詐欺師
「ど、どうも」
あまりにもいきなりの出来事だっのでどう反応すればいいか迷う翔太。
「えっと、人狼部に入部したいってことでいいんです、よね?」
さすが誠といったところか、突然の出来事にいち早く冷静に対応する。
「え、えと、はい!」
後輩である翔太達相手に思わず敬語になってしまう京子。
「先輩なんですから、敬語じゃなくていいですよ!私たちも自己紹介しますね、1年A組の小野香織です!」
相変わらずの優しい笑顔で迎い入れる香織。
「同じく、Aクラスの桜井誠です。今のところ、部員は僕たち3人だけですけどね。」
「んで、俺が伊角翔太!古川さんですね?よろしくっす!」
「京子でいいよ!それに伊角君、君のことは知ってるよ?」
気さくな対応を見してくれる京子だが、翔太は何の事か全然わからない様子だ。
「覚えてない?入学式の時に廊下の曲がり角でぶつかったでしょ?」
「あ!そういえば!あの時の人だったんすね!その節はどうもすいませんでした…」
やっと思い出した翔太に、気にしてないと京子は笑顔で応えた。
「それにしても京子さん、よくそんな一瞬で顔まで覚えていましたね。」
京子の記憶力に驚いた誠は素直な感想を述べる。
「へへん!記憶力には自信があるんだよ!」
そのあまり大きくはない胸を前に突き出して自慢気なポーズをとる京子。
「京子さーん!良かったです!実は女子が1人で寂しかったんですよ!」
初対面にも関わらず京子に抱きつく形で距離を詰める香織に、京子は嫌な顔せずヨシヨシと頭を撫でていた。
「香織、そんな事思ってたんだ…」
そんな香織をみて、翔太と誠は苦笑いしていた。
ともかく、京子が新しい人狼部の一員になったことで部室の雰囲気はさらに明るくなったようだ。
「そうなんですかぁ。推理ゲームや推理小説が好きでこの部活の噂を聞きつけて来てくれたんですね〜」
「ええそうなの!人狼ゲームといえば、お互いの陣営に分かれて、信じ合い、時には騙し合う、至高の推理ゲームだからね!」
さっきまでの敬語口調も直り、完全に打ち解けている。
「お!京子さん、さすが人狼の魅力をわかってるじゃないですか!」
翔太もまた人狼の魅力がわかる同士に出会えて嬉しそうであった。
「で、とりあえず5月にある合同練習に向けて部員を集めるって感じなんですよね。」
席につくなり、誠がわかりやすく人狼部の現状を京子に説明した。
「う〜ん。なるほどね。けど2年生はほとんどの子が部活に入ってるし、2年生は難しそうかな…」
申し訳なさそうにする京子。
「ですよねぇ。それで放課後の教室を見張って、まだ部活入ってない子とかを探そうかなって」
暗くなかけた香織たちをよそに何かを思い出したような仕草をする京子。すると、
「あ!そういえば!」
「どうしたんすか?!びっくりした…」
急な京子の言葉に驚く。
「驚かせてごめんね。噂なんだけどね?新入生の中に何か問題がある生徒が入ってきたって友達が言ってるのを耳にしてさ、確か名前が…嘘つき?だったかな?何だっけ?違うような…」
そう京子が名前を思い出そうとしていると
「詐欺師。じゃないですか?京子さん。」
「あ!そうそれ!詐欺師だ!何かすごい嘘つき呼ばわりされててね、被害にあった新入生から恐れられて詐欺師ってあだ名がついたって!」
誠の答えが正しかったようで、その問題のある生徒は詐欺師と呼ばれているようだ。
「詐欺師ねぇ。ちょっと怪しいけどつまりそいつは嘘が上手いってことだろ?なら俺たちの人狼部にぴったりじゃねえか?」
「けど詐欺師だよ?翔太。怖い人かもしれないよ?」
もう勧誘する気満々の翔太に比べて、香織は不安な色を見せていた。
「あくまで噂だから信用できないんだけどね。」
誠は他クラスの生徒からその詐欺師なる生徒については聞き及んでいたが、大して信じていなかったようだ。
「まあ、嘘かどうかは行って確かめよう!ってことでその詐欺師を探しにいくか!」
新入生の中で詐欺師と呼ばれる人物を探すことになった翔太たち。
日付は変わって、翌日の昼休み。
翔太達はあるクラスの前まで来ていた。
ガラガラ
「すいませーん、ここに詐欺師っていますかー?」
1年Cクラスの前で、あまりにも不躾な呼びかけをする翔太。その横で誠と香織は苦笑いするしかなかった。
翔太の問いかけに、昼休みの喧騒の中にあったCクラスの生徒達は一瞬で翔太の方に視線を寄越した。しかし、生徒達は何事もなかったようにまた喧騒へと戻っていった。
「あれ?いないのかな?それとも詐欺師って噂はやっぱり嘘だったのかな」
香織と誠がCクラスの様子を確認していると、後ろから声がした。
??「ん?誰だおまえら?んなとこ突っ立てると邪魔だ」
廊下から教室へ入ろうとした生徒にそう言われる。
「お、これはすまねぇ。あ、そうだ。このクラスのやつだろ?詐欺師って呼ばれてるやつ知らねえか?」
翔太の言葉にその生徒は少しだけ眉を動かし、
??「詐欺師か、知ってるぜぇ?とてもよく知ってるぞ」
「お!本当か!教えてくれ!」
??「教えてやりてぇが、そいつは無理な相談だ。たぶん詐欺師はお前に用はねぇと言うだろう」
「んなこと聞いてみねぇとわかんねえだろ?」
??「無駄だ。詐欺師はそういう奴だ。俺は詐欺師の知り合いだからよく知ってんだよ。じゃあな」
「ちょ、おい!待てよ!お前知り合いだろ?お前、名前は?」
もう教室の奥に消えていくその人物は背を向けたまま、
「五十嵐だ。五十嵐敦。」
ぶっきらぼうに答える。長い肩まである髪を鬱陶しそうに搔き上げるとクラスの奥へと溶け込んでいった。
と同時に昼休み終わりのチャイムが鳴り、翔太たちは教室に戻ることを余儀なくされた。