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一応後日談的なモノ



この私にとって後味の悪い出来事は翌年に起こるはずだった『婚約破棄騒動』を事前に潰していたと知ったのは第一王女殿下が婚姻した時。

第一王女殿下が隣国の第二王子を婿養子に迎えたその時に第二王子から聞かされたのです。


第一王女殿下と隣国の第二王子は幼い頃からの婚約者です。

第二王子が第一王女に一目ぼれして強引に婚約者にしたというのが公に知られている情報です。


実際は、城下町にお忍びで遊びに来ていた第二王子が誘拐されそうになったところを同じくお忍びで遊びに来ていた第一王女が救ったのがキッカケ。

「女に助けられるなんて」と第二王子が一方的に第一王女をライバル視していたのですが、時折見せる第一王女の女の部分にときめいてしまったそうです。

そこから坂で転げ落ちるように第一王女への愛に目覚めていったそうです。(第二王子の従者談)


いわゆる、ギャップ萌え(?)というものらしいです。

第一王女殿下は時折、ストレス発散とか言いながら男装して剣を振り回していましたからね。

未だに第一王女の男装に憧れる女性は多いみたいです。


閑話休憩おわり。


なんでもこの世界は別の世界で描かれている『物語』にそっくりだというのです。

そういえば、第一王女殿下も昔から同じような事を仰っていましたね。

「本当なら私は男に生まれ、貴女の婚約者になり、貴女の義妹と恋におち貴女を無実の罪で死に至らしめるはずだった」と。

初めてお話を伺った時は何かのご病気かと思い、医師を呼びましたけど。


たとえこの世界が『物語の世界』だとしても私たちは自分たちの意志で生きているのです。

ここが現実なのです。

誰かに決められた人生を歩んでいるわけではありません。


殿下達が仰る『物語』では私は『悪役令嬢』になるはずだったそうです。

愛人さんの娘さんが物語の主人公で、私は彼女を徹底的に苛める義姉で、最後に父に国外追放を言い渡されその移動中に殺される役どころだったとか。


その話を聞いても私は何も感じませんでした。

殿下達の仰る物語の人物と私は全くの別物でしたから。


月の光を集めたような美しいプラチナブロンド。

宝石を閉じ込めたような青い瞳。

日に焼けていない大理石のように白い肌。

リンゴのような赤く色づいた唇。


って、私の容姿に一つも共通点がありません!


私の髪は闇夜のように真っ黒。

これは私の魔力が多い証拠だそうです。

私達が生きる世界では黒に近いほど魔力が強いのです。

瞳は光の加減によっては青く見える時もありますが基本黒。

外で走り回るのが好きだったので肌はほんのりと日焼けしてそばかすもあります。

唇はほんのり赤い程度です。


『物語の中の私』は王太子の婚約者だったそうです。

幼い頃に出会い、大事に育んでいた想いを義妹に土足で踏みにじられ、婚約者をとられてしまう。

大好きな婚約者を奪われ、嫉妬に狂い……って、本当に物語ですわね。

婚約自体は家同士の繋がりが前提だけど、『物語の中の私』と婚約者は互いに惹かれあっていたらしいのです。

それを、義妹に甘い父親によって立場を奪われるというのだから……『物語の中の私』は貧乏くじを引かされておりますのね。


現実を見れば、我が国に王子はおりません。

王女殿下が3人いるだけです。

私に婚約者ないし恋人はおりません。

縁談の申し込みすらありません。

学院で出会った異性は皆友人です。

友人以上になりえないのです、皆さん素敵な婚約者をお持ちですから。


まあ、ちょっといいなと思う殿方はおりますけど……

まだ、私の心に小さな炎を灯したばかりなのでこれが『恋』なのかはわかりません。

ただの『憧れ』の場合もあり得ますからね。

一応、その方は今のところ、おつきあいしている恋人も婚約者もいないという事は調べてあります。

が、どうやら愛しい人……片思いをしている方がいるらしいという情報がこの頃入ってきているのでちょっと複雑です。



殿下達もここが現実世界であることは十分に理解されていると仰っておりますが、何かにつけて『もしも……』などと話をされます。

私個人としては殿下達には過去のもしも話よりも未来を見据えてもらいたいのですが……日々の公務でストレスをためていらっしゃるようなので息抜きになればと右から左へと聞き流すことにしております。



「そういえば、隣国に留学するんだって?」

一通りのもしも話が終わると、数日前に決まった私の留学話が出てきました。

実は、前々から申請を出していたのですがなかなか国からの許可が下りずにいたのです。


許可が下りないので、学院を卒業後は魔導士協会に所属し魔導士として働いております。

魔導士は基本黒いローブを羽織るので、私の姿はさながら絵本に出てくる魔女そのものです。

魔導士協会に配属されて間もない頃、上司となったロビンの命令で、初等科(幼い子供が学ぶ学校)で魔導士の正装のまま寸劇をしたら『魔女のお姉さん』という名前を頂いてしまいました。

