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死んだ幼馴染が異世界で魔王やってた  作者: ないんなんばー
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特別なことなんて無いんだよ

少し早めですが投稿します。

今回もよろしくお願いします。

「なにもね、特別なことなんて無いんだよ。」


広い会議室に今は二人。

他の皆は気を利かせてか出て行ってしまった。


「お肉を見て美味しそうって思ったり、氷を見て冷たそうって思ったり。そう言うの、オリ君もあるよね。それとあまり変わらないんだ、覚悟も。」


俺の手を触り、手遊びしながらユーリカは言う。

俺が頷いたのを確認して、ユーリカは更に続ける。


「武器を握ったとき、その人は、何かを選ばなくちゃいけない。

攻撃したいと言う、欲求。

傷付けたくないと言う、葛藤。

殺してしまいたいと言う、殺意。

守りたいと言う、倒錯。

持ちたくなかったと言う、後悔。

何かを選んで、人は武器を振るんだよ。」


俺が持っているのは、葛藤、だろうか。

そして今、後悔し、倒錯している。


「他にもあると言う人はいると思う。それは当たり前、人によって違うんだから。

でも、敵を前にして、武器を捨てられる人がどれだけいると思う?

逃げるにしたって、武器だけは手放さないよ。

手放せる人が居るなら、その人は、覚悟を持ってる。」


「それが、奪われる覚悟?」


言わんとすることを理解しようと、俺の考えを告げる。

それを聞いてユーリカは首を横に振る。


「奪わない覚悟。きっと、持てる人なんていない、そんな覚悟。」


「奪わない…覚悟…。」


恐ろしく弱い所を、ピンポイントで刺された気分だ。

奪わない、普通だと思っていた事が、それ程に難しいなんて。

逃げ道を塞がれたような気持ちになって、思わず唸る俺に、ユーリカは小さな、それこそ指一本分の長さほどのナイフを手渡す。


「さあ、オリ君は武器を持ったよ。考えて、考え抜いて、オリ君がどうしたいのかを、選んで。」


たった一本の小さなナイフ。便箋を開けても、リンゴの皮を剥いても、怪我なんてしそうもない。

でもこれで、奪うことができてしまう、傷付けることが出来てしまう。

俺は心底、恐ろしく感じた。


「えいっ。」


だからその光景が理解出来なかった。

ユーリカの手の甲から飛び出た、俺の握ったナイフの刃。


「覚悟がなければ、そうなるよ。」


手に感じる、濡れた感触。真っ直ぐに見詰めるユーリカの瞳。

情けない事に腰を抜かし、俺は椅子から滑り落ちた。


思考が止まっていた。何故?なんで?

そればかりが頭に浮かぶ。


違う、違うだろ。そうじゃないだろ。

考えろ、考えろよ、お前にはそれしか出来ないだろう。


ユーリカの行動を無意味にしないためにも、かんがえ


「あ…」


握り締めようとした右手を見た時、また思考が止まる。

赤く濡れた手が、思考を止める。


何を考えれば良かったのか、それさえも判らなくなる。


体が震える。心臓が、痛い。


「ねえ、オリ君。」


声にハッとする。今、あの瞬間、世界が遠くにあった気さえする。

自分の息が荒い事にすら気付かなかった。

ユーリカの手は、既に癒やされていて、布で血を拭っていた。

まるで、夢を見ていたみたいだった。


「…これが、覚悟が無かったって事なのか。」


手はまだ震えている。

心が悲鳴を上げている。


「そうだね。きっと皆、初めはそうだよ。

…ちょっと辛いことを思い出させるかもしれないけど、思い出して答えて。

私を撥ねた人はどうなったの?」


思い出す、あの光景を。

それから少しして、あの男が死んだ事を。


「…死んだよ。首を吊ったらしい。」


「そっか、そっちを選んだんだ。どうしようもなくて、逃げちゃったんだね。

オリ君、それがね、覚悟無き者の末路。このままだと、いつかオリ君が辿り着く未来。」


思わず目を見開く、違う、嘘だ、なんて、口に出来なかった。

この震えを、寒さを、恐怖を、あるいは何倍も味わったのか、あの男は。死に逃げなければならない程に。

同時に、理想ばかり語って、何の覚悟も持っていなかった俺が、酷く情けない存在に見えた。


「誰もが綺麗な事を言うんだ、奪わせない為に、あの人の為に、守るべき者の為にって。

けどね、誰かの為に決める覚悟なんて、ほとんど嘘っぱちだよ。人のせいにしてるだけ、したいだけ。

オリ君は、オリ君の為に覚悟をしなければいけない。それが唯一、オリ君の想いを叶えるためだから。

だってそうでしょ?

誰かを傷つける度にそんな顔してて、いったい、誰を守れるの?」


厳しいな、お前は。

本当に、お前が居てくれて良かった、お前と一緒で良かった。


守りたかった。ユーリカを、皆を、誰かを。

その為なら、俺はきっと、何でも出来ると思っていた。

でも、それは免罪符を探していただけだったのか。誰かのせいにしたかっただけだったのか。

これは俺の罪じゃない、仕方のない事なんだ、と。

奪わなければ、奪われてしまうじゃないか、と。


見ると、手の震えは止まっていた。

胸にストンと落ちたそれは、とても簡単な事だった。

必要な事を、必要な手段だと思えば良かった。ただそれだけ。

特別なことなんて、何も無かった。


「俺はきっと、肝心な時に上手くやれないぞ。」


「うん、これから頑張ろう。」


「また悩んで、落ち込んで、お前には迷惑を掛ける。」


「うん、大丈夫、解ってるよ。」


「これが、覚悟なのかは判らない。もしかしたら、まだ勘違いしてるだけなのかもしれない。

でもやっぱり、お前を守るのは、俺でありたい。」


「うん。」


「ユーリカ、ありがとう。

俺さ、なるよ、オリジンに。お前の望む、最高の魔族に。」


「うん!」


元気よく返事をして飛びついてくるユーリカを、俺も抱きしめ返し、二人で床をゴロゴロ転がる。


バカみたいな事をやって、思わず笑いが溢れた。

腕の中にある幸せを、きっと扉の前で聴いてるだろう皆を、守れるのだけの男になりたいと、そう思った。


「もうちょっと、イチャイチャしてから皆を呼ぼっか?」


「おういいぞ、最近忙しかったしな、お互い。」




俺は、ここで、生きていく。生きていきたいんだ。


愛してるぞ!ユーリカ!皆!


とりあえずシリアスさんは今回までです。

お疲れ様でした。

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