ユーリカ、俺に教えてくれ。
ちょいシリアス、今回もよろしくお願いします。
勇者からの手紙が来てから一夜明け、俺はまた訓練に精を出す。
手紙の中身が気になったりもするが、そんな事ばかり気にしていたら(肉体的に)死にかねないので、努めて訓練に集中する。
今日は半分は自主訓練である。
グロリアはまだ戻っていないので、城に残った兵士さん方に、普段通りの訓練を教えてもらいながら、雑談したり覚えたスキルを見せたりと、和気あいあいとやっていた。
「オリジン殿ー!今帰ったっすよー!午後から軍議らしいっす!ご飯食べたら行くっすよー!」
さて、続きを、と思った矢先、空からグロリアの声が。
見上げると、背中から生えた竜の羽を逞しく羽ばたかせ、ゆっくりと降りてくるグロリア。
「おかえり。軍議って、勇者関連か?」
「そうみたいっすね、陛下もおじーちゃんも何か超楽しそうだったっす。」
「うへぇ、やな予感しかしねえな。」
そう、あの二人が超楽しそうな時、それは俺にとって心より肉体を擦り減らす出来事が起こるのである。
例えば、武術の訓練中に、
「対魔法戦も練習しなきゃねー!」
と言って攻撃魔法をブッパしていく魔王が居たり。
「自分の限界を知るのも大事なのである。」
と言ってひたすらフルボッコだドン!にされたり。
あれ、もしかして俺、遊ばれてる?
「なにボーッとしてるっすか、早くご飯行くっすよ。」
「しゃーない、行くか。」
取り敢えず、頑張って生きましょー。
よし、まずはいつもの肉増し増しの昼飯を食うとこから始めるか。
昼飯を食べ終わり、食休めにゆっくりと会議室(食堂ではない)に歩く。
昨日観光モドキをしたおかげで、迷うことなくすんなり辿り着くことができた。
扉の前には既にユーリカが待ち構えていて、その笑顔を見た瞬間、なんかやな予感が天元を突破し、無限の彼方へ飛び立つのを感じた。
「お疲れ様です魔王様、自分これで失礼しまっす。」
「だめだよオリ君、さあ中に入ろうか!」
ですよねー。
会議室に入ると、カミラとグラン爺も居て、ニヤニヤとコチラを見ている。
やっぱこいつら、俺に何かやらせる気だと再確認。
促されるまま席に座り、目の前に紅茶が用意されて会議スタート。
おもむろに例の書状を取り出したクークーが、一つ咳払いをして話し始める。
「お忙しい所お集まりいただき、誠に有難う御座います。
只今より、緊急会議を開かせて頂きます。」
一同拍手。てかそれはニートミーに対する嫌味ですかなクークーさん。
「さて、先ずは会議の発端となったリーベンス国の勇者殿からの書状を読み上げさせて頂きます。」
それは、拝啓、から始まるような生真面目な手紙だった。
季節の話や(今が夏だと初めて知った)リーベンス国の近況報告、またはこちらのご機嫌伺いなど、何と言うか、成り立て社会人が色々と調べながら書いた手紙のようで、大変好感の持てるものだった。
「付きましては、勇魔規約に基づき、一月後に百花城を攻略させて頂きます旨、お伝えいたします。
かしこ。
リーベンス国新勇者ガラルド=ルイ=ヤード。
以上で御座います。」
クークーは一礼し、一歩下がる。
皆は拍手を送っているが、あれ、これって宣戦布告なんじゃないの?
え、気にしてるの俺だけ?
