反転し、今度はこちらから。
真っ直ぐに剣を構え、牙を剥き出した顔の側、首元を狙い突く!
当然のように首を捩って回避され、お返しとばかりに口を大きく開けて噛みつきにくる。
「シールドリリィ!」
俺を護るように花弁が開く。
同時に目隠しの効果を期待して、俺は跳び上がる。
「エアウォーク!」
空中を足場にし、モンスターの上まで駆け上がる。
モンスターは振り向いたが、俺はそこには居ない。
差し込む影で気付いたようだがもう遅い!
「カース、インパクトォ!!」
黒い魔力を纏わせた剣は分厚い筋肉と、堅い骨を叩き斬る感触を俺に伝え、地面を抉る。
血は出ない。モンスターとはそういうものらしい。
首、遅れて体が地に伏せる。
残心したまま距離をとり、動かないことを確認して、
「うおおおおおおおっ!!」
雄叫びを上げた。
この高揚を、勝利の感動を。
戦った相手の強さを。
そして、奪った命を。
全ての感情を吐き出すのに、雄叫びが一番手っ取り早かった。
これが、勝鬨なのかと、冷静な部分で考えつつ、興奮は冷めなかった。
罪悪感は覚えない。躯に手を合わせない。
そんな事をすれば、相手の価値を下げるだけだと、もう俺は知っているから。
「よし。モノになっておるようじゃな。」
「うんうん、正直無理かと思ったけど、倒しちゃったね。」
「保護者みたいな意見だなおい。
まあいいや、誰か、素材の剥ぎ方を教えてくれ。俺の手で最後までやりたいんだ。」
二人の言葉に少し照れつつ、ゴーフィに手取り足取り教えてもらう。
牙は途中で何本か折れたし、爪はギザギザ。毛皮はボロボロになったが、俺の初戦果だ。
「こいつでなにか作ったり出来ないかな?」
そのままゴーフィに尋ねる。
毛皮はマントや外套にはならなさそうなので、剣帯と鞘を。
牙と爪で鎧飾りとアクセサリーを作ればどうかと言われたので、後で街の工房に依頼することにしよう。
「さあ、どんどん行こう。俺はまだまだ戦えるぞ。」
その後、辺りが暗くなるまで、俺は戦い続けた。
体力も魔力も尽き、ヘロヘロになりながら夜の街へ凱旋する。
倒したモンスターは十二体、初めてにしては凄い戦果だと褒められた。
その素材は全て俺の装備品なりを作ってもらうように依頼して、城に戻る。
半分寝ながらの移動、やっぱり訓練と実戦は違うんだな。なんて考えながら、マキナの案内で部屋に戻る。
「いいお顔になりましたね。」
とは、マキナの言。
なんだか、一皮剥けたと言うことらしい。
ありがと、などと返しつつ、就寝の挨拶をして部屋へ。
ぶっ倒れるようにベッドに横になり、そのまま夢の世界へ。
なんだか今日は、よく眠れそうだった。
モンスターなどなど
○三つ目狼…狼と狐を足した様な目が3つあるモンスター。
オリジンが倒したのは、実は結構な大物。




