部員4人目
校門前にて
「人狼部でーす!よろしくお願いしまーす!」
入学式を終えたばかりというのもあり、新入生達の朝の登校姿にもまだ笑顔が見える中、香織の元気な声は人一倍響いていた。
しかし、全くと言っていい程、誰も興味を示さない。
「あー!誰も受け取ってくれねえよ!」
篠原に人狼部設立を認めもらってから1週間が経った。だが、翔太達はまだ1人も勧誘出来ずにいた。
「仕方ないかもね。人狼部ってどんな部活か理解し難い部活だからね…」
中々、興味を抱いてくれる生徒がいない事実に多少なりともショックを受けていた。
篠原が提示した7人という人数も、決して短期間で集めろという意味でないことは分かっている。何より翔太達からしても人狼ゲームを行う上で人数は多いに越したことはない。
だが、時間が過ぎるほど他の新入生も入りたい部活を決め出してしまうから、早く勧誘する必要があった。
そんな翔太達がビラ配りをする一方で、とある女子生徒が校内を走り回っていた。
??「やっぱり人狼部だよね?そんな部活が私達の学校にあったのかな?ううん、とりあえず探してみなきゃ!」
黒髪のポニーテールを揺らしながら廊下を駆けていくその生徒は西住高校の部室棟へと向かっていた。
翔太達のビラ配りも虚しく、今日も勧誘に失敗に終わろうとしていたその矢先、HR終わりの篠原が声を掛けてきた。
「おーい、伊角。ほらよ」
唐突に何かを投げてきた篠原。
「う、おわっと。何すか?この鍵?」
「元人狼部だった部室の鍵だ。自由に使っていいぞ」
唐突な事に驚く人狼部の3人。
「部室?やったね!何か部活っぽい!」
そう笑う香織。
「肝心な部員集めは難航してるけどね…」
少し苦笑いで誠が答える。
「まあでも、これで人狼ゲームできる場所が確保できたじゃん!サンキュー、先生!」
背を向けながら歩き、片手を挙げて反応する篠原。すると一度振り向き、
「あ、そーいや言い忘れてたが、5月に他校と合同練習を組んだから部員集め、急いどけよ」
そう言い残すとすぐさま去っていった。
「先生、いつもいきなり過ぎんだろ!」
そんな翔太のツッコミも虚しく早々に篠原は教室を後にしていた。
「にしても、他校と練習って楽しみだな!」
テンションが上がっている様子の翔太。
「でも、本格的に集めないと大変だね」
元人狼部が使っていたという部室へと向かう3人。
「放課後にさ、一人で教室にいる子とかにも声掛けてみよーよ!まだ部活決めてないかもしれないじゃん?」
そんか会話をしながら香織達は部室棟へと辿り着いた。
薄れた看板にうっすらと人狼部と書かれているのが見える。
「ここだよな?開けるぞ」
ガチャ
そこには、変哲もない普通のパイプ椅子や長机が置かれた教室の3分の1程度の大きさの部屋があった。
「わぁ〜、何かマジで部室じゃん!」
一目散に部室へと入ったのは香織であった。
「棚には人狼ゲームのカードや、本、DVDなんかも置いてあるね。」
誠も興味が出たのか、部室の物置などを物色する。
肝心の翔太は、初めての部室に感動したのかずっと扉を開けてから黙っていた。
すると、
「いや〜ここまで整っといて、部員集まりませんでした。ってのは嫌だな!」
「よし!何が何でも、どんな手を使っても部員を集めてやるぞ!!」
よく、見た目から入るという表現が使われる場合がある。それに近いものがあったのか翔太はますます人狼部に対する想いを強くした。
コンコン、バッ、ガチャン!!
3人が人狼部の部屋を片付けしながら整理をしていると、誰かのノックの合図と共に部室の扉が勢いよく開かれた。
??「ここですか!!人狼部の部室は!探しましたよ!!」
そう唐突に言い放ったのは、黒髪でポニーテール姿をしたメガネをかけた女子生徒だった。
「………」
部室内の静まった空気を察したのか、
「はっ!申し遅れました!私は2年B組の古川京子と申します!」
「この学校に人狼部が出来たと聞きました!人狼ゲームとは中々に面白い事をしますね!推理オタクである私の血が騒ぎますよ!なので、是非私をこの部活に入れてください!」
そう言いながら頭を下げた女子生徒を見ながら翔太達はリアクションを取れずにいた。
思わぬタイミングで新入部員のチャンスがやってきたのである。