「なあ、これって宣戦布告だよな?」
「うん。勇魔規約って言ってね、新しい勇者が任命された時に、何処かの魔王城に攻め込むんだよ。
それで、魔王側も防衛人員をたてて防衛する。まあ、一種のデモンストレーションだね。」
「…要は、侵攻戦みたいなものか?」
「んー、少し違うかな。侵攻戦は何かを奪う為の戦いなんだけど、勇者による攻略戦は、どちらかと言うと勇者自身が認められるための戦い?みたいな。」
「なんか、都合の良いゲームみたいな話だな。現実感が薄いって言うか…」
「それは違うよ。」
ハッキリとした何かを掴めないまま自分の考えを上手く伝えられないでいると、ユーリカが真剣な声で遮った。その声があまりに強く感じられて、
「違うんだよ、オリ君。
確かに、侵攻戦も攻略戦も、死人なんて出さない為の、戦争をしない為のものだよ。
でも、攻めてきたカミラも、今度来る勇者と仲間たちも、迎え撃つ私達も、皆、命を奪う覚悟がある、奪われる覚悟がある。
私もね、命を奪ったことは、あるんだよ。」
その声が、あまりに、真っ直ぐすぎて。
ああ、俺はまだ、ただの客でしか無かったんだと、痛感した。
押し黙ってしまった俺を気に掛けてか、会議の方は進まず、やれヤード家は三代続けて勇者を出したやら、現状の勇者不足に光明を示せる勇者であれば良いとか、とにかく俺に関わらない話題を広げてくれる。
頭がクラクラするほど、考える。
奪うってなんだ?覚悟ってなんだ?
それをしてどうなるのか、されてどうなるのか、全てを飲み込む必要があるのか?
確かに今、刃を人に向けて訓練している。
でも、グロリアを、気の良い兵士の皆を、乱入してくるユーリカやドラグを、傷付けることなんて考えてもいない。
これは、甘さなのか?
無意識な自己保身?
刷り込まれた道徳心から来る葛藤?
アグニは言った、死ぬ迄の四か月と。
そうだ、きっとアグニは殺すつもりで俺と戦うのだろう。それはきっと覚悟なのだろう。
対する俺は?死なないつもりで、死にたくないから戦うのだろう。
そこにはきっと、覚悟なんてものは無いのだろう。
解らん、解らない。
誰か、誰だっていい。
俺はどうすれば良い?
どうすれば、どうにかなれる?
俺は何が出来る?何になれる?何を
、守ればいい?
「オリ君。」
俺は、お前を守りたいと思った。それだけの事が、こんなに遠い。
「ごめんね。」
ふんわりと、抱き締められる。
ユーリカの優しい匂いがする。
「きっと、沢山悩んでくれてるんだよね。オリ君はいつもそうだった、考えて、考えて考えて考えて、それはいつも、誰かの為で。
私はずっと、そんなオリ君が大好きだったの。だから、今度は私に助けさせて?」
違う、違うんだよ、ユーリカ。俺はいつも自分の事ばかりで、大事な事は何も自分で決めなくて、お前が居ないと何も出来なかったんだ。
お前の事ばかり考え続けて、逃げていたんだ。
「オリ君がそんなになったのは私のせい、奪われる苦しみを、オリ君に教えてしまったから。
この世界に来て、私はそのことをずっと悔やんでた。
でも、魔法や不思議な事が一杯あるこの世界で、もしかしたらまた、オリ君に会えるかも、なんて希望で誤魔化して、逃げてただけなんだ。
だから、一緒に考えようよ、今度は逃げ出さないで、二人で。」
その顔は、まるで俺の知らないユーリカだった。でも、それは当たり前の事なのかもしれない。
俺が見ていたのはユーリカだけど、友梨佳で、でも、本当は分かってて、気付かないふりをしていて。
この時に、俺はようやく彼女がユーリカで、俺はオリジンなんだと言うことを理解したのかもしれない。
「ユーリカ、俺に、教えてくれ、俺は、どうすれば、何かになれるんだ。」
きっと俺は泣いているんだろうな、こんなにも情けない声が出てるんだから。
ユーリカは少し涙汲みながら、いつも通りだよ、オリ君。と、笑った。
人物などなど
○オリジン…彼はようやく、オリジンになった。