今では慣れましたが付けられた当時は一々反論していました。

その後、初等科の子達だけではなく、魔導士協会内でもこの名が広がり一々反論するのに疲れたので自由にさせています。


書類整理の日々ですが時々は魔術師としてのお仕事も振り分けて頂いております。

王宮にある魔導具の点検だったり、騎士たちの訓練のための幻獣を作ったり、低級の魔獣召喚だったり。

ロビン曰く私の魔力は膨大でここで燻らせておくのは惜しいと上に掛け合ってくれていました。


我が国の魔術研究は他国よりも遅れておりますので、他国の最先端技術を取り込むために数名が留学することが決定したのが数日前。

ただ、私を国外に出すことに多くの大臣が反対したとか。


魔術の侯爵家と呼ばわれる我が家の後継者が私一人だからです。

私にもしもの事があったら国としてバランスが崩れるからです。

一応、我が家とつながっている伯爵家と子爵家はあるのですが、どちらの家にも私と同等またはそれ以上の魔力を有している子供がいないのです。

むしろ、魔術よりも剣術が得意で騎士として働いています。


私の留学が決まったのは宮廷筆頭魔導士であるエクトル様の鶴の一声でした。


「我が国は他国に比べて魔術の研究が著しく乏しい。また、我が国は魔力を有していてもそれをうまく利用できる者も少ない。ここは、魔術師の総本家であるシュナイト侯爵家の跡継ぎでもあるクリスティーナ様に国を代表として留学していただきたい。クリスティーナ様の魔力は我が国で比べる者がいないほど有している。が、我々はその力を存分に発揮させることが出来ない。ならば、クリスティーナ様自身が魔術が盛んな隣国に留学して見聞を広めて頂いた方が我々も助かるのではないだろうか」


など延々とご自分の考えを披露して私の留学が決定したのです。


まあ、条件として週一で報告書を送ることを義務付けられましたが……


あと、ロビンが私の従者として付き添う事になりました。

その事をロビンに話している時のエクトル様はどこか悔しそうな表情を浮かべていたのはなぜでしょう。


「あはは、お嬢はまだ気づかなくていいよ。今は隣国での魔術ライフを満喫できるように準備していればいいさ」


ロビンは何か知っているようですが、私に関係する事ではないという事でしょうか。

あ、エクトル様も隣国に留学したいという事でしょうか!

筆頭魔導士という役職の為、王族の付き添い以外で国から出ることを禁じられていますからね。


魔術大好きなエクトル様にとって今回の隣国への留学はご自身が参加されたかったのかもしれません。

微力ながら私はできる範囲でエクトル様のご期待に応えますわ!

我が国の魔術発展のために頑張ってまいりますわ!


「お嬢はどこまでいってもお嬢だよな。こりゃ、エクトル様が苦労するのも分かるわ~」


私がこっそりと決意を新たにしている後ろでロビンがそんな風に呟いていることに全く気付きませんでした。


***


隣国に留学して最初は文化の違いや、魔術技術の差に驚かされました。


我が国が他国よりも劣っているのは知っておりましたが、その落差が大きすぎました。

私が学院で学んだ事は、こちらの国では初級編でした。

恥ずかしながら、私は自分は高位魔導士だと思っておりましたが、こちらでは下級クラスでした。


幸いにも留学先の学園の方達は優しい方ばかりで、無知な私にも親切丁寧に教えてくださっております。


半年たった今、やっと私は中級レベルの魔術を取り扱う事を許されました。

こちらの国では個々の能力にあったレベルの魔術しか取扱いできません。


「身の丈に合った術じゃないと暴走した時、死んじゃうからね」


一番最初に言われたのはこの言葉でした。


術の暴走。


確かに、我が国では術が暴走した場合それを治めることが出来る者がおりません。

運が良ければ生き延び、運が悪ければ死ぬだけ。

そう教えられてきました。

我が国の魔術が他国より劣っているのはこれが原因ではないでしょうか。

誰しも死ぬかもしれないという出来事は避けて通りたいものです。


私があの母娘から逃げたように。


そういえば、あの後の話をあまり聞きませんね。

ロビンに聞いても笑みを浮かべるだけで教えてくれません。

クレスト様も同様です。

あと、おじい様に尋ねても『今は知る必要はないよ』と返されます。


うーん、今はという事はいずれ教えてくれるという事でしょうか。

それとも、自力で辿りつけと……


ですが、私は隣国に留学してから魔術の魅力に取りつかれてしまったようです。

あの母娘のことを思い出すのはそれから2年後。

留学期間を終え、祖国に戻った時でした。


あの母娘は、王宮でも騒ぎを起こし、あろうことか第一王女殿下の婿君に言い寄っていたとか。

婿君は「大丈夫だよ。僕が愛しているのは姫だけだからね。それに、ああいう連中のあしらい方は祖国でも経験済みだから」と満面の笑みを浮かべておりましたが、どことなく疲労感を漂わせておりました。

まあ、それも第一王女殿下が姿を見せれば霧散しておりましたけどね。


なぜでしょう。


第一王女殿下の前ですと婿殿が犬のように見えるのは。

こう、第一王女殿下がいらっしゃるときの婿殿は尻尾を振り続ける犬のように見えるのです。

第一王女殿下に無視されると耳を垂らして、寂しそうな視線を送っているのは気のせいでしょうか。


一度、第一王女殿下に伺ったことがあります。

その時の殿下の答えは「ふふ、子犬みたいで可愛いでしょ」でした。

婿殿はすでに完全に王女殿下の尻にひかれておりました。


しかし、公の場ではきりっとした姿を見せるので、年頃のお嬢様たちからは絶大な人気を誇っているそうです。



もうしばらく続きます。

次はおじい様(視点)編予定


タイトルと中身があっていないので、後日タイトル変更するかもしれません。


